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ペテルブルクに架かる橋(中編)
ロシアの都市と言えばまずモスクワだが、第二にくるのがサンクトペテルブルクだろう。スケールは全く異なるが、感覚でいえば日本でいう東京と京都のようなものだろうか。どちらも国内で主要な都市だが、雰囲気は全く異なる。
モスクワは赤を基調とした、独自の厳粛な雰囲気の建物が多かった。一方のサンクトペテルブルクはパステルカラーの建物が多く、他のヨーロッパ諸国と似た優美さを誇っている。ピンク、水色、黄色…ドレスのような色が並ぶ。
ペテルブルクには、曇り空が多いという。だからこそ、建物の外装に空の白色に映えるような色が選ばれているらしい。カンバスのような空に、色彩豊かな街並みが映える。バスから降りると息が白く昇った。
バスから降りて、有名な建物をカメラにおさめた。血の上の救世主教会、カザン大聖堂、イサク聖堂…どれも街並み同様に美しく、装飾の細かさや独特の形はいくら眺めても飽きない。
しかし、美しさの中に引っかかるものがあった。はっとさせられるような、一言「きれい」ですませるには重すぎる何かがそこには漂っていた。
出発前に見た、ロシアの教会に飾られる絵画にも同じものを感じた。イコンと呼ばれるこの絵画には、一見してルネサンス期のフランス、イタリアのような華やかさはない。表情も乏しくデザインもさほど変わり映えがない。しかし、何とはなしに見ていて謹み深い気持ちになる。
それはこれらの教会や絵画が、布教や権力の誇示ではなく、ただ祈る者のために造られているからではないかと思った。
イコンとは実は家庭にもあるもので、それを通して人々は家でも神に祈りを捧げることができる。戦争、恐怖政治、貧困…数知れずの苦しみに喘ぎながらも、ロシアに暮らす人々はこの教会の中、イコンの前で救いを求めていたのだろうか。
市街から次の目的地へ向かう途中、町外れのレストランでボルシチと焼きリンゴを食べた。冷えた体に温かいスープが沁みた。レストランでは大抵、オプションでウォッカやビール、ジュースをつけることができた。
意外な話だが、最近ではロシアの若者はウォッカを飲まないらしい。年配の方が好んで飲むようだ。何人かの男性ツアー客が、ウォッカを頼んでは顔を赤くして上機嫌に笑っていた。
食事中はよく他のツアー客と話した。総じて他のヨーロッパ諸国には行ったことのある旅のベテランが多かった。だからかどのテーブルも話題には事欠かないようだった。どこへ行って何が素敵だった、こんなトラブルかあった…。
旅をする人は知的好奇心に富んでいて、私の目には魅力的に映った。ツアーが終わったら卒業式に出て、4月になれば私は社会人になる。このような人達に会える機会はそうそうなくなるだろう。だからこそ、できるだけたくさん話をしようと考えた。今までどこへ行きどんな景色を見たのか、どんなことに興味を持って旅をしているのか。
彼らと一杯交わしたい気持ちも少なからずあったが、私はその日は飲まなかった。午後の行き先に感覚を鈍らせて向かうわけにはいかない。
私達が次へ向かうのは世界三大美術館の一つ、エルミタージュ美術館なのだから。
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