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「駆け込み乗車上等」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑲〜

 2018年9月11日、ATMに吸い込まれたH氏のカードを受け取るため、銀行に向かった私たち。本人でないと受け取り不可能であると銀行員に言われましたが、ザンジバルの話などで盛り上がり、強引にカード回収に成功。そしてタンザン鉄道用に、間食をいくつか購入し、タザラ駅に向かいました。人の多いダラダラを降り、さらに人の多い駅構内で出発まで待機。その間にS氏が現金を引き出しに行きましたが、まさかのカードが吸い込まれる事態。昨日のH氏に続いて2日連続。S氏にとってはケニアでも同じことがあったので、2カ国連続。12時半を過ぎても、乗車できる気配のないまま、私たちに不穏な空気が流れていました。

 2018年9月11日午後1時半、タンザン鉄道出発予定時刻から1時間が経過。なぜ遅れているのか、今がどういう状態なのか、いつまで待てばいいのか。さすがに1時間以上経てば、一部困惑する現地人もいる中で、私たちがそれらの答えを持っているはずもありませんでした。時間が経てば経つほどに、周囲の雑音が大きくなって行きましたが、その対応に追われる駅員の曇った表情から察するに、何も分からないということだけが分かりました。
 適当に雑談し、駅郊外に出ては煙草を吸い、また戻ってきて、ザンジバルの写真を見返す。ついに3時間が経過。これの繰り返しは、いつまで続くのか。さすがに明日までとかになってしまえば、食料や寝床の問題が出てきてしまうことは明らか。ダメ元ではありましたが、駅員におおよその出発時刻を聞きに行くことになりました。

「すみません。大体で大丈夫なんで、出発はいつぐらいになりますかね?」

「後15分だ。15分。分かったな?それまでその辺で待ってな。」

 またその質問かよ、の表情をする駅員に、人混みの中やっと届いた質問も軽くあしらわれ、ワンラリーで会話終了。

「絶対嘘やん、あれ。」「信用できる訳ない。」「こんなけ待たせて15分な訳あるかい。」

 そして15分後、遠くに見える停車寸前の列車の姿。駅員は何かが発声され、放置された荷物たちが床から浮き、瞬時に引き上げられたデシベル数。開ききっていないゲート、その少しの隙間を縫うように、競走馬のごとく一目散に列車目がけて走り出す乗客たち。その背中を見つめる完全に出遅れた私たち。

「・・え、ちょっ・・・」

「俺らも行かな!」

「(え?でもあれ3等車の自由席の人たちやんな?俺らはちゃんと指定のベッドある1等車やから、そない走らんでも。しかも、さっき15分とか嘘やんって言ってもーた手前、全力疾走は恥ずい。)」

 そうは思いつつも、流れに巻き込まれる形で羞恥心に抵抗した早歩き。

「(1部屋にベッド4つ。いや、部屋ごと予約した訳じゃないから、ベッドは確保できても、部屋が分断される可能性もあるんか。2泊3日、4人が分断されて、見知らぬ現地人との1部屋。せっかく日程を合わせて、ここまで来た意味がなくなってしまう。走れ、走るぞ俺は。)」

 小さな羞恥心の壁を飛び越えて、現地人をぶっちぎり、タンザン鉄道に乗車した私たち。

「これ、どこを確保すればいいんですかね?」

「どこでもいいやろ、そんなもん!急ごう!」

 幸いにも私たちが飛び乗った車両は1等車。自由席ではない車両のおかげで人は少なく、人ゴミを掻き分ける必要はありませんでした。汚い扉を開き漁っては、ベッドに荷物を広げる作業の手を止め、こちらを見つめる先客に謝罪。これを幾度か行い、ようやく固そうな禿げ青ベッドが4台備えられた空っぽの部屋を発見。

「ここに決まりだね。」

「とりあえず寝床の確保は成功ですね。」

「ただ、思ってたより狭いなこれ。」

 扉を開けると1人歩くことが限界幅の通路が2メートルほど伸びており、正面には透明とは言い難い窓が1つ。これらの両脇にびっちり設置された2台の2段ベッド。というよりはほぼ長椅子。その上には、無造作に置かれた、今にも虫が湧き出しそうな様子の布団。それぞれのベッドにコンセントがあることが唯一の救い。

「これは・・・じゃんけんやな。」

 ということで勝者から順に、充電可能かどうか、ベッドの硬さや布団のニオイ、そして移動の楽さ、などを吟味してプラーベート空間を選択。その結果、扉から向かって左下にぴょんす、その上に私。右下にY氏、その上にS氏ということになりました。

「てかこのベッド、膝曲げないと足はみ出んねんけど。」

「ここのコンセント怪しいわ。充電できないかも。」

「僕のとこなんか腐ってるんか知らんけど、全体的にベッド凹んでますよ。」

「いやいや落ちてくんのだけは勘弁な。」

 各々文句を言いつつも、部屋は無事に乗車した安心感で満たされていました。結局のところ4時間遅れではありましたが、ついにタンザン鉄道が発車。

 しばらくは各々が車窓から景色を眺めたり、景色の写真を撮影したり、景色を眺めたり、景色に見惚れていました。

「・・・トランプしよかー。」

 ちょうど良い頃合いにY氏からの提案。晩飯の奢りを賭けて、熱い勝負が繰り広げられることになりました。

「(これまた楽しみは2泊3日になりそうや。)」

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