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本棚の一冊を紹介する 三冊目「となりの吸血鬼さん」

三作目にしてネタ切れが怖くなってきましたが、本日紹介させていただく一作は甘党先生の「となりの吸血鬼さん」です。

表紙


この作品も18年秋クールにアニメ化されていた作品で、後半でも言及したいと思いますが本当にいいアニメでした。当然のようにアニメから入ってます。ミーハー上等、最後までついていくから許しての精神で生きています。
さて、この作品はジャンルとしては日常系、掲載誌は違いますが「きらら系」と呼ばれる空気感で、序盤に一回だけあったケンカを除けば辛いことのない優しい世界です。いや、ケンカしてた二人の譲れない部分の衝突とはいえ妙に重いシーンなので自分のように心の弱いオタクにはちょっとダメージですが、それ以外は安心して読めます。
特筆すべき点はタイトルにもあるとおり、主人公の一人であるソフィー・トワイライトとその友人エリーが吸血鬼であるという点です。それだけなら他の日常系作品にもあるでしょうが、本作は世界観への落とし込みかたが実にうまい。
吸血鬼を作品に登場させる上での宿命…もとい前提として、吸血鬼における食事である血液摂取の問題があります。吸血鬼伝承の生まれた中世ならいざ知らず、現代日本において吸血行為は難しい。後述しますが本作の吸血鬼は洗脳や姿を変えるといった特殊能力があるわけでもない。まして人から血を吸うという行為は優しい世界と食い合わせが悪いでしょう。
それをどう解決しているか…なんと、この世界では通販で普通に血液が買えるのです。
こう言ってしまえば力業も力業、「そんなのアリか」と言いたくなるような設定ですが、なんともスマートに吸血鬼の食事問題を解決してしまっているのがお見事。当然吸血鬼がこの二人だけというわけではないことは作中でも示唆されていますし、これも作中の前に誰かが見いだした「共生」の形なのでしょう。自分はそういうのに弱いです。
また、本作の吸血鬼のスペックは他作品と比較しても下から二三を争うほどに弱い(最弱はどう考えてもCV:福山潤のすぐ死ぬ彼なので除外)。最弱ほど理不尽に弱くはないものの、太陽、十字架、にんにくと思いつく限りの吸血鬼の弱点が律儀にも全て通る。そのわりに特殊能力といえば空を飛べるのと怪力、長寿程度。日常系作品としてはオーバースペックではありますが、弱点全部盛りを踏まえるともう一声あってもいいんじゃないかなと思ったり…
物語はそんなソフィーともう一人の主人公、灯が出会うところから始まります。夜の森で迷子になっていた灯をソフィーが助けたことから灯がソフィーに一目惚れし、吸血鬼と知った上でぐいぐいと近づいていき、なんと一緒に住むところまで押し込みます。…この時点では灯のほうがヤバいやつに見えますが問題ありません。この時点だけじゃないので。そんな二人に灯の友人のひなた、ソフィーを追いかけてきたエリーが加わり、メタ的な見方をすればメンバー集結し、ほのぼのとした日常を過ごしていく…というストーリー。
さて、この作品の一番の魅力を語るなら、それはやはり見事なまでの「相互理解と共生」が無理なく行われているところです。
ソフィーと灯、二人は一緒に住んでいると言っても生活サイクルは夜型と朝型で真逆。学校もありますし、普段はそれほど一緒にいられるわけじゃない。それでもたまの休日や夏休みには夜ふかしや朝ふかし(?)をして一緒に遊んだりもする。また吸血鬼は人間の血液でしか生きていけない(ここも一番厳しい設定)ため、灯と同じ料理は食べられない。それでも風流を味わうために凍らせてアイスみたいにしたり、かき氷にしたり、器を変えてスープみたいにしたりと工夫をこらして同じ食卓を囲む。このあたりの言語化はエンディングが秀逸すぎるので引用させていただこう。

「君だけ少しテンポがズレても 笑顔で ドキドキしながら 一番に言いたいの 『おはよう』って」
宮嶋淳子(SUPA LOVE)作詞:「HAPPY!!ストレンジフレンズ」より。

エンディング映像では二度繰り返される部分であり、朝起きて学校に行く灯から寝る前のソフィーへの「おはよう」と、学校から帰ってきた灯から夕方に目覚めたソフィーへの「おはよう」の二種類として描写されている。原作への理解度があまりにも高すぎる。
少しズレるテンポについても、曲中の二度目の繰り返しでは「平気よ」とフォローされており、寿命の長さ、生活サイクルのズレ、この先のこと等如何様にも読み取れる凄まじい曲なのです。単品の曲としても完成度が高く、当時鬼のように繰り返して聴いていました。
閑話休題、この作品を語る上でどうしても言及したいのが「アニメの最終回」についてです。原作の最終回がある種これからもみんなの日常が続いていくものの、読者である我々が見られるのはここまで、というすっきりした幕引きだったのに対して、アニメの最終回は今でも忘れられない爪痕を自分に残すものだった。
詳細はネタバレ回避…もとい、自分の目で見てほしいので触れませんが、アニメが原作を超えた瞬間だと自分は感じました。エモい。日常系作品の最終回の一つの答えが出てしまったと自分は思いましたし、あれにハッキリ比肩しうると思う最終回は一作だけ、それも山場を最終回に持ってきた形でしたので、原作のエピソードを盛ってあそこに落としこんだアニメ版「となりの吸血鬼さん」はこれからの彼女たちの日常を暗示しつつも、1クール12話の終わりとして完璧なピリオドでした。本当にエモい。
あまりに中身を語ってなさすぎますが、こればっかりはアニメを最後まで見た上で「これの話だったのか」と体験してほしいのです…こんな場末のキモオタの戯れ言で知った気になってほしくないのです…

さて、自己満足で書いているとはいえこれを読んで興味が湧いて手にとってくれる人、あるいは知った名前だなと懐かしんでくれる人がいらっしゃったら本当に嬉しいなと思います。一応完結した作品で本屋に置いているような本を紹介していきたいと思っています。電子書籍が幅をきかせつつあるご時世ですが、本屋に足を運び、知らない作品や聞いたことあるけどよくわからない作品を手に取る楽しみは色褪せるものではありませんので…


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