豆腐は肉と同じように焼け!
田楽(豆腐に串を打ち、あぶった後に味噌を塗った料理)は春の季語で、お馴染みの豆腐料理の冷や奴は夏の季語。秋の季語には収穫したばかりの大豆でこしらえた新豆腐があり、冬の季語といえば湯豆腐があります。春、夏、秋、冬の季語にいつも名前があるのは食材数多しとはいえ豆腐くらいでしょう。
日本人にとって豆腐はそれだけ大切な食べ物。豆腐は大豆でつくったゲル(ゼリー)です。ゲルとは固体がたくさんの水分を抱え込んだ状態の食べ物であることは何度か説明していますが、豆腐も実に90%近くが水分です。
豆腐の名産地の多くが名水が湧く土地であることからもわかりますが、豆腐の味は大豆と水の味。豆腐料理はこの水分のコントロールが鍵を握ります。
豆腐は通常、水に浸かった状態で販売されています。安価な豆腐などはパックを開けると特有の匂いがすることも。
その場合は浄水器を通した水かミネラルウォーターにしばらく浸けて、臭いを抜きます。冷や奴にする時は特に有効な方法です。
ちなみに一年で一番おいしい豆腐は秋に収穫した大豆を保存し、水分が飛んだ頃の大豆で仕込んだ1〜2月くらいに出回るもの。今日は豆腐で温かいおかずを二品つくります。
豆腐の油焼き
材料
木綿豆腐 1丁
ゴマ油 大さじ1
大根おろし 適量
醤油 適量
この料理は江戸時代のベストセラー『豆腐百珍』で石焼豆腐として紹介されているものです。
1.一丁の豆腐を4等分にして、半分の厚さに切る。
* 木綿豆腐か絹ごし豆腐か
そのままの厚さでもいいのですが、この料理は焦げ目の香ばしさを味わう料理なので、半分にして表面積を増やしました。
スーパーに行くとたくさんの種類の豆腐が売られています。おいしい豆腐を見分けるコツは身も蓋もないことを言うと値段です。というのも豆腐の原料は大豆と凝固剤だけ。原材料の質がそのまま出る素材です。
他に注目したいのは成分表示の名称の部分。木綿豆腐、きぬごし豆腐の他に充填豆腐というものも売られています。これは冷や奴専用のような豆腐で、加熱には向きません。温かい料理には絹ごし豆腐か木綿豆腐を選んでください。
絹ごし豆腐を使ってもいいですが、木綿豆腐のほうが食べ応えが出るので、この料理には木綿豆腐をつかっています。絹ごし豆腐は豆乳とにがりを容器に入れて固めたもので、木綿豆腐は凝固させた豆腐を布を敷いた容器で圧力を加えて、水気を抜いたものです。当然、木綿豆腐の方が水分が少ないので、大豆の味わいは濃厚です。
2.キッチンペーパーで水気を拭き取る。
* 水抜きはしなくていい
豆腐料理にはよくここで重しをして水抜きをする工程がありますが、木綿豆腐なら神経質にならなくても大丈夫。このあとの焼く工程で油跳ねを防ぎ、焦げ目をつけるために表面の水気を拭き取ります。
3.テフロン加工のフライパンにゴマ油大さじ一を敷き、豆腐を並べ、中火にかける。焦げ目がついたら裏返し、火を弱火に落とし、反対側も同様に焼く。
* 豆腐を焼くのは肉を焼くのと同じ
まず片面にはなにも考えずに香ばしい焼き目を作ります。反対側は火を落とし、さらに火を通していきますが、この時、目標とすべき中心温度は90度。この温度の根拠は90度を越すと豆腐から水気がでてくるからです。火を通し過ぎた豆腐に”す”と呼ばれる気泡ができるのはこのため。
この料理は言ってみれば豆腐のステーキ。肉と同じように表面はこんがりと中は水分を保ってしっとりという状態を目指すためには加熱のしすぎには注意が必要、ということです。
4.お皿に盛り付けて、大根おろしを添える。
* 大根おろしをたっぷり添えて
