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カスタードソースの科学『アングレーズソースの作り方』

料理におけるマザーソース(母なるソース)がドミグラスやホワイトソースなら、デザートにおけるそれはカスタードソース(アングレーズソース)です。Crème anglaiseはイギリス風のソースという意味。学ぶべき科学は卵黄の加熱です。

〈アングレーズソース〉
 卵黄 3個分
 グラニュー糖 40g
 牛乳 200cc
 生クリーム 50cc
 バニラ棒またはバニラペースト、またはバニラエッセンスかバニラオイル

アングレーズソースには普通、卵黄だけを使います。アングレーズソースのとろみは卵のタンパク質によるもの。加熱をすることでタンパク質が凝固し、網目構造を形成することでソースに濃度がつきます。タンパク質によるソースの濃度の原理ははまだ解明されていない部分もあるのですが、この手法自体はすでに十七世紀には考案されていました。

卵黄と卵白を分けます。卵の殻を使って分けることもできますが、手袋をはめた手でわけるのが一番早く安全。卵を冷蔵庫に入れて冷やしておくと卵黄が硬くなるので失敗するリスクが減ります。

卵黄と砂糖を撹拌します。昔はブランシールといって、ここで白っぽくなるまで混ぜるのがアングレーズソース作りのコツと言われていました。当時は温度管理のノウハウが確立していなかったからです。ブランシールは卵黄にあらかじめ空気を含ませておくことで熱の辺りを和らげる作業なので、温度管理が楽になった今では特に気にすることはなく、砂糖が溶けさえすればOK。

必要なのは温度計です。年配の料理人(not パティシエ)の方は「温度計なんて使うな!」と怒りますが、卵黄は1度単位で仕上がりが異なるので感覚では安定した仕上がりは不可能。大人しく温度計を使いましょう。

小鍋で牛乳を加熱します。この時の目安は周囲から泡が経つまでです。注意するべきことはここでも加熱温度。卵を加える前に牛乳のタンパク質が固まってしまうと(膜ができる)舌触りが悪くなるからです。実はこの工程、後の加熱時間を早めるためのものなので、さほど重要ではありません。多少、温度が低いくらいのほうが失敗がないでしょう。

また、バニラの香りを加える場合はこのタイミング。ちなみにジョエル・ロブションはバニラにプラスしてコーヒー豆を1粒加えるレシピを公表しています。かすかに薫るコーヒーの香りがバニラの香りを引き立てるという巧妙な手法です。

右手に泡立て器、左手に鍋を持って、撹拌しながら牛乳を卵黄と砂糖の混合物に注ぎます。

ボウルの中身を小鍋に移し、加熱していきます。耐熱ゴムベラで八の字をかくようにし、加熱のムラを防ぎます。火加減はかならず弱火。この時、湯煎で加熱すると失敗の確率が低くなりますが、時間がかかるので火にかけたほうが楽です。

熱を加えることで風味がよくなり、バクテリアも減らせます。卵の黄身は72度で固まりますが、牛乳で希釈しているためもう少し高い温度まで加熱します。

最終的な加熱温度はとろみがついてくる75度〜80度が目安です。カスタードソースの仕上がり温度は人によって82度から85度と様々。憶えておきたいのは温度をあげるにつれてタンパク質が凝固し、卵の味が強く出る、ということ。ヘストンブルメンタールはあっさりと仕上げたいのなら65度になったら火から下ろすべき、と主張しています。(さらっとしたとろみに仕上がりますがアイスクリームにする場合には素晴らしい仕上がりになります)

70度、80度、85度、90度(だまになるのでミキサーで撹拌してなめらかにします)まで加熱し、それぞれの味を比較するのもいいでしょう。いずれにせよ好みの温度になって火を止めても、余熱で温度が数度あがってしまうので、ボウルなどに移して加熱を止め、さらに生クリームを加えて、温度を下げます。80度で加熱を止めれば最終的な仕上がり温度は82度くらいになります。

氷水に当ててなるべく早く冷やして細菌の繁殖を抑えます。この時は均一になるように、かき混ぜながら冷やしましょう。混ぜないとタンパク質がゲル状になってしまいます。

温度計がなくてもゴムべらに指で線を引いて、これくらいの濃度という風に判断することもできますが、温度計を使った方がベターですね。粗熱がとれたら冷蔵庫で保管。すぐに使ってもいいですが、一晩、経つとバニラの香りが馴染んできるので、前日から準備しておくのがベストです。様々なデザートに使う万能ソースです。作り方はマスターしておきましょう。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!