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「喧騒のバス移動ーナイロビへの道ー」アフリカ大陸縦断の旅〜ケニア編③〜

 2018年8月27日お昼過ぎ、私たちはエチオピア、ケニアを跨る国境の街、モヤレにいました。人生初の陸路で国境を越える経験に胸を躍らせながら、ナイロビへ移動するため、快適と噂の「モヤレスター」というバス会社に向かってたのです。しかし、どこにいても客引きは付きもの。私たちがもたもた相手をしている間に、モヤレスターのバスチケットは売り切れていました。バス出発まで時間のない私たちは、大急ぎで他のバス会社をあたり、何とか手に入れられたバスチケット。しかし、集合時間まで残り30分。ATMからケニアの通貨を引き出し、バス移動のための飲食料を購入したところでタイムアップ。食事を諦めて、ナイロビへのバスに乗り込んだ私たち。そして知ってしまう現実。とても12時間の長距離移動に向いているバスとは思えない不潔さと設備の悪さ。半日の地獄が確定してしまったのでした。

「もう寝よう。どうせこのまま行くしかないねんから。ナイロビまで大人しくしとこう。」

 とは言ったものの、カンカン照りの午後3時。満席の車内と慣れない食べ物のニオイが充満する生暖かい空気は、私たちを寝かせてはくれませんでした。びくともしない窓を3人がかりでこじ開け、外の空気を確保。そしてそこに、ボロボロのカーテンをお気持ち程度に添えて、目を瞑りました。
 10分、20分、全く眠れる気がしません。モヤレからナイロビまでのバス移動が危険であると刷り込まれていた脳みそは、警戒心を高め、それに加えて劣悪な環境。いや、眠れる訳がなかったのです。

 ふと周りを見渡すと、私と同様に眠れていないY氏とぴょんすの姿。Wi-Fiもないのに携帯を触ってみたり、無理に目を閉じてみたり、本を読んでみたり、各々がこのバスと戦っていました。

「(どうせこの環境なら、腐ってまうし。腹一杯なったら眠たくなるやろ。)」

 ここから何時間後に食料が手に入るか分からない現実から目を背け、今すぐの睡眠を優先した私は、モヤレで購入していたパンとバナナを全て食べてしまいました。そして、しばらく経った頃、段々と傾き始めた太陽、開けていた窓からの涼しい風が車内の空気を中和してくれました。腹を満たした効果があったか分からないまま、ようやく私は眠りにつきました。

 そして数時間後、すやすやと寝ていた私でしたが、多くの人が動く気配で目を覚ましました。ザワザワする乗客たち。Y氏とぴょんすはすでに起きているようでした。

「(トイレ休憩かなぁ。なんか飲食料でもあれば、一応買っとくか。)」

 ぼけっとそんなことを思いながら、乗客たちがバスを降りていく後に続きました。すでに日は暮れており、少し肌寒い外の空気。見渡す限りの大草原に、舗装された太い道路が一本。バスの進行を妨げるように、道路を横断する形で置かれている大きな鉄のギザギザ。その近くには白い小屋が設置されてました。

「(んー、なんかトイレ休憩ではなさそう。まさかこれ以上進まれへんくなった訳じゃないよなぁ。)」

 すると、白い小屋から出てきた数名の男性が、バスから降りてきた乗客に対して何かを言い、そして何かを回収しているようでした。当然、私のところにも。

「Document !」

「(ドキュメント?書類、?このバス乗るのに書類いるん?そんなん持ってへんて。)」

 どうしましょうヅラの苦笑いでY氏に助けを求めました。すると、Y氏はパスポートを出して、その男性に預けました。それを見て、同様の行為をする私とぴょんす。男性は黙って私たちのパスポートを回収し、また別の乗客の元へと去って行きました。

「ちょっとY氏、これ例のやつですか?」

「そうやと思う。これがたぶん数時間おきに訪れる。」

 例のやつ、というのも、情報収集によれば「モヤレからナイロビへの移動はバスジャックや武装強盗が起こっていたため、警察による検問が頻繁に行われる」とのことでした。

 警察官が乗客全員分のパスポートを集めてから、確認後、返し終わるまで、15分程待ちました。そして他の乗客と共に、ようやくバスに戻ることが出来ました。

「(これが何回もはしんどいな。てか、ドキュメントってなんなん?パスポートでええやん。ややこしい。)」

 そんなことを思いながら窓を閉めて、またすぐに眠りにつきました。そこから1、2時間程度。断続的検問発動。先ほどと同様の行程を済ませます。そしてこれが3、4回続いた頃。私は椅子に遠慮することなく、どかっと座りました。

「全然寝られへんやんこれ!!!」

 バスの環境と空腹、さらにはしつこい検問によって、蓄積されていくストレス。叫びたいほどでした。しかし、それを発散する手段はなく、暗さでほとんど何も見えない景色を、窓から眺める他ありませんでした。そして、浅い眠りについた頃、またしてもバスが止まり人が降りていく雰囲気。

「(もういいや。どうせ時間かかるし、呼ばれるまで寝とこ。)」

 ほとんどふて寝状態の私の肩をY氏が叩きました。

「休憩やで!トイレと飯!」

 時刻は日付をギリギリ超えていない頃。やたらと遅めの休憩だとは思いましたが、それまでに立ち寄れる町があったとは考えにくい。

「(仕方ないよなぁ。到着まで後5時間。さすがに何か買っとくか。でも、この後はもう休憩もないやろう。食べ過ぎで便意と格闘だけは勘弁。)」

 何分間の休憩か聞くことを忘れていた私は、そそくさとトイレを済ませ、水とスナック菓子を購入し、バスに戻りました。

 そこからは例のごとく、レム睡眠と検問の繰り返し。パスポートが返ってくるまでの待ち時間、大草原で用を足して何とか生理現象と折り合いをつけました。そんなこんなで、あっという間に朝の4時。地図を見れば、現在地はすでにナイロビにありました。

「そういえば、宿決まってる?」

「あ、話すの忘れてましたね。NEW KENYA LODGEです!」

「やっぱりそこよね。24時間フロント開いてるみたいやし。」

「でもどうやって行きましょうか。」

「そうやなぁ、宿までどうするか。さすがに日が出てないナイロビは危険すぎる。タクシーも怖いしなぁ。」

 結局、結論は出ないままバスはナイロビの中心街に到着しました。とてもここから宿まで徒歩で行ける距離ではありません。とりあえずバスから降ると、相変わらずしつこい客引きの群れ。泥で汚れた麻袋を取り外し、預けていた荷物の無事を確認しつつ、早朝から元気な客引きを振り払う私たち。他の乗客には行く当てがあるようで、私たちの周りから少しずつ人は減って行きました。

「(このままやとアジア人3人が目立ちすぎる。早めに移動しないと。)」

「(やばいな。どうしよう。)」

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