見出し画像

メレンゲの科学『淡雪卵の作り方』

今日はメレンゲが泡立つメカニズムを復習します。つくる料理は「淡雪卵」(ウフアラネージュ)です。フランスでは浮島という意味の「イル・フロッタント」という名前で、アメリカやイギリスなどに行くと英語のフローティングアイラン ドという名前で提供されています。

材料 四人前
卵白 3個分
グラニュー糖 45g
アングレーズソース
カラメルクリーム

アングレーズソースとカラメルクリームの作り方はそれぞれ
カスタードソースの科学『アングレーズソースの作り方』
カラメルの化学「カラメルクリームの作り方」
を参照してください。

さて、メレンゲ作りです。メレンゲに関係しているのはタンパク質。泡立つということは液体を気泡が抱え込んだ状態。卵白には水以外の分子が多く含まれているので、周りの水分の分子の表面張力が弱くなり、料理やお菓子に使えるほど泡が長く持つのです。

タンパク質は泡立てる際の味方になりますが、実は敵にもなります。卵白をずっと泡立てていると水が分離し、泡がなくなることがあります。これはタンパク質同士の結合が強くなりすぎ、泡を抱え込む構造を壊してしますのです。こうなる前に止める必要があります。

泡立てる際の大敵は3つ。油脂、洗剤、卵黄です。ただし、卵黄は少量であれば言われるほど泡立てには大きく影響せず、さらに一度しっかりと泡立ててタンパク質のネットワークを形成してしまえば卵黄や油脂を混ぜ込んでも大丈夫です。この3つの成分はいずれも似たような化学的特性を持っており、空気と水の境界面に集まって(界面活性剤)タンパク質を追い出し、結合を阻害してしまいます。

まずは使う機材の確認。元も子もないことを言うと機械の泡立て器を使うならコツもなにもなく、卵白の泡立てはまず失敗しません。とりあえず今日は原理を理解するために手で泡立ててみます。

さて、卵白の泡立てに使うボールは卵の8倍の大きさが必要です。まず考えるべきは

どの素材のボウルを選ぶべきか? 

ということです。

多くの料理書には

プラスティック製のボールは使わないほうがよい

と書かれていますが、これはプラスチックが脂肪と似た炭化水素素材であるため、脂肪や洗剤が残りやすいから。一方、ハロルドマギーは

これはたしかに本当だが、ボールについた脂肪や洗剤が卵白に移りやすいとも考えにくい。きちんと洗ったボールであれば泡立てに使ってもさしつかえない

と述べています。その通りなのですが、泡立てやすいのはやはりしっかりとした素材──金属やガラスです。プラスティックは完全に洗うことが難しいため、やはり避けたほうが賢明のよう。

卵白の泡立てに最も適したボールは銅製。銅イオンがタンパク質の間に入り、含硫基の反応を阻害し、泡を安定化させるからです。ちなみにハロルドマギーは銅製のボウルではなく、銀のボウルでも試し、良好な結果を導き出しています。健康食品の銅のサプリメントを微量に加えても同様の結果を出すことができます。ただし、銅のボウルは泡立てるのに若干、時間がかかります。泡を安定化させるということは泡立ちにくくなる、ということなのです。

卵白とボウルをあらかじめ冷やしておくのも泡立てやすさと安定性の兼ね合いからです。卵白は温度が高いほうが泡立てやすくなりますが、泡の安定性は落ちてしまいます。空気を混ぜ込むことで温度が上がるので冷やしておきましょう。その点を考慮すると金属のボウルは手で抱えたりすると温度が上がりやすいのが難点。そこで今回はガラスのボウルを選択しています。

バルーン型の泡立て器を使うのもポイント。アシンメトリーのワイヤーが効率のいい泡立てに貢献してくれます。このあたりは「生クリームの泡立て方」と同じです。

泡立て機でタンパク質の構造をほどき、泡立てていきます。泡立て機を縦に動かすよ うにするとせん断力が強く働くため、早く泡立ちます。手作業の場合はまだ砂糖は加えません。電動泡立て機を使う場合ははじめから砂糖を加えると、キメの細かい泡が立ち、よりいい状態のメレンゲができます。手作業よりも機械を使ったほうが美味しいというのはちょっと複雑ですが、、、。

この時、「少量の塩」を加えると「泡立ちやすくなる」という俗説があります。これは誤りです。泡立ちも悪くなり、安定性も落ちます。塩が溶けるとプラスのナトリウムイオンとマイナスの塩素イオンが生じ、これがタンパク質の分子の結合と競合するからです。

また水が入ると泡立ちにくくなる、と書いている人もいますが、これも誤りです。水を加えることは滅多にありませんが、水は卵白を希釈し、少量なら卵白の重を増やします。エルヴェティスは水を加えながら卵白を泡立て続ける実験を成功させていますが、水が卵白の体積の40%以上になると不安定な泡になるので実際の料理に使う場合には考慮しましょう。

かなり泡立ってきました。ここまで泡立ててから砂糖を加えていきます。潰れやすい卵白の泡に砂糖を加えることで、安定化させます。今回はグラニュー糖を使っていますが、良好な結果を出したいなら溶けやすい粉糖を使うべきです。硬いメレンゲにグラニュー糖を加えると完全に溶けずにシロップとなって染み出してくることがあります。

加える砂糖の量は少しずつ。もっと機械で泡立てている場合にはまったく気にすることはなく、最初に半分を加えて泡立て、最後に半分を加えるという形で大丈夫です。

少しずつ砂糖を加えていくことで気泡が分割され、きめがこまかくなります。また砂糖と水が混じることで粘着性が高まり、泡が硬くなります。

持ち上がるくらいになれば出来上がり。

今日はメレンゲを茹でていきます。素朴な仕上がりにするためにゴムベラでオーブンペー パーの上に落としました。

こんな感じで90度くらいの沸騰しない湯で茹でていきます。加熱時間の目安は5分。 沸騰するとメレンゲが散ってしまうので気をつけて。ちなみに正式な作り方では水ではなくバニラを入れた牛乳で茹でたりもします。味にたいした差はないので、今日は水にしました。

オーブンペーパーを使うとひっくりかえすのも簡単。裏側も2分ほど茹でます。触ると 弾力がでてくるくらいが目安。

少し膨らみます。バットや皿にとって、冷蔵庫で冷やします。

実は電子レンジでもつくることができます。適当な大きさの容器にメレンゲを詰め て、600wで20秒ほど加熱。

膨らんできたらとり出します。加熱のし過ぎに注意してください。冷蔵庫で冷やしま す。レンジでのほうが全体に加熱されるため失敗が少ないです。

あとは組み立てるだけ。下にアングレーズソースを敷き、火が通ったメレンゲを載せ ます。キャラメルクリームをかけて完成です。通常はアーモンドなどを振ることが多いです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!