見出し画像

ゼノブレイドで学ぶイギリス英語【翻訳】

7月29日、ゼノブレイドシリーズ最新作「ゼノブレイド3」がリリースされました。まだ発売されたばかりですが、youtubeやレビューサイト等で絶賛されているのをよく目にします。
そんな盛りに盛り上がっているゼノブレイドシリーズ、今回お話するのは初代ゼノブレイドの英語版と日本語版の比較です。

※ネタバレが含まれています

目次
ゼノブレイドはなぜイギリス英語?
皮肉が当たり前のイギリス
お上品な話し方 Posh accent

ゼノブレイドはなぜイギリス英語?(まえおき)

日本のゲームの翻訳は、基本アメリカ英語です。ゼノブレイドが特別なんです。なぜか、それは商業的な背景によるものです。

さきほど「英語版」という言い方をしましたが、厳密には「英語版」という名前では販売されません。
北米版」と「欧州版」という名前で販売されます。
日本→英語の翻訳は「北米版」で作られ、「欧州版」は「北米版」の翻訳をそのまま使用する、という流れなので「欧州版」が一から英語に翻訳することは基本的にはないんですよね。ゼノブレイドも例にもれずこの流れで海外展開していれば、アメリカ英語で制作されていたでしょう。

しかし、なんということでしょう。任天堂のアメリカ支社はゼノブレイドのローカライズを拒否。面白いけど大作ゆえにコストがかかるので、わりに合わないんじゃない?という理由らしい。そこでじゃあ俺がやるよと、ヨーロッパ支社がローカライズを快諾。かくしてイギリスのローカライズチームによる翻訳、イギリスの俳優さんによる吹き替えでゼノブレイドはごりごりのイギリス英語になったのです。

皮肉が当たり前のイギリス英語

日本語版と英語版を比較して面白かったのは、パーティーメンバー同士の掛け合いの台詞です。原作(日本)にはなかった皮肉のニュアンスが新たに加えられて翻訳されている箇所がいくつかあったのでご紹介します。

新たに加わった仲間リキ(かわいい)が討伐対象の敵「テレシア」の情報を教えてくれます。
→「大恐竜(テレシア)はすんごく強いんだも!」
→これを受けてラインが全然参考にならないとストレートにツッコむシーンなのですが…

再翻訳→「『すんごく強いも!』だってさ。すげぇ。役に立ちそうだな」

どうです?だいぶ印象違いますよね!?
ラインは本作品屈指の単純で、鈍感で、馬鹿なキャラクターです(褒めてます)。そんなラインが皮肉を言うのは衝撃的で、すぐには受け入れられませんでした。英語版でラインのキャラメイクに改変があったわけではないと思います。英語版のラインも相変わらず馬鹿ですw(褒めてます)
ラインの皮肉は私にとっては違和感がありましたが、現地のイギリス人はそう思わないと思います。

なぜなら「ラインみたいなお馬鹿なキャラでも皮肉ぐらい言う。こんな冗談を言うときは誰でも皮肉になる」というのがイギリス人の感覚だからです。

「皮肉」はイギリス人の国民性を表すのに必要不可欠なものです。それくらい皮肉は日常茶飯事なんです。

「~じゃねーか」とストレートに指摘するツッコミは、僕たちにとってはごく普通のツッコミでも、イギリス人にとっては違和感のあるものかもしれません。翻訳をされた方は「イギリスでは、そんなまっすぐな言い方は普通しない」と判断して、皮肉な台詞に書き換えたのかもしれません。

このように、現地の文化を考慮して受け入れやすい形に改変することを「ローカライズ」といいます。
原文と訳文を見比べて内容ががらりと変わっているときは、基本的にローカライズが行われています。
海外の翻訳(日→英)は、日本の翻訳(英→日)に比べてローカライズが大胆です。だからこうして見比べると、結構違いが見られて面白いんですよね~。

