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最後の最後まで

父親が癌と診断された。

咽頭癌だと言う。


正直なところ、全く驚きも動揺もしなかった。


聞いて出たわたしの一言目が


「あ、やっぱり?」


だった。

親が64歳にもなると少々のことでは驚かない。


最後にテレビ電話で話した時の声もカッスカスだったし(しばらく以前から)、元々ものすごいヘビースモーカー(もう吸ってはいない)な上に毎晩晩酌はかかさないんだから、咽頭癌くらいなってもらわないとタバコやアルコールのワルさが際立たない。


かの有名なセックス・ピストルズのシド・ヴィシャスも、身体に絶対的悪であるタバコやドラッグの常用がパンクの神と呼ばれる要因の一つであるし、彼がタバコの代わりにスティックブロッコリーを咥えて葉酸摂れよな、と高らかに叫んでいたとしたら。

令和の時代まで語り継がれることはなかったと思う(それはそれでまた伝説だったかも知れないけれど)。


閑話休題


4月7日に手術だそうで

無事を願うばかりだ。


そんな話を母と電話でやり取りして、区役所に向かった。


次男の装具に払った代金の申請書を提出に行かなければならなかった。

結果として、申請はできなかった。

必要書類が足らないと言われて無駄足になってしまった。

もう、ホントにこの手の申請が無駄過ぎてどうにかならんのか。。


次男は短下肢装具と言う膝から下の装具を日常的に使っている。足のサイズ変わるたびに作り替えて、1回大体6万円ほどを一旦現金で病院(装具屋さん)に支払う。

そこでもらった領収書を、健康保険組合に提出して7割還付してもらい、更にその還付金額が書かれた用紙を持って区役所に残りの3割を還付してもらう手続きをしなければ装具にかかった現金は戻らない。


手間しかない。

病院で、いや、装具屋さん、頼むから全部やってくんないかしら。本当に手間すぎるし、みんなそんなに暇じゃない。


くっそー、と思いながらちょうど帰り道にあるエアバギーに寄って、ベビーカーの不具合の対処の仕方を教えてもらった。

そこでめちゃくちゃ丁寧ですんごい接客を受けることができたお陰で区役所の一件は即チャラにした。

viva 前向き


素敵な接客で幸せになり過ぎて、フワフワしていたらビオセボンの前を通りかかったからついつい買い物をしてしまった。


計り売りのveganチョコレートを3スクープくらい入れたら700円くらいのバーコードシールが出てきて一瞬やっちまったと思ったけど、腹を括って買い物を続けた。


このチョコレートはわたしの大好物だ。何も怯えることはない。


大豆ミートと鍋のつゆ、ココナッツチップスなどを買った。


どうしよう。


ここまでくると、幸せの倍々ゲームのはじまりだ。


うきうき心を弾ませて、天気もいいし、せっかくだからと右ブレーキが一切効かなくなって2週間くらい経った自転車を自転車屋に持って行った。


自転車屋のお兄さんが言うには、ブレーキが効かないのは部品の消耗が原因だったそうだ。

ただ、修理が立て込んでいて、今自転車を置いて行ってくれたら夕方までには直せる。と。

置いてかない場合は、またそこから修理の順番待ちが必要と言うので置いてくことした。


区役所に向かう時から0歳を抱っこし始めて1時間は経っていた。

15分ほど歩いて一旦帰宅し、エアバギーの店員さんに聞いた通りに直してみると、途中までは言われた通りにうまくいったのだけど、今度はまた別の問題が出てしまった。

結局バギーは使えなさそうだから、また0歳を抱っこして長男を迎えに行った。

長男の保育園までは歩いて20分程。

金曜日は荷物が多くて悲しい。



そのまま次男の保育園に向かった。

こちらも移動に20分はかかる。

次男の荷物ももちろん多い。

わたしの溜まりに溜まったハッピーゲージがどんどん減っていくのが自分でもわかった。

次男の保育園から自宅には30分かかる。

なぜなら次男(3歳)が居るからだ。

更に途中でトイレに行きたいと言い始め、保健所のトイレに駆け込む。0歳を抱っこしながらの足の悪い3歳のトイレの世話はマジで体力の消耗が激しい。

もうこの時点でわたしのライフはゼロに近い。

自転車さえあれば…

バギーさえあれば…

と思わずには居られないが、そう思ったところで今の状況が変わるはずもないので考えるのはやめた。


くったくたのボロ雑巾になって帰った。


もう今日は一歩も外へ出たくない気持ちを押し殺して、長男と次男に簡単な夕食を作って、0歳を連れてまた自転車屋に向かった。


わたしの心が荒んでたから、マスクをつけないで外に出てやった。今のわたしはワルだ。

マスクをつけていない背徳感はまさにシドヴィシャスのクスリよろしく、誰も今のわたしに触れてくれるなと言わんばかりに堂々と歩いてやった。


久しぶりに肌に触れる夜風が気持ちよかった。


自転車屋で自転車を受け取り、慌てて帰った。


子ども達はちゃんとお夕飯を食べていてくれていて、あぁ、今日はもう何もしたくない。何もしない。と心に誓ったことを夫に連絡した。


ベッドで三男に授乳をしてると次男が部屋に入ってきてこう言った。



「ママ…うんちとおしっこ出ちゃった…」


その後の記憶は残念ながらない。



わたしおつです。



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