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小説『美しい味』─樋口直哉

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樋口直哉 小説『美しい味』─第2章-2

樋口直哉 小説『美しい味』─第2章-2

 考えた房次郎は古本屋巡りをした。絵を描くための筆や絵の具はとりあえず後回しにして、法帖を買い漁ることにしたのだ。法帖とは先人の書の筆跡を刷った本である。
 書なら金になる、と手本を横に置き、房次郎はそれを真似た。手本を見て描く臨書は書を学ぶ基本である。一年が経ち、二年が過ぎると房次郎の書の腕前はかなりのものになった。
 ある日、知らない男性が仕事場を訪ねてきた。
「福田房次郎ってのはあんたかい?

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