見出し画像

「メリージェーン」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編②〜

 2018年9月2日、ケニアとタンザニアの国境であるナマンガをぬるっと陸路で通過し、昼頃にはタンザニアはアルーシャという街に到着していました。その時間帯には閉まっていたバス会社も、幸か不幸か、わずか数時間後に偶然にも開いていました。アルーシャの宿が快適であったことと、次の目的地であるダルエスサラームの治安面が良くないことを考えれば、もう少しアルーシャで心の準備をしたかったのが本音でした。しかし、スムーズにもバスチケットを購入し、明朝にはダルエスサラームへ出発することが確定してしまったのでした。

 バスチケットを購入し、ご飯も食べ終わり、特にやることもなくなった午後3時。当然、まだ日差しが強い時間帯。何があるかなど全く知らないアルーシャの街を散策することにした私たち。タンザニアの中では田舎という位置付けなのか、緑が多い訳ではないが、人工的な音は少ない。殺伐と雰囲気はなく、不躾に声をかけてくる輩もいない。ナイロビで構えた危機管理も、少し緩んでしまいそうな街。地図を見ることなく、適当に歩いていると、服や雑貨を売る店が立ち並ぶ、小汚い通りに入りました。

「似たようなもんばっかり売ってるけど、需要あるんか?どうやって生計立ててんねやろ?」

 誰もがそう思ってしまうような店構え。客のような人はほぼいない。道路の端に溜まったゴミの山。それに群がる変な鳥。覇気なし通り。売りつけるために話しかけてくる訳でもなく、店員かどうかも分からない人物たちが店の中で飯を食いながら話していたり、もはや人がいない店もありました。地面に崩れ落ちた大量の商品。そのほとんどに既視感を覚えました。それもそのはず、どれもこれも世界的に有名なブランド、いや、それらをもじった治外法権ブランド。

「タイでも偽物売ってたのを見ましたけど、やっぱりどこの国にも、こんなんあるんですね。」

「色んな意味で汚いし、安そうなんで何かここで買ってみましょ。」

 そろそろアフリカの日中の暑さに参っていた私は、半ズボンとサンダルを目当てに店を回ることにしました。

「このサンダルいくらですか?」

 数件聞いてみたものの、どこも1000円以上を請求してくる店員ばかり。しかも、初めはやる気のない店員も、こちらに購入の意思が少しでもあると分かった途端に、嘘八百で元気な店員を演じてくる。もう値段交渉すら面倒になってきた時、サンダルしか売っていない専門店のような場所を発見。丁寧に並べられたサンダルたちを素通りし、地面に放置された汚めのサンダルを手に取った私。

「それは500円だよ。」

 今まで散々1000円以上と言われてきた脳に飛び込んできた500円は、お得感を演出しました。それに、ナイロビに比べて何となくゆったりした街の雰囲気と値段交渉のだるさも相まって、私は500円でヤシの木が描かれた茶色のサンダルを購入してしまいました。

 次に目指すは半ズボン。偽物だらけの中にある本物のブランド品を探し当てよう、なんて気はさらさらありません。どう考えても大切に保管されていない、野ざらしの服を見て回りました。その結果、アディダスもどきの半ズボンを300円で購入。表記はadid☆as。もうそれなら違うこと書けよ、と思いながらも300円で暑さ対策に成功できるなら何でも良い。

「produced by つのだひろ、かもしれませんね。」

 特に笑いは起きず、話が広がることもないまま、用の済んだ私たちは宿へと戻るために、臭い道を歩き始めました。

「あそこにもサンダル売ってるやん。」

 そろそろ通りを抜けようとしていた頃、Y氏が明らかに他より安そうな、ゴミ山近辺の路上販売店を見つけました。一応サンダルの値段を聞いてみる私たち。店構えとは異なり、割としっかりした様子の商品。

「このサンダルは100円でいいよ。」

「他のサンダルはいくらぐらい?」

「まぁ大体2、300円ってところだな。そんなことより日本人か?珍しいな。ここからダルエスサラームに行くんだろ?良いバス会社を・・・」

「おじさん、もういいです。」

 完全にぼったくられていたこと、サンダルごときに500円も出してしまったことに気付かされた私は、おじさんの世間話を遮りそそくさと店を出ました。

「あの店に気付かん方が良かったな。何かすまん。」

 Y氏に気遣われながら、私たちは再度宿へ向かいました。

 たかだか400円の損失。しかし、これは私にとって重たいものでした。ナイロビで他者との関わり方と、自らの精神の揺らぎを理解していたつもりでも、すぐに行動に移すことができる訳ではない現実を突きつけられた気がしました。物事を見極めて判断するエネルギーの欠如。一方で、ただサンダルと半ズボンを買うだけの日常に、また新しく小さな未知を経験したのでした。

「(変なボロサンダルに500円。バッタもんの半ズボンに300円。交渉したり会話する人間。ほんま、どうやって判断したらええねん。)」

 買ってしまった商品を手に取って見ていると、理不尽にも、つのだ☆ひろに腹が立ってきました。

 メリージェーンか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?