【一次創作】ある書物の写本化記録 (1)
管理庫で『空読記』と記された、古い書物を見つけたのは昼間のこと。著者名のないこの書物は「古代西グランダ語」という、非常に特殊な言語で記されており、学者や保存師の中でも解読できる者が限られていた。
たまたま“趣味”で古代西グランダ語を習得していた私は、見習いの身ながらこの『空読記』の写本制作を指示されることになった。学者でも解読が難しいものを見習いに読み解けとは、無茶にも程があるのではないか。
原本を開くと、まず目に飛び込んできたのは流麗な筆記体で書かれた文章だった。ページの上から下まで隙間なく書き込まれ、第三者に読ませるために書かれたものではないことは一目で判別できる。収蔵記録から記されたのは王国歴3500年代後期と判断し、同じ年代の書物を片手に解読を始めていく。
筆記体は筆者の性格や癖などにより、解読に時間がかかることが多い。この著者も御多分に漏れず、かなり独特な筆致による判別不能な単語が散見された。この場合、前後の文章を照らし合わせ、幾つかの単語を当てていくことになる。
瞬く間に数日が過ぎた。片側一頁とはいえ隅から隅まで几帳面に書き込まれた文字を、誤字脱字なく、更に筆者の癖や崩し字を読み解きながら書き写すのは容易なことではない。
3500年代と言えば、国内で既に自動筆記が一般にも広く普及していた時代だ。その時代に手書き、しかも高品質の羊皮紙で残された書物。そうして記されるだけ重要な記録があるのだろうか。今の所「夕食に煮込んだ鶏を丸ごと猫に盗まれた」と言った記録しか目に着かないが。
汚損個所については、汚損状態により ■■ または[ 汚損により判別不能 ]としている。
W-A.R. ■35 青葉の月 17日
現在地:北の王国 アルベラン領ヴァルダーヤ
屋外:曇天 域内:晴天
書庫の虫干しの時期が近いが、滞在を始めて■■既に二週以上雲行きが■■■■■。町も続く曇天に活気がなく、庭の野菜も、そこの河原の魚も活きが悪い。他人の飯を狙う猫くらいが唯一■■■■。
先の争乱、今や伝承■■■■北の魔王■■■■■■■、同様の■■■■■している。■■■■■封印に問題がない■■■聖王■■■■示している■■■■、明日■■■メベラに向け出発■■■■■■■■■■■■。
[ 以後、汚損により判別不能。恐らく意図的なものと思われる。
削除は行われていないため、
何らかの方法で汚損の除去が可能となれば、
解読可能であろうと思われる ]
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