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「パニックの国境〜閉幕のタンザン鉄道〜」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑳〜

 2018年9月11日、タンザン鉄道の出発まで長時間の待機を覚悟した私たち。ダメ元で質問した駅員からは、15分で出発すると言われましたが、それを信用できるはずもありませんでした。しかし15分後、ゲートが開くと同時に走り出す乗客たち。出遅れたものの、彼らの背中を追い越して、私たちも何とか乗車に成功。部屋の雑魚さにはを確認し、じゃんけんによって勝者からベッドを選択。想定通り時間を持て余す流れでしたが、晩飯の奢りを賭けたトランプが盛り上がったこともあり、タンザン鉄道は順調な滑り出しを見せていました。

 暗くなってきた頃、晩御飯のため食堂車に移動を始めた私たち。スタッフにメニューを聞くと、2種類しかないらしく、まさかのビーフorチキン?という教科書みたいな質問。すでにテーブルに座って食べ始めている乗客を見れば、その量と質はどちらでも変わらないことが分かりました。

「晩飯食べる機会も2回しかないし、メニューも2種類でええんやろな。」

「どっちも200円でしょ?それならビーフにしよ。」

「いや、明日ビーフいきたいんで、今日はチキンにしときます。」

「明日の楽しみ欲しいんで、僕もチキンで。」

 結局、私とぴょんすがチキン、Y氏とS氏がビーフを選択。トランプの敗者ぴょんすの奢りで、ほぼカレーとして提供された料理を食しました。そして部屋に戻り、まったりと会話を楽しんだ後、毛布にくるまって就寝。

 2018年9月12日午前11時、冷たい隙間風のせいで中々寝付けず、各々が寝袋に入って就寝した結果、昼の太陽が暑すぎて目を覚ましました。地図を確認すると、夕方頃にはザンビアに入国できそうな予感。順調に進んでいることに安心し、適当に音楽を聴きながら車内をふらふら。食堂車では、他の乗客たちが卵とソーセージメインの昼食を食べていましたが、特に何のエネルギーも使っていなかった私たちは、節約のため晩御飯まで耐えることにしました。

 しばらく経った頃、突然列車は減速を始め、駅でも何でもない場所に停車しました。何事かと思い、窓から辺りを見回す私たち。周囲に街らしきものは見えず、荒野が続いていました。しかし、3等者の車両からは大きな荷物が取り出され、それを運び出す人々が見えました。その姿に気を取られている間に、何やら列車の中が騒がしくなっている様子。

「何かあったんですかね?」

「駅っぽくもないよね。」

「でも結構な人数が降りてるで。ちょっと出てみるか。」

 部屋の扉を開くと、車内の通路にはどこからやって来たのか、物売りの人々がいました。謎の弁当やフルーツ、パンやお菓子などを腕に抱え、「〜はいかがですか?」的な大声を出して練り歩く彼ら。

「たぶんこういう場所なんやろな。」

「休憩のために停まったみたいな感じだね。」

 周囲の人によれば、30分以上はこの状態とのこと。晩まで飯はお預けとした私たちでしたが、こうも目の前に食糧が広がれば、さすがに何か口にしたくなり、1本10円の熟しすぎたバナナを2房購入。腹を満たしたところで、せっかくなので線路に降り、タンザン鉄道と一緒に写真撮影。ベタに線路を歩き、STAND BY MEの真似事をしたりと、休憩時間を満喫。そして、再び列車は動き始めたのでした。

 特にすることもないので、何となくダルエスサラームで買っておいた保存食や先ほどのバナナを頬張り、窓の奥に見える大きな弧を描くタンザン鉄道を眺めていました。

「(タンザニア、良い時間を過ごしたなぁ。)」

 1時間ほど走った頃、またしても停車。今度も荒野のど真ん中、ではなく国境付近の駅。タザラ駅と似たような作り、そして負けず劣らずの大きさ。

「結構立派な駅ですね。」

「たぶんタンザニア最後の駅やし、降りる人も多いやろな。」

 というY氏の予想通り、降車していく大勢の乗客たち。その塊は後を絶ちませんでした。

「え?これ降りすぎじゃない?」

 窓の外には、駅を出ることなく、なぜかそのままホームに留まり続ける人々の姿。駅員に詰め寄るおじさん集団、慌てた様子でどこかに電話をかける子連れの女性、大きな荷物を背負って、人混みに飲み込まれる人々。ガラス越しにも響き渡る雑音。明らかに1時間前の停車とは異なる空気が流れていました。

「このまま乗ってたらヤバそうじゃない?」

「1回荷物まとめて降りた方がいいですかね?」

「ほんまにみんな降りてる感じ?」

「分からないけど、急いだ方が良さそう。」

 状況を把握できず、膨張する緊迫感が判断を急かしました。一瞬扉を開けると、私たちの車両からも続々と人が降車している様子。

「これは絶対出たほうが良いやつや。」

 すぐさま荷物をまとめ、ぐちゃぐちゃの寝袋を脇に抱えたまま、濁流に飲み込まれていく私たち。

「出てきたのはええけど、どうするよこれ。」

 駅の上にはデカデカとMBEYAの文字。

「どこやねんこれ。」

 誰に何を聞けば良いのか。まだまだ収束する気配のないホームの喧騒。動けずにいた私たちは、せめてもの一手として、荷物をがっちり守る他に何もできることはありませんでした。

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