- 運営しているクリエイター
2021年4月の記事一覧
小説『美しい味』─第2章-2
近いうちに東京に行くつもりや、と告げると、武造は激怒した。そんな必要はない、と言うのである。
「親が死ぬ前に会いたい言うとるのに、薄情や」
房次郎が反論すると、武造は房次郎を見ずに作業台を叩いた。夜は更けて、室内には灯りが一つ灯っているだけだ。武造のいくぶん丸くなった背中が影になって、床に伸びていた。
「恩知らずが。お前を拾ったのは誰や思うとる。お前はここにおって、働いていればいい」
「しかし
近いうちに東京に行くつもりや、と告げると、武造は激怒した。そんな必要はない、と言うのである。
「親が死ぬ前に会いたい言うとるのに、薄情や」
房次郎が反論すると、武造は房次郎を見ずに作業台を叩いた。夜は更けて、室内には灯りが一つ灯っているだけだ。武造のいくぶん丸くなった背中が影になって、床に伸びていた。
「恩知らずが。お前を拾ったのは誰や思うとる。お前はここにおって、働いていればいい」
「しかし