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それよりもティラミス

※また食べ物。大目に見てください。

先日、コストコのティラミスを買った。3000kcalを超えるであろうそれは、数年前に見かけた時より幾分サイズダウンしているようだった。

妹と2人でUber eatsを頼んだ際調子に乗って買ったのだが(コストコ近隣住民の特権で、我が家はUber eatsでコストコに注文が可能である)、サイズダウンしても尚3000kcalの壁は高く、半分以上残ったまま賞味期限当日が来てしまった。

消費してもらわねば困るので、必ず夕飯の後に「ティラミスを食べてくれ」と兄弟に言う。これが私のその日の最大のミッションだった。

両親は共働き、しかも2人とも社畜のため帰りがとても遅い。故に料理は私、もしくは弟が担当している。

妹はなぜやらないかというと、彼女は以前、ご飯を電子レンジで解凍した際に、消し炭feat.火災報知器の雷鳴を生み出したからだ。轟音と黒煙をとめどなく放出する電子レンジの暴走を止めるのに30分近くかかった覚えがある。

そして肝心の中身はというと、タッパーは溶け落ちご飯は溶岩の様に煮えたくった後炭と化していた。ダイヤモンドもびっくりの硬度を誇る炭を錬成した妹は、しばらく弟に「炭焼きの技術なら竈門炭治郎に勝てる」と揶揄されていた。

それ以来、アイツに料理をさせたら、ログハウス風木造建築の我が家はひとたまりもなく業火に包まれ大規模キャンプファイヤーになりそうなので、妹のみキッチン出禁令が箝口されている。

という訳で、この日は弟が作ったご飯を食べながら、いつも通り中身のない話をしていた。

妹「今日学校で会社決めしてきた」
弟・私「???」
妹「え、あるやん、各教科の担当になるやつ」
弟「係決めか」
最近は○○係じゃなくて○○会社って言うらしい。

弟「何言ってんだこの世には配布係っつー誰もやりたがらない奴隷みたいな係だってあるんだぞ」
私「そうだそうだ配っても配っても永遠に終わらない量のプリントとノートを陽キャの席に恐る恐る置いていく仕事を知らねえのか」

パリピ陽キャの弟と陰キャの姉の間で配布係に対する認識に多少差はあるようだが、妹には「は?笑 そんなん先生が配るし」と冷たく返された。

先生が配るの?あの量の配布物を?出席番号順にして出せと言われたから並べたのに何故か返す時にはバラバラになってやがるあれを?先生一人で??

令和の時代では、配布係に隷属するのは先生らしい。最近の若者事情についていけない。

そうこうしてる間に話題は風呂場へと移っていた。
妹「最近風呂場変じゃない?電気急に消えたり、二階おるときに風呂場から変な声聞こえたりせん?」
弟「はあ?幽霊的な?」
妹「そうそう。マジで無理なんやけど」
弟「じゃあヴァン・ヘイレンでも爆音でかけたら」
別の何かが出るだろそれ
妹「えーじゃあやってみるわあー」

まさかヴァン・ヘイレンに除霊効果があるとは知らなかった。やはり最近の若者のトレンドについていけていない。

ここで社畜の父が帰ってきた。この時間帯に帰宅できるのは、おそらく次は半年後だろう。そして片手には灰色の立方体を持っている。

父「ただいま。こんにゃくあったわ」
弟「なんのこんにゃくやねん」
父「…ほら、昨日のたこ焼きのやつ」

ここで一斉に大ブーイングが起こった。実は前日にたこ焼きをしたのだが、買ったはずのこんにゃくが買い物袋をいくら探せど見つからず、買ったまま台に置いてきたのでは、と父に子供たちは責められていたのだ。

妹「どこにあったん」
父「車の中です」

父の運転はかなり粗暴で、ワイルド・スピードなんぞ比にならないレベルである。そして、たこ焼きの買い出しの帰りも案の定フルスピードだったため、揺れ動く車体のGに耐えきれなかったこんにゃくは袋から離脱したと推測される。

弟「ウソやろ、あのクソ細かいこんにゃく昨日無い無い言うて半狂乱なってたのにあったんかよ」
妹「私らやなくて、おとんのせいやんドアホ」
父「いやトップガン見た後やったしスピード出したくなるやん、俺トムクルーズに似てるし」
妹「鏡見ろ」
思春期からか妹の父への当たり方はかなり強い。

私「てかどうすんねん、そんなんたこ焼き以外使い道ないやろ」
弟「味噌汁とかは?」
父「こんにゃくが味噌汁に入ってるとこ見たことあるんか?」
弟「誰のせいやねん」
妹「責任持って飲み干せ」
父「俺を殺す気か」

使い道のなさすぎるマイクロこんにゃくの用途をひたすら探す会話を尻目に、彼らの弁当箱を片付けていく。忙しなく夕飯の食器も片付け、我が家のアイドルことスーパーウルトラキュートなモモンガちゃんズに餌をやり、ふと思い出す。

あ、そうそう、ティラミスティラミス。言わな。

「あのさ、ティラm「今日なんか保険の人から電話かかってきたで」

被せるな !!!!!

学校職場その他の社会生活ありとあらゆるところで発言のタイミングをミスり、陽キャと被った挙句、親切な子に「何か言いかけなかった?」と微笑みかけられ「イヤナンデモナイデス」と目を逸らしながら反射で返事するという修練を積んできた。
しかし、家庭で、自分の家で、そんな残忍かつ非情かつ無慈悲な仕打ちをしなくてもいいのではないか。あんまりじゃないか。

無論、話は保険会社の営業に流れる。
父「名前何やったん」
妹「早口すぎてわからんかった」
父「会社名は?」
妹「はやすぎてわからんかった」
弟「どんだけ早口やねん」
妹「エミネムの倍はいってる」

なんぼなんでも早口すぎる。営業する気あるのか。

あまりにくだらない話が続いていたので絶対に突っ込まない、絶対に反応しないと決めていたのにエミネムに全部持って行かれた。くっそお。悔しい。悔恨が残る。そうしてノンストップで繰り出される会話に結局参加してしまい、兄弟に伝えなければいけない事なぞ頭からすっかり飛んでいた。

そして翌朝、冷蔵庫を開けると恨めしそうに鎮座するティラミスを発見し、ため息と共に膝から崩れ落ちたのであった。

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