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ジャガイモのグラタンは熟成がおいしさの秘密

じゃがいも料理の究極の形はグラタンではないか、と思います。じゃがいもと乳製品の相性は抜群。今日はグラタン・ドフィノワをつくります 。グラタン・ドフィノワは調理師学校に入学すると最初に習うフランス料理です。

グラタン・ドフィノワ
 ジャガイモ 500g(皮を除いた重量)
 生クリーム 200c(乳脂肪分45%)
 牛乳 200cc
 塩 5g(小さじ1)
 ニンニク 一片
 チーズ(グリエールが一般的ですが、今回はパルメジャーノチーズ) 適量

さて、ジャガイモのグラタンのおいしさの秘密はなんでしょうか。料理の味を決めるのは結局のところ素材──主役であるジャガイモ選びにかかっています。品種はメークインなどの粘質系よりも、ソースとの一体感が生まれる男爵系のものを使います。

ジャガイモの美味しさを決めるのは糖分。北海道や東北の農家では越冬じゃがいもといって雪のなかでじゃがいもを保存する智慧があります。実はジャガイモは低温、かつ高い湿度の環境下で保存すると、デンプンを糖分に変える性質があります。(そうすることで自ら凍ってしまうのを防いでいるのです)
というわけで買ってきたジャガイモを新聞紙などに包みます。

その後、ジッパー付きの袋に入れ、冷蔵庫やチルド室などで、最低でも一週間、できれば 二週間は寝かせます。雪室の状況を冷蔵庫で再現する熟成作業によって、ジャガイモの糖度が上がります。もちろん、澱粉が減少するのでフライドポテトはカリッと揚がらなくなりますが、肉じゃがやマッシュポテト用のじゃがいもには向いている保存方法です。

熟成させたジャガイモはよく洗ってから、皮を剥きます。だいたい500gぐらいですね。また、この熟成ジャガイモは常温に置いておくと再び糖分が澱粉に戻ってしまうので注意が必要です。

クリームと牛乳で加熱していきますが、この割合で味に個性が出てきます。同量が基本ですが、牛乳の割合を増やせばあっさりと、クリームの割合を増やすと濃厚になります。

牛乳でじゃがいもの皮を煮出します。ジャガイモの香り成分であるメチオナールは皮に多く含まれているからです。また、ジャガイモのグラタンはジャガイモに含まれるデンプンによってソースに濃度がつきますが、デンプン粒子もまた皮の下すぐに多く存在しています。

牛乳が沸騰したら火を止めて、香りをうつします。

スライサーでジャガイモをスライスしていきます。包丁でももちろん大丈夫。厚さは2mm。この厚さも問題で、厚い方が質感は活かせますが、ソースとの一体感が失われますし、逆に薄いとほくほく感がなくなります。
また、ジャガイモを水にさらすと澱粉が流れてしまうので、今回は切った端から生クリームに落としています。ここも人によって解釈がわかれるところで、例えばジョエル・ロブションはジャガイモを水にさらし、洗ってもよいとしています。ちなみにロブションスタイルのグラタンはジャガイモを牛乳で茹でてから、その煮汁は捨ててしまい、新たにクリームを足してオーブンで焼き上げるという洗練されたもの。今つくっているグラタンは真逆のベクトルの味です。

もう一つ、重要な工程が味付けです。フライドポテトやポテトチップスに代表されるように、ジャガイモと脂肪分があわさった料理は塩味が利いてこそおいしいもの。今回は健康のことは考えず塩をしっかり利かせます。400ccの液体に対して塩5g。重量比になおすと1.25%、ソースの塩分濃度と考えるとかなりの量ですが、良心 が許すなら6g(1.5%)まで増やすことができます。(というか味だけを考えるなら 6gがおすすめです)
塩っぱくなるのではと心配な方はラーメンのスープを思い出してください。ラーメンスープの塩分濃度は一般的に1.2%~1.5%(つけ麺はなんと1.7%)。脂肪分の多いスープで炭水化物(麺)を食べるラーメンと、乳脂肪分で炭水化物(ジャガイモ)を食べるジャガイモのグラタンは味の構造的には近い料理です。塩気の効いていないラーメンはおいしくないように、ぼやけた味のジャガイモのグラタンも実に寂しいもの。ただし体にはもちろんよくないので、そこらへんはご了承を。

さて、説明が長くなりましたが、液体と皮を分離させ、生クリームと混ぜてソースを 作ります。塩はこの段階で加えてもOK。いずれにせよきちんと溶かしてください。

オーブン皿ににんにくをこすりつけ、香りづけをします。この時、にんにくが潰れるほど強くこすりつけるのがコツ。ニンニクの細胞を潰しながら香り成分を皿の表面にうつします。

すべてを一つにあわせてオーブン皿に注ぎます。一般的なグラタン・ドフィノワのレシピではクリームと牛乳の混合液でじゃがいもを煮て、それから皿にうつし、オーブンで表面を焼きますが、今回は生のじゃがいもを液体に浸してオーブンで焼いていきます。この調理法のメリットは焦げが美味しくなること。その秘密は牛乳とクリームを加熱することで表面に湯葉のように浮いてくるタンパク質です。もちろん鍋で煮たとしても表面に出来た層を崩さないようにしてオーブン皿にうつせば同じ味が出せるのでこのあたりはお好みで。

表面をスプーンで抑えて、じゃがいもが液体にひたるようにします。隙間にもちゃんと液体が入るようにしましょう。170度のオ ーブンで40分間焼きます。

40分後がこんな感じ。焦げるようなら途中でアルミホイルをかけてください。(最初からアルミホイルをかけると吹きこぼれるので注意)表面に浮いた乳製品のタンパク質が焦げて、風味を出しているのがわかります。古典的なグラタン・ドフィノワは普通、チーズは振りませんが、今回は究極を目指しパルメジャーノチー ズを適量、振りかけてから、さらにオーブンに5分ほど入れて、表面を焦がしました。グラタンという言葉は本来、この焦げを指します。

出来上がりです。熱いうちに食べるのも美味しいですが、少し落ち着いてから食べる とソースとの一体感が増します。毎日食べるには明らかに体に毒ですが、たまにな ら......という感じの料理でしょうか。肉料理の付け合わせにもなりますし、サラダを添えてメインにもなる立派な料理で、チーズを変えても(ブルーチーズを振るのはいかがでしょう?)色々と楽しめます。

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樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。

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