安野白魚

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旅の始りと戀の終り(1)

10月某日 月曜日  けたたましいアラームで心臓が止まる。その0.1秒後に目が醒める。ディエゴのスマートフォンだ。午前4時半。両国のビジネスホテル。どんな音でも選べるのに何だってこんな災害警報みたいな轟音をセットするのか。目は確実に覚めたが、暴力的に叩き起こされたショックで動悸が激しい。  ディエゴが浴衣の中に手を入れて来る。髭に縁取られた口のキスはいつも少し息苦しい。まだ半分寝てゐる体が彼の体重でひしがれる。いつものやうに始まる朝。しかし彼は途中で諦める。 「仕事の前

    • 旅と語学と戀愛と。

      謹賀新年。 人生で何をしたいかわからないという人がゐる。私は、自分が何をしたいかは、物心ついた時既に一点の迷ひもなくわかってゐた。但し、多くの人と同様、自分のしたいことは一つとして出来ないものと、生まれてこの方固く、深く信じてゐた。根拠もなく盲目的に。遍く徹底した教育の賜物である。 抑鬱状態といふのは絶望の直接的な表現である。絶望といふのは、諸相あるやうに見えても、煎じ詰めれば、生きたいようには生きられないと思ふ苦しみに他ならない。それは一つの信念に過ぎないのだが、この信

    旅の始りと戀の終り(1)