秋の夜長、白馬の王子さまの対義語を考える

暇なので、恐らく先行研究がいくらでもあるようなテーマについて、考えてみたいと思う。
理想の男性像を示す言葉として用いられる「白馬の王子さま」という単語があるが、この逆として認知されている単語を自分は知らない。美しい女性を表現する単語は数あれど、果たして万人が納得するような理想の女性像として挙げることができるような表現は見つかるのか、いくつかのアプローチで自分の薄っぺらい知識の限界に挑戦してみようと思う。

アプローチ①:真逆の言葉を当ててみる

使い古されているであろうネタをあえて書いてみる。白の反対は黒、王子さまの反対はお姫さま、とここまではいい。馬の対義語ってなんだ?ウマ娘の対義語としてネットでヒト息子とネタにされているが、馬の対義語が人であるというのは成り立たない。趣旨がブレるしここをゴールにしてはいけない気がする。あえて当てるならば人を引く労力として古来より共生してきた牛や、愚かなものを指す単語として馬と並べられる鹿あたりであろうか。ポケモンのバージョン違いくらいの感覚だ。これを書くにあたって「馬鹿」という単語の由来を調べてみたところさまざまな説がありすぎて混乱した。馬鹿なので。

これらを踏まえて対義語を捻出するならば、「黒牛の姫」、あるいは「黒鹿の姫君」となる。黒牛の姫だと和牛みたいだな。個人的には黒い鹿に乗った姫というのは中二心をくすぐられる…もとい、普通にアリだと感じてしまったが、万人が納得するかと言われると否であろう。こんな中二馬鹿筆者の癖に刺さる単語ではなく、最大公約数的な答えを探すべきだ。

アプローチ②:単語に込められた意味を解釈し、その逆を考える

「白馬の王子さま」の役割…ここに言葉を挟むこと自体が無粋であると承知で、それでも「白馬の王子さま」に課せられた役割を書き出すならば、
・自分を見いだし、迎えにきてくれる者
・現状を変えてくれる存在
・おとぎ話の中の登場人物
あたりだろうか。
個人的に「おとぎ話の中の登場人物」の部分がミソであるのではないかと思う。当然の話として、この成句が使われる日本において王子さまとエンカウントする可能性も、白馬を軽車両として公道を駆り、誰かがあなたを迎えに来る可能性もゼロと仮定していいほど低い。あくまで「白馬の王子さま」は都合のいい物語の中の存在なのだ。仮に「白馬の王子さま」に憧れる人の元に本当に白毛の馬に乗った異国の王子が現れたとして、手放しに大喜びする人は少ないのではないだろうか。

残りの二要素も踏まえて「白馬の王子さま」に込められた役割を筆者なりに再解釈するならば、「現状をよりよいものに変えてくれる、自分のもとにやって来る都合のいい架空の存在」となる。見も蓋もない。
しかもこれはこれで理想の女性像の一つの答えであるようにも思える。オタクに優しいギャル、皆さんお好きでしょう?筆者は好きです。
しかし本題は「白馬の王子さま」の対義語を考えることである。ここでひっくり返せる要素があるとするならば、「自分を見いだし、迎えにきてくれる」の部分ではないだろうか。「都合のいい」「架空」といった要素はひっくり返すと途端に「理想の女性像」という当初の目的から離れるためそのままにする。数学においても「逆」と「対偶」とは別の概念なので。ならアプローチ①はなんだったのかという疑問は飲み込んでいただけるとありがたい。
寄り道は多かったもののゴールは近い。「自分を見いだし、迎えにきてくれる」の逆は「相手を見いだし、迎えにいく」ことだ。すなわち、昨今のラブコメで見られるような「地味で目立たない存在だけど俺だけが魅力に気づいているヒロイン」が答えであるといえる。ちょっと待て本当にそうか?これ?

アプローチ③:恋はダービー☆

アニメやスマホ向けゲームとして幅広くメディア展開されている「ウマ娘 プリティーダービー」、その中に登場する楽曲に「恋はダービー☆」という曲がある。過去に存在した名馬をモデルとするトウカイテイオーというキャラクターの曲であり、ポップな曲調で恋心の始まりを歌う中毒性の高い名曲だ。その一節にこのようなフレーズがある。

白馬の王子じゃなくていい 君がいい
(作詞:Cygames corochi様)

切り口としてはふざけているように思われた方も多いかもしれないが、この歌詞は今回の目的としてはかなりクリティカルな一節ではないかと思われる。
理想があろうとも実際に好きになってしまえば関係ない。好きになったから好きなのだという気持ちの動きは性別問わず共通する心理ではないだろうか。
つまり、「白馬の王子さま」の対義語の目指す方向性は「将来は特に想定せず、とりあえず目指す第一目標」を示すものといえる。いよいよ筆者の品性の下劣さがにじみ出てきた気がする。

