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「また日本で」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑰〜

 2018年9月10日、ザンジバル最終日。行きと同様にバスを乗り継いで港に向かう予定でしたが、心優しいオーナーが車で送ってくれることに。日本調の朝食を噛み締め、心安らぐ楽園ともお別れの時。行き道は人間250円、荷物250円、そして帰り道は人間0円、荷物0円。同額の値札を貼られたという点で同じ状況であるにもかかわらず、行き道にだけ怒りを覚えてしまったことを思い、0の魅力に恐怖していました。そして時間通りフェリーに乗船。ウニを食べたせいで腹痛に襲われてたM氏とH氏を気の毒に思いながらも、何とかダルエスサラームに到着。宿に戻った私たちは、7人で過ごす最後の夜を迎えようとしていました。

 ちょうど晩飯時、宿に戻ってきた私たち。部屋に荷物を置いて、一息つくこともなくロビーに集合。

「晩飯はあそこでいいか。」

「だね。他のお店探す体力も残ってないよ。」

 それぞれ好きなものを頼み、ビールで乾杯。

「M氏たちは明日何時に出るん?」

「早朝だね。4時とか5時とかじゃないかな?Y氏たちは?タンザン鉄道って時間読めないって聞くけど。」

「一応12時半発やけど、何時間も遅延するみたいやわ。まぁ12時半に間に合えば大丈夫ちゃうかな。」

「帰り道にATM寄って現金おろして、宿戻って荷物整理して、、、やることはそれぐらいだね。」

「それとアラームの設定な!」

 のらりくらりと過ごしていたザンジバル感覚から抜け出すため、自らに言い聞かせるように、お互いの予定を確認し合いました。

 バターチキンカレーで腹を満たした帰り道、ATMに寄ってから戻るM氏たちとは一時別れ、タンザン鉄道組の私たちも出発の準備に取り掛かりました。

「(タンザン鉄道、あの時焦って金曜日の3等車に乗らんくて良かった。あれに乗ってたら、7人でザンジバルもなかったことやし。いや、でももし乗ってたとしても、それはそれで別の経験があったんかもな。その時は誤りに写っても、1つ1つの選択を正解にしていくしかない。そういう意味ではタザラ駅での選択は大正解にできた。)」

 2泊3日の鉄道旅に向けて入念にシャワーを浴びた私は、最後の晩にトランプをすべく、再びロビーへと向かいました。宿に帰ってきていたH氏が何やらY氏とS氏に相談している様子。

「何かあったんですか?」

「いや、HのカードがATMに吸い込まれたから、どうしようかと思って。」

「え?そんなことあるんすか?」

 ATMでお金を引き出そうとしたところ、機械からカードが出てこなくなったとのこと。一応こういうこともあろうかと、銀行横のATMを使用したことで、この旨をすぐ銀行員に伝えることができ、明日の午前中には返ってくるように話をつけてきたとのことでした。

「めっちゃ申し訳ないんだけど、俺たちは時間的に無理だと思うから、タンザンの前に取りに行ってくれない?帰国してから渡してもらえれば。」

「全然ええけど、お金的には大丈夫なん?」

「それは大丈夫。MとRいるからね。」

 日本で会う口実ができたというところで、この話に収まりがつきました。

「(まさかほんまにカード吸い込まれることあるなんて。そういえばケニアで初めてS氏に会った時も、そんなこと言ってたような。やばいな。俺とぴょんす、カード1枚しかない。対策のしようもない。運次第か。)」

 蛮勇な自分を恥じるのは、アフリカに来て何度目のことか。事前の準備とそれゆえにできる、即興の判断。様々な情報と状況の擦り合わせによる適応能力。

「(今すぐどうこうできへんのは分かってるけど、考えるべきことは多い。一生勉強やな。若さだけで来てしまった無知なアフリカ旅。でも、この選択が正しかったと、未来の自分が言えるようにしていくしかない。相当な労力になるけど、考えることさえやめへんかったら。何とかなるというか、結局何とかするんやから。)」

 トランプで盛り上がる中、減らない手札を見つめながら、そんなことを思っていました。このルール聞いてないやら、このカードにそんな効果ないやら、何かと負けず嫌いなM氏を中心に、大富豪は熱を帯びていきました。

「そろそろお開きかな。」

「もう0時前か。」

「明日から気をつけてな。」

「そっちも気をつけて。Y氏、もうあんなに激情したらダメだよ。笑」

「それは約束できへん。笑 M氏は大富豪さえせーへんかったら冷静やから大丈夫か。」

「また日本でですね。」

「そうね。Hのカードのこともあるし。」

 共に過ごしたのはわずか4日間でしたが、7人で過ごした楽園ザンジバルは、深く心に刻まれていました。H氏から私たちにランタンを、私たちからは蚊取り線香を餞別として交換。そして抱擁を交わしました。

「じゃあまた。おやすみ。」

「ありがとう。おやすみ。」

 その後、部屋の鍵を紛失してあたふたしているR氏と遭遇し、一緒に探すことになったのでした。

 2018年9月11日、いつもより早く起きましたが、すでに3人はマサシへと立った後でした。

「(そうかー。M氏、R氏、H氏、良い時間でした。ありがとうございました。)」

 昼過ぎにはタンザン鉄道に乗車予定の、私とぴょんす、そしてY氏とS氏は朝食のため食堂に集まり、すでに思い出となった7人でのザンジバルについて話していたのでした。

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