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絵本日記DAY14 緑黄色野菜絵本

今回は、ディック・ブルーナの『うさこちゃんの おうち』について綴ります。

この絵本を端的に表現するならば、「シンプル」「整然」。一切のムダがないのです。

絵は緑黄色野菜のようで、中性的な色味は使われていません。線のはっきりした黄色、緑、だいだい、紺、白の5色のみ。シンプルであることの、うつくしさ。

‘‘おうち‘‘ときくと、つい私のあたまのなかにはほわんほわんほわん、と漫画のように吹き出しが現れ、理想のおうち映像が再生されはじめます。

庭にはラベンダーやバジルを植えたいし、いちじくの木はぜったにほしい。梅酒を漬けるおばあちゃんになりたいし、それから洗いものはあまり好きじゃないからできれば台所の横長の窓からは木々が見えていてほしい。

この絵本にはそういう、脳内でいつもなされているような思考や妄想をバチンと断ち切るような、一種のドライさやシビアさのようなものがある。

その潔さが、とても心地よい。


たとえば、はじまりの頁。

これは うさこちゃんのおうちです。

そんなに おおきくは ないけれど

とても いごこちのいい いえです。

まどは みどり よろいどは あかです。


それから、

うさこちゃんは じぶんの えぷろんと

じぶんの おさらと じぶんの すぷーんを 

もっています。ごはんを たべる ときは

それを つかいます。

すっきりと、無駄のないことばたち。

個人的には、「じぶんの」ものをもっている、というところに心をつかまれます。

この絵本のテキストには希望的観測、wishful thinkingなるものは存在しません。


湯船につかりながら詩を音読するとあたまがからっぽになっていく感じや、プールで泳いだあとの空腹感。からだの生理的なきもちよさは、とてもいいものです。

ごちゃごちゃと何か言ってくるこころより、からだからの反応のほうがダイレクトではるかに速く、目に見えて信用できます。

日常のなかで幾度となく繰り返される取捨選択やジャッジ。そしてそこからくる不安や恐れや迷い。

そういったぐるぐるを、否応なしに断ち切る時間がたぶん私たちには必要で、この絵本は脳内のノイズを遮断してくれる力があります。


7じは うさこちゃんの ねる じかんです。

きょうも いちにちが おわりました。

うさこちゃんは べっどに はいります。

みなさん おやすみなさい。


今、目の前に見えているものだけが事実でありすべて。それが真実であるかどうかはまた別にして。

理由づけも、都合のよい解釈も、いらないんです。

こどもたちとこの絵本を見たときの、あの静けさは、ほかの絵本を見るときの静けさとはちょっと別物だった。

空間ぜんたいがしん、として、そこにあるうつくしさや事実だけを、彼らはすっと受けとっているようでした。


『うさこちゃんのおうち』福音館書店 2010年3月15日発行 

ぶん/え ディック・ブルーナ やく まつおかきょうこ




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