件の『豆腐百珍』の石焼豆腐のレシピにも大根おろしを添えることになっていますが、豆腐に醤油をかけても、下に落ちてしまって味はあまりつきません。そこで大根おろしを絡ませることで、豆腐に味をのせます。味噌をつけて食べてもいいでしょう。
さて、次の豆腐料理です。先ほどは焼きましたが、今回は煮ていきます。
かみなり豆腐
材料
木綿豆腐 1丁
天かす 30g
ごま油 大さじ1/2
醤油 大さじ3
上白糖 大さじ2
酒 大さじ1
水 100cc
1.豆腐は4等分くらいの適当な大きさに切っておく。(水気をふきとる必要はなし)鍋に天かす30gとごま油大さじ1/2を入れ、中火でチリチリと音がして、天かすから油が染み出てくるまで炒める。
* 天かすは名脇役
今回はパック詰めの市販品を使っていますが、スーパーの惣菜コーナーで売っている揚げたてを使ってもひと味違います。豆腐には味がのりにくいという話をしましたが、かみなり豆腐の場合は天かすが、さきほどの大根おろしに相当します。煮汁と豆腐を繋げる名脇役です。
2.豆腐と調味料(醤油大さじ3、上白糖大さじ2、酒大さじ1)を加えて、木べらで豆腐を軽く崩しながら炒める。好みでもっと崩してもよい。
* かみなり豆腐の名前の由来
豆腐をいれた瞬間、バチバチと音がします。雷が鳴っているように聞こえることからかみなり豆腐という名前がつきました。豆腐は包丁で切るよりも木べらで潰したほうが、味がつきやすくなります。今回はざっくりと大きい塊のまま煮ていますが、好みでもっと細かく崩してもおいしいです。
3.焦げる前に水100ccを加えて5分煮る。
* 豆腐の水分を生かすか、抜くか、他の味を加えるか。
さきほどの豆腐の油焼きでは90℃までの加熱にとどめると書きましたが、かみなり豆腐の場合はしっかり加熱します。しっかり煮ることで豆腐から水分が抜け、スができますが、その部分に調味料の味が染みこむというわけ。
前述した江戸時代の料理本『豆腐百珍』に『煮抜き豆腐』という料理が掲載されています。これは醤油味の出汁に豆腐を入れ、朝から夕方まで長時間煮るという料理で、積極的に豆腐から水分を抜くことで、そこに出汁の味を含ませたものです。この料理もそれと同じで、強めの火加減で煮て、味を含ませていきます。
4.皿に盛り付けて、好みで七味唐辛子を振って食べる。
甘辛味のかみなり豆腐は昭和のご飯のおかずという感じ。こういった古い料理も一つ、二つ知っておくと料理の幅が広がります。
豆腐料理は地域性も楽しみ方の一つ。基本の冷や奴一つとっても関東は醤油とおろし生姜ですが、北陸から関西では辛子を添えるのも一般的。辛子にもみ海苔、醤油をかける食べ方はオススメです。
他にも本州と沖縄では豆腐の作り方自体も違ったりします。本州では大豆と水をすりつぶして、それを煮てから絞って豆腐の原料である豆乳をつくりますが、沖縄では絞ってから煮るので風味が違います。また、本州では食品衛生法により、豆腐は冷たい状態で販売するように定められていますが、沖縄だけは特例的に伝統的に温かい状態で販売されています。沖縄に旅行に行ったときは是非、豆腐を食べてみてください。
今回はかみなり豆腐にしましたが天かすではなく肉の薄切りと一緒に煮れば肉豆腐という料理になります。白くやわらかい豆腐は弱々しい素材と思われがちですが、煮たり焼いたりしても意外と個性が消えない強い食材。料理をする時はシンプルな仕立てが向いています。
撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!