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ベストロールキャベツの作り方〜パンかご飯か問題〜

洋食の定番、ロールキャベツ。起源はロシア料理のガルブツィという料理とされていますが、キャベツで肉ダネを巻き、煮込んだ料理は世界中で作られています。例えばフランスではシューファルシという料理があります(シューはキャベツ、ファルシは包んだという意味です)でも、日本の洋食であるロールキャベツはそのなかでも特別に美味しい。今日はベストロールキャベツの作り方を探ります。

まずは具材の検討

ロールキャベツの肉だねは挽き肉+玉ねぎが基本で、ハンバーグに似ていますが、ロールキャベツの場合はキャベツと組み合わせたときに違和感のない〈やわらかさ〉が求められます。

例えば『新しい料理の教科書』という本に掲載したハンバーグは『卵を使わず、肉感を強調した肉だね』でしたが、ロールキャベツの場合はそうはいきません。優先されるべきは肉の味よりも全体のソフトさ。

最初に検討するのはみじん切りの玉ねぎを炒めるか、炒めないか、ということ。ソフトさを出すためには玉ねぎは生のまま加えるのがオススメです。生の玉ねぎは炒め玉ねぎよりもコクや甘みは少ないですが、加熱することで水分が出ます。それによって肉種がやわらかく仕上がりますし、玉ねぎの周りのタンパク質の結合が阻害されるので、さらにふんわりとした食感に。

次に加えるのは〈卵〉です。卵黄に含まれるレシチンやタンパク質が脂肪と水分を馴染ませるので、味や食感にまろやかさが出ます。また、卵白のアルブミンは肉のタンパク質よりもやわらかく固まるので、肉だねにソフトさが出るのです。そして、もう一つ加えたい要素が〈水分〉です。

予備実験 肉だねに水分を加える

肉だねをやわらかくするためにはタンパク質の決着を弱めればいいのですから、一番シンプルなアイディアは水分を加えること。ハンバーグの場合は水分を加えても焼いているうちに流れ出て、肉がグズグズになってしまうので、入れることはありませんが、ロールキャベツであれば流れ出た肉汁をソースとして活用できるので、水分を加えるのがオススメです。

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事前に肉だねに水分を加えるだけで、食感がどれだけソフトになるのか、という実験をしました。100gのひき肉に塩1gを加え練り、玉ねぎ10gを加えたものとそこに水を50cc加えて練ったものを比較します。500ccの熱湯で3分間加熱しました。

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明らかに水を加えて練ったもののほうがふんわりとしていますし、水に肉の味も出ています。驚きべきことは肉の半量もの水分を加えたのにも関わらず、肉だねが崩れないこと。水ではなくスープや牛乳を加えればさらにおいしくなったことでしょう。

ところで肉だねに水分を加えて練り込むのは中国料理の技法です。中国料理では加えた水分を肉だねにとどめておくためにさらに片栗粉を混ぜます。それではロールキャベツではなにを加えればいいのでしょうか?

パン粉かご飯か、それが問題だ

ロールキャベツの肉だねに水分を抱え込んでおくために加える最も一般的な材料は『パン粉』です。パン粉の役割は〈つなぎ〉と思われていますが、実際には肉の結着を緩め、肉ダネをソフトにします。(パン粉は加熱してもくっつかないので)

パン粉はつなぎにはなりませんが、肉だねから出てきた水分を吸い込み、味を留めてくれます。入れすぎると肉の味が薄くなる、というデメリットもありますが、ロールキャベツの場合はパン粉を混ぜるのは有効な手段です。

しかし、最近では『パン粉』の代わりに『冷やご飯』を加えたほうがいい、という意見も。なるほど、リゾットを想像してもらえばわかりますが、米のデンプンも水分を抱え込みゲル状に保つ働きがあります。これは比較してみる価値がありそうです。

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ひき肉の量の10%の重量のパン粉20gと牛乳20ccを加えて練った肉だねと、、、

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冷ご飯40gを加えて練った肉だねで、同様にロールキャベツをつくり、比較します。

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結果は冷ご飯のほうが肉だねがやわらかく、甘みの利いたロールキャベツになりました。パン粉も悪くないのですが、冷ご飯特有の甘みがひき肉の味を軽くする働きもあるよう。以上の検討から最高のロールキャベツに加える副材料はパン粉ではなく『冷ご飯』に決定しました。それではレシピです。