アプローチ④:既存の言葉を探してみる

ここまでの結論を踏まえて、既存の言葉の中に筆者がこれまで無駄に書き連ねたエッセンス(黒鹿の姫君は除く)を含む成句が既にあるなら結びとして美しいのではないか。
筆者の貧しいボキャブラリーの中で、身分高き女性というところでまず思いついた単語は「深窓の令嬢」だ。「深窓」とは屋敷の奥の部屋の意、とのことで、すなわち大事に育てられたお嬢様、といったニュアンスの筆者の雑な理解でだいたい合っていたようだ。
アプローチ②に倣いステレオタイプな「深窓の令嬢」の役割を書き出すならば、
・お嬢様は見いだされ、迎えに来てもらう側
・「深窓の令嬢」を望む平凡な者にこそ変える余地のあるロイヤル教育とリッチ家庭環境
・普通に生きていれば関わらない≒マンガの中の登場人物
とでもなるだろうか。お嬢様の存在も、下々の存在に目をかけることも、なんなら世間知らずを露呈するエピソードも物語の中にだけ存在すると言いきってしまって差し支えないくらいにはお目にかかれない存在だ。つまりアプローチ②で挙げた「白馬の王子さま」の逆の役割と解釈することができる。自分だけが魅力に気づいているという要素も他の人はそもそも関わりがないから気づきようがないと強引に解釈できるし。
また、アプローチ③で挙げた「将来は特に想定せず、まず目指す第一目標」としても申し分ない。なんだこの最低な目標。とはいえ上流階級にいきなり持ち上げられて戸惑わない一般人もそういないだろう。テーブルマナーとか知らないし。ロイヤルなしきたりとか反吐が出ましてよ。

他の単語を調べるまでもなく(浅い筆者の知識ではそう続かなかっただろうが)一発目でかなり対義語指数(?)が高い単語を引いてしまったが、ここで終わってしまっては恐らく過去のどなたかの発言をパクったようにしか見えないだろう。筆者は公平を期すため(?)下調べを一切せずこの駄文に向き合っているが、そんなことはこれを読んでくださっているあなたには関係のないことだ。つまり先行研究を越え、独自色を出すためには次のアプローチに進むしかない。

アプローチ⑤:それっぽい造語を考える

もう終わりだよこの駄文。
蛇の絵を描いて「それでは他の人の絵のパクりになるから」って足を描き足せばそれはもう蛇の絵じゃないんだよ。既存の言葉に正解があるのになんで余計なことをする必要があるんだよ。
とはいえ、この設問がクイズであるなら今からするのは悪あがきになるだろうが、この設問が大喜利であるなら筆者なりの正解があっていいはずだ。ましてやこれは厳密な定義がないものの反対側にあるものを自分なりに定義する徒労だ。その答えが厳密に定義されるわけがない、と自分を鼓舞し、無駄に上がったハードルに挑んでみることとする。

まず「深窓の令嬢」という言葉の「白馬の王子さま」の対義語としての問題点をあえて挙げるなら、おとぎ話っぽさがない点だ。つけ入る隙はここだ。
「大地」と「海洋」、「時間」と「空間」のようにパッケージを飾る伝説のポケモンも同じ軸の中で対をなしている。おとぎ話や昔話の中からモチーフを探すのが最善の手ではないだろうか。
加えて、おとぎ話の「白馬の王子さま」に具体的な出典元が存在するかも考えてみてほしい。王子さまが出てくる話は数あれど、あれ、白馬に乗ってたっけ?ってなりません?
出典のあいまいさは裏を返せば前提となる知識がいらないという利点でもある。ならば対義語も特定の物語のヒロインではなく、ある種象徴としての姫君であることが望ましいだろう。
さらに「白馬の王子さま」を「迎えにいく救いの手」として解釈するならば、その反対側に位置するものは「手を差しのべられるもの」を配置するのが自然といえる。

以上を踏まえて、筆者がここで「白馬の王子さま」の対義語としてふさわしいと考える表現は、

囚われの姫君

であると結論づける。

最後に

アプローチ⑤で造語を考えている途中に、そもそも「迎えに来る」役割が「王子さま」で「迎えを待つ」役割が「姫」であること自体がジェンダー的な役割の影響を強く受けている気がして、そこで思考を打ち切ることにした。男性が城を抜け出してきたお転婆なお姫さまを待ってもいいし、女性が素敵な王子さまを求めて城に忍び込んだっていい。なんなら異性同士で考えていること自体が古い前提だ。
発言者の性別は考慮せず、あくまで理想の男性像、女性像としての言葉を探すことが今回の目的ではあったものの、本当に出すべき結論としては「そもそも白馬の王子さまが理想の男性像としてまだ機能しているのか」だったのかもしれない。あくまで結論として出した「囚われの姫君」も「白馬の王子さま」の対義語としての概念であって、理想の女性像として万人が納得する言葉であるとはとうてい思えない。理想の相手を一回敵に囚われさせるんじゃあない。

なんともスッキリしない締めにはなるが、この駄文を最後まで読んでくださった方にせめてもの意義を提供したい。苦し紛れの提案ではあるが、自分の理想の相手を示す単語を考えてみてはどうでしょうか。「眼帯を着けた隻腕の大剣使い」や「いつの間にか自分の部屋でゴロゴロしてる幼馴染み」、「一緒に授業をサボって昼寝をする悪友」…特にモデルがあるわけではない要素の羅列だが、理想の相手を端的に表現するのは案外楽しいものですよ。自分の嗜好に気づくきっかけにもなりますし。
筆者の理想の一つは「トレーナー室に勝手に入ってきて昼寝する子」ですかね。


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