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絵本日記DAY6 <2020>

はじまりました2020年。今年は(こそ)、鬼のようにゴリゴリと絵本日記を更新していきたいと思います。

わたしが絵本を読みつづけ、このように発信していくことが、何につながるのかどう誰かの役に立てるのかもまだわからない。

わからないけど、どこかにつながっているはずのこの道をこつこつのろのろ歩いていきます。

それでは、今日は2冊の絵本をストックします。

①すいみんぶそく -眠れぬ夜のスパイラル-

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この絵本は、古本市の木箱のなかから掘り出しました。ぎょっとして、強烈で、手に入れられずにはいられなかった。

ユラユラと歪んだ題字(作者名までも)、睡眠不足から不幸さえ招いてしまいそうな黄ばんだ顔色、半開きのまなこ、息苦しそうな口・・・。

もう、表紙を見ただけで苦しい。

寝なきゃ。明日は早番だ。

いつもより耳障りな冷蔵庫の唸り声。

寝なきゃ。顔にクマができてしまう。

遠くのほうで響く救急車のサイレン。

眠らなればと思えば思うほど時計の針はどんどん頑固になっていき、しょうがないからとスマホを無意味に眺めたりしていると、ますます眼球の奥は冴えわたり脳みそだけが高ぶっていく。

この絵本では、そんな眠れない夜の負の連鎖が、見事に再現されている。だんだん見ているのが辛くなって、気が滅入ってくるほどに。

おとなになって、としをとって、死んでしまうことを考えるとねむれなくなるというケンタロウ。ムンクの叫びを彷彿とさせる、捻じれて吸い込まれそうな空間。窓をあけて吐き出すケンタロウのため息は、冷たい風となり夜にひろがっていく。通りを歩く人は帽子を手でおさえ猫は毛を逆立てているように見える。

友達は、同級生のカガミちゃんが腎臓結石で入院してから、なんかおまえおかしいぞ。眠れないのはそのせいなんじゃないのか、と言ってくる。

ここからだ。わたしの頭が混乱し、うすら寒い気持ちになり、一番苦しくなるのは。

このカガミちゃんという女の子。この女の子の存在の強烈さ。

今日も眠れない。ケンタロウが夜にむかって吐き出したため息の上を、カガミちゃんが燃えながら歩いてくるのだ。真っ赤な洋服を着て、眼をカッと見開いて。カガミちゃん燃えちゃだめだ、とケンタロウは・・・

何度絵本をひらいてみても、この絵本の結末や、作者の言わんとしていることがつかめない。何というか、気持ちがざわざわとして快くないのだ。あまりに気味が悪く、逃げているのかもしれない。

そんなことを夜中にぐるぐると考えている時点で、わたしはすでにまんまと眠れぬ夜のスパイラルに陥っているのだった。

すいみんぶそく 長谷川集平 1996年1月20日 株式会社 童心社

②いたずらおばけ 

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この絵本は、人生の大先輩えほんシリーズ(おばあちゃんver.)です。

他の人生の大先輩を例に挙げると、おなじみばばばあちゃん、おばあさんのひっこし(福音館書店)のおばあさんなどです。

この大先輩方の共通点として、以下のことが言えると思います。

まず、一人暮らし。あるいは、動物たちに囲まれている。

性格は楽天的で、肝が据わっている。豪快。にこにことしている。過去より未来より今だけを楽しむことができる。

ちょっとやそっとの事件には動じません。それどころか、「あらあら」と言って楽しんですらおり、「こっちのほうがやっぱり幸せだったじゃないか」と結果をすんなり受け入れてのける。

『いたずらおばけ』に登場するおばあさんは、一人暮らしでおまけに貧乏。描写はこうです。

それでも、いつもげんきで ようきで、なにひとつ ふそくはないというふうでした。

とっても素敵。それである日、おばあさんは道端で黒い大きなつぼを見つけます。開けてみると、中にはつぼの口までぎっしりと詰まったぴかぴかの金貨が。家に帰るまでの道すがら、おばあさんは裕福になった自分の暮らしをあれこれ想像してたのしみます。

あまりに重いので、スカーフをつぼに結びつけ、休憩しようと後ろを振り返ると・・・。なんとつぼは銀のかたまりに、てつころに、石に・・・と振り返るたびに変わっていきます。最後に現れたのは、いたずらおばけ。

ここで、人生の大先輩からの学びです。

このおばあさんは、一度もがっかりすることなく、つぼが変化(どんどん価値が下がっていく)たびにこっちのほうが私の身の丈にあってるねぇ、いたずらおばけに楽しませてもらえるなんて私は幸せものだねぇ、と嬉しがります。

自分で自分を幸福にする。目の前にある事実をすんなりと受け入れ、喜びとする。このようなスキルは、ちょっとやそっと人生の苦楽を味わっただけでは習得できるものではないはずだ。

絵本のなかではにこにこしているおばあさんだって、愛するご主人を亡くした未亡人かもしれないし、(現におばあさんの家の中にはおじいちゃんの写真が飾られている)、初めから一人だったわけではないだろう。

大切な人との別れ。心が引きちぎられるような夜。自分には抱えきれないほどの苦しみ。

そういったものを幾度となく乗り越えてきたであろう大先輩たちが、私に一人の女性として、人間として、歳の重ね方を問うてくるように思えてならないのだ。

いたずらおばけ イギリス民話 瀬田貞二 再話 和田義三 画 1978年 福音館書店

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