ジャック・ロンドン「赤死病」#4

 と、そこでエドウィンは何かを見つけて立ち止まり、弦につがえた矢を放った。立ち止まったのはちょうど道が一瞬途切れている場所だった。盛り土の下を横切っていた昔の水路が土を押し流してしまったