くるくるおじさんの話
向かいの席に座っているおじさんが、さっきから右手の人差し指をスマホの画面上でくるくるくるくると滑らせている。
しばしくるくるした刹那、今度は指を画面の上に向かってシューっとする。
そしてまたくるくるくるくる。くるくるくるくる。
またくるくるくるくる。
もう十駅くらい過ぎただろうか。
おじさんが欲しいものはゲットできたのだろうか。
私はというと、この「くるくる」と「シューっ」という言葉をどうしても縦書きの文章にしたくて、今電車のなかでこの文章を書いている。
おじさんが十駅分くるくるしている間に私が書けたのは三五〇文字。
こうしてタイプしている間にも視界の奥におじさんの無心くるくるが映る。完全に気が散っている。でもそんなおじさんが妙に愛くるしい。
おじさんは九段下で降りていった。
いってらっしゃい、帰りもきっとくるくるしてシューっとするおじさん。
今日もパンデミックだけど、素敵な一日でありますように。
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