ロールキャベツ 4人前
キャベツの葉 8枚
合挽き肉  400g
塩     4g
玉ねぎ   150g(小1個)
卵     1個
トマトケチャップ 大さじ1
冷ご飯   40g

ベーコン   4枚(70g〜80g)
トマトジュース 500cc(無塩、低塩どちらでも可)
バター    30g
塩      小さじ1/2(3g)

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まず、キャベツの準備から。キャベツは芯を切り抜きますがこの時、手を切らないように注意してください。差し込むようにして切ると比較的安全です。

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熱湯でキャベツを茹でます。

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火が通ると剥がれてくるので、トングや菜箸などですくい上げ、氷水や流水にとっていきます。もしも、剥がれないようならそれは芯が繋がっている、ということなので、最初の工程に戻り、大きめに芯をえぐりなおしてください。

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七枚とったらキャベツを引き上げ、氷水につけます。その状態で八枚目のキャベツの葉を剥がしたら、残ったキャベツは水気を拭き取り、ビニール袋に入れるか、ラップで包み、冷蔵庫で保存します。それぞれの葉も氷水に浸け、冷やします。

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キッチンペーパーか布巾で水気を拭き取り、芯の部分を削いで平らにしておきます。これでキャベツの準備は完了。

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肉ダネをつくります。ボウルに挽き肉と塩を入れ、まず捏ねてから、他の材料を加えていきます。

ハンバーグの場合は肉の粒感を残したかったので、あまり捏ねませんでしたが、ロールキャベツの場合はボロボロに崩れると食べづらいので、しっかりと捏ねます。多少、捏ねすぎても味に大きな影響はなく、逆に捏ねたりないほうが問題が生じやすいようです。肉の結着力を引き出してから、それを副素材(卵や玉ねぎ、冷ご飯)で緩めるイメージです。冷ご飯は手で潰すようにすると形が消えますが、そこまで神経質にならなくても大丈夫。

隠し味に入るのがトマトケチャップ。グルタミン酸の味を補強することで全体の旨味を引き出します。

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肉ダネをキャベツの葉の中心からやや左よりに置きます。肉だねの重量は90g〜100gが目安です。

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ロールキャベツは〈包む〉のではなく、〈ロール=巻く〉料理なので、手前からいていきます。

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キャベツの左側を折込んで、さらに巻き込みます。

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巻き終わり。

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最後に右側を中に押し込みます。これがロールキャベツの基本の巻き方。ちゃんと巻き込めば楊枝などは必要ありません。

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鍋に並べます。この時、きっちりと収まる大きさの鍋を使うことも重要なポイント。もしも、鍋に隙間ができるようであれば茹でたキャベツで空間を埋める、あるいは鍋に入らないようであればつくる量を減らすのが安全です。

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落し蓋代わりに味出しのためのベーコンを並べ、トマトジュースを500cc注ぎます。今回、トマトジュースは低塩タイプのものを使いました。

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バター30gを置いて、中火にかけます。

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鍋のフタは少しずらした状態にしておいてください。そうしないとなかの液体が沸騰しすぎてロールキャベツが煮崩れたりします。沸いてきたら、弱火に落として30分。火を止めて、15分で出来上がりです。最後に塩小さじ1/2(3g)を加えて、味を調えます。

煮込み時間が長いほどキャベツはやわらかくなるので、時間に余裕があれば湯を足すなどしてもっと長く煮込む手もありますが、普段は45分程度の加熱で充分。

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最後に水溶き片栗粉でとろみをつけます。生クリームなどを加えてもいいでしょう。

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出来上がり。肉のジューシーさとトマトの酸味だけで完成度の高い味わいになります。

ところで冒頭に述べたロシア料理のガルブツィというロールキャベツの起源はトルコ料理のドルマと言われています。ドルマはブドウの葉でひき肉を包んでから煮込む料理ですが、ロシアではブドウの葉が手に入らないのでキャベツで代用したことからロールキャベツが生まれたのでしょう。ドルマの場合、ひき肉に茹でた米を混ぜることが多いので、ある意味このレシピは先祖返りと言えるかもしれません。パン粉も悪くないのですが、ご飯の味がやはり日本人には馴染みがあるもの。ほっとする美味しさだと思います。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!