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究極のフライドポテトを目指して

世界一のフライドポテトとして挙げられているのはイギリスの三つ星シェフ、ヘスト ン・ブルメンタールの「三段階に調理したフライドポテト」です。英語版のwikipediaに「Triple Cooked Chips」という項目が作られるほど有名になりまし たが、今回はその作り方を参考にしながら美味しいフライドポテトをつくってみま す。

まずはじゃがいもの選択から。じゃがいもは男爵などの水分含有量の少ない= ほくほくした芋と、メークインのような水分含有量の多い=しっとり系にわかれま す。ヘストンブルメンタールはマリス・パイパーというほくほく系のじゃがいもを薦 めています。このマリス・パイパー、ちょっと日本のじゃがいもでは太刀打ちできないほどおいしい品種なのですが、仕方がないので入手しやすいほくほく系の芋を使ってください。

じゃがいもを選ぶ際の注意点が1つだけ。ジャガイモのグラタンの時は冷蔵庫に入れて糖化させたじゃがいもを使いましたが、糖を増やすとカリカリの仕上がりになりません。越冬じゃがいもなどの高級じゃがいもは使わないこと。熟成させてしまっても常温に出しておけば糖がデンプンに戻るので、一日常温に置いたものを使えば大丈夫です。

今回のレシピは究極を目指したものですが、参考にはなるはず……です。おいしいフライドポテトを目指すならできたらこの3つの手順を守ってください。

1 茹でてから冷ます
2 低温で揚げてから冷ます
3    高温で揚げる

順番に見て行きましょう。

さて、おいしいポテトフライをつくるためのポイントはじゃがいもの澱粉と水分量です。 乾燥しすぎているポテトはカリカリになりすぎ、水分を多く含んでいると逆にカリカリ感がでません。ヘストン・ブルメンタールは実験の結果から水分含有量22.5%が最適である、と結論づけています。問題は外から見ただけではわかりづらいこと。

たしかめるためには塩水に沈めてみるのが簡単です。1Lに対して9%重量の塩を溶かし(塩分濃度で8.25%)ます。そして、この塩水に沈むことを確かめ、沈まないジャガイモは除外します。次に

水1Lに対して12%重量の塩を溶かし(塩分濃度で10.7%)、浮かぶじゃがいもだけを使うことにします。

この芋は沈んだので除外です。この工程によって水分含有量、およびデンプンの量ををある程度、揃えることができます。

じゃがいもは皮を剥いて、棒状に切り揃え、流水に五分間つけて表面の糖分を除去します。

〈一段階目の調理〉


さて、いよいよ一段階目の調理です。フライドポテトは普通に揚げるだけではカリカリになりません。

そこでまず塩水でじゃがいもを茹でます。水1lに10gの塩を溶かした塩水を準備し、

じゃがいもを入れて火にかけます。今回は最終的にあまり焦げ色を強くしない仕上がりを目指しているので水に加えた調味料は塩だけですが、さらに水あめ(またはコーンシロップ)と重曹を入れた液体で茹でる方法もあります。水あめは最終的な香ばしさに貢献し、重曹は表面の細胞を壊し、カリカリ感がアップします。

沸騰したら火を弱め、15分間。(ヘストンブルメンタールは20分間を薦めていま すが日本のじゃがいもだと崩れるかもしれません)この工程によって澱粉は水を含んで膨らむので、内側がソフトなテクスチャーになります。

かなり柔らかくなるので、扱いには注意。表面に亀裂が走るまで加熱します。写真はまだ茹でたりないですね。

ケーキラックなどに並べて水分をとります。崩れそうな感じですが、冷やせば硬くなります。さて、ここで表面の水分をできるだけ除去する必要があります。電子レンジやドライヤー、真空包装機など様々な手法を試したヘストンさんが家庭向けとしてたどり着いた結論は

針で一つ一つ穴をあけること。この作業は異常に手間がかかるので、省略することもできますが、より完璧な仕上がりを目指すためには有益な作業です。ちなみに真空乾燥機を使うのが本式のやり方です。さらにじゃがいもの表面の水分を飛ばすために冷凍庫に一時間入れて、表面を乾燥さ せます。マクドナルドのマックフライポテトはこの冷凍という工程によってクリスピ ーな食感を長持ちさせています。

〈二段階目の調理〉 

冷凍庫から出したじゃがいもを今度は揚げていきます。

じゃがいもは二度揚げします。一度目の加熱は130度、低温で10分間ゆっくりと加 熱します。茹でたイモの表面にはデンプンの粒が並んでいます。低温で揚げることでそれがゼラチン化(ゲル状になり)し、外側の澱粉が層を形成してカリカリの食感になるのです。たしかに穴を開けておくと、そこから水分が逃げるのがわかるので、手間をかけた意味はありそうです。

一度目の揚げの完了。また冷凍庫に一時間入れて、さらに表面の水分を乾燥させます。 さすがにこのポテト、作りたてを提供するのは現実的ではないので、この状態で冷凍するのが得策です。その場合は凍らせてから、油の酸化を防ぐために袋に移し替えたほうがいいでしょう。

〈三段階目の調理〉

いよいよ仕上げの加熱です。今度の揚げは香ばしい表面の層をつくるためなのでやや高温、180度の油で揚げていきます。

3分ほど揚げていくと香ばしい揚げ色がつきます。すでに内側は加熱されているので、 加熱時間は短くても大丈夫。

出来上がり。表面はカリカリで内側はしっとりしていますし、塩水で茹でているため に下味がついているのも味の特徴でしょうか。物理学的にはよくできたフライドポテトは表面が炭水化物でできたガラス状になっています。ガラス状の物質は風味を内側に閉じ込めるため、フライドポテトはジャガイモの風味を強く感じるのです。

反省点としては外側のカリカリと内側のバランスについてももう少し考える必要があるかもしれません。マックフライポテトの細さにもそれなりに理由がありそうです。また、外側のかりかりした部分を厚くしたければ二度目の揚げの工程の温度をもう少し低い温度(170度)くらいで長めに揚げた方が良さそう。究極のフライドポテトを目指して、まだ探求する余地は多そうですね。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!