ラインとカルナのてぇてぇシーン

イケメン殿下カリアン ガチ聖人

皇太子となったメリアはその義務を全うするため、シュルクたちと旅をしたいという気持ちを押し殺そうとします。そんな妹の本心を汲み取ったカリアン殿下は、メリアの影武者を用意して彼女を旅に送り出してくれます。
まじでいいお兄ちゃんですよね!そんなカリアンの粋な計らいを目の当たりにして、カルナがラインに意地悪な一言を放ちます。

再翻訳→「誰かさんもこれぐらい気が利いたらなぁ」

台詞の内容がだいぶ違いますよねー
原作→カリアンは気遣いのできるいい男。見た目が好みだったら完璧なのに
英語版→ラインは気遣いが足りないよねー

「ラインは男としての魅力がカリアンに一歩劣るなぁ」というのがカルナの台詞の意図なので根本的な意味に違いはありませんが、印象が変わります。英語版ではラインをしっかりディスる、攻撃的な台詞になっていますよね。ここでもより皮肉っぽい台詞に書き換えられているんですね~

お上品な話し方 Posh accent

まずはこの台詞をご覧ください。

シュルク一行とメリアの初対面シーン。この時メリアは自分の素性(ハイエンターの皇女)を隠しているため、彼女の堅苦しくて偉そうな態度がラインの鼻につきます。そしてこの台詞です。
英語版ではこうなってます

再翻訳→「さあーてね 直接聞いたら? 俺ああいう上品な話し方苦手」

英語版は原作より具体的で、話し方に限定していますね。
それは話し方(訛り)に敏感なイギリス人向けに「ローカライズ」されているからです。

Posh は「上流階級の」という意味です。(英辞郎)
Posh は主にイギリスで使用される単語であり、Posh accent(上流階級の訛り)というのは、RP(Recieved Pronuncitaion)を指す固有名詞と考えて差し支えありません。
RP はイギリスの標準語です。ですが、この標準語を話しているのは人口の約2%しかいないと言われています。※1
ここが日本とイギリスの決定的な違いです。日本では標準語が話せない人はほとんどいません。地方の人間でも、話す場所や相手によって標準語と方言を使い分けることができます。

そんな私たち日本人にとってはぴんとこないでしょうが、
「標準語」と「共通語」は違います。標準語=「多くの人が話してる言葉」とは限りません。標準語とは政府によって定められた公用語のことです。つまりはフォーマルな言葉です。そんなフォーマルな話し方をする人が全体の2%程度の世界を想像してください。標準語話者=偉そう、イキってる奴、って感じると思いますw

実際、RP話者は、医者、弁護士、教師といったお偉い職業に多かったです。
逆に、イギリスには労働者階級の人々を中心に使われていた方言もあります(Cockney)※2

このように、イギリスでは話し方(訛り)で社会的ステータスがあらわになります※2。これがイギリス人が訛りに敏感な理由です。
だから、ラインのメリアに対する印象を「ああいうの苦手」から「ああいう上品な話し方苦手」と話し方に限定したのだと思います。


※1 

※2 現在では、訛りは社会的地位によって定められるものではなく、出身地によって定められます。上の分析はゼノブレイドがファンタジーだから成立しています。現実で訛りから社会的地位を連想するのは止めましょう。

最後に

最後まで読んでくださりありがとうございます。
ゼノブレイドはイギリス英語を堪能できる数少ない日本のゲームなのでぜひ紹介したかったのです。今回はイギリスの皮肉と訛りについてお話ししましたが、楽しんでいただけたでしょうか。

もし訛りに興味があるなら、ゼノブレイド2の英語版も強くおすすめします。2ではイギリスの訛りが5つ、アメリカ英語、オーストラリア英語まで登場します。すごいよぉこれ!
といっても、プレイや視聴のみでは英語の訛りを区別することは難しいですよね。各キャラクターの訛りを分析して紹介してくれている記事を見つけたので、興味のある方はこちらも読んでみてください。

以上!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?