空 第6話

〈 お盆 〉


いよいよ、明日からおばあちゃんの家へ行ける。
しかし、熱下がらない。お母さんは諦めようかと言うが、私は断固反対した。

お母さんの検温のために階段を登ってくる音が聞こえてきた。私の布団をお母さんが捲る寸前まで、氷枕と濡れタオルで体温を下げて、何とか熱を誤魔化した。
そして何とか祖母の家でま来ることができた。

祖母の家に着くと、大抵、従兄弟と裏の山の麓の辺りの小川で遊ぶ。みんなは川でバシャシバシャやってるけど、私はやはり具合が悪かったので、岸に座って膝下くらいまで水につけて、横たわっていた。


頭のすぐ近くのくぬぎの木の幹を蟻が登っていく。その先には蝉の背中がいくつかみえる。蝉の大声、従兄弟や妹の笑い声、川へ飛び込む音が次第に幕に包まれて風船のように遠くへ飛んでいくような気がした。
くぬぎの木漏れ日をあびながら、いつの間にか眠ってしまった。

夕方気がついた時には、私は川から引き摺り出され、母に背負われていた。祖母の家の玄関に着くと、泥だらけの私の足をタオルで拭きながら母が言った。
「熱がすごいね。きっと40度くらいあるね。」
「川以外どへ行った?足に傷はなさそうだね。破傷風ではなさそうだけどね。」
私の2本の足をごぼうか大根かを洗うようにゴロゴロ転がして見ながら祖母が言った。
「風邪が治ってなかったのね。息も苦しそう。どちらにしても医者だね。」
私は虫取りも夜釣りも行けなくなるのかと思うと絶望的な気持ちになったが、もう元気に振る舞うことは出来なかった。息苦しさから逃れたい方が勝っていた。

病院へ向かう車の中、窓越しに空を眺めた。もうすぐ日が沈む。窓に映る私は青白く、開いているのかいないのか分からないような虚な目をしていた。自分の顔はこんな顔をしていたのかとまじまじと見た。
窓に映る自分の顔を見るのも嫌になってきて、車の後部座席にそのまま横になった。窓から見える景色は夕焼けの空だけになった。そして目を閉じた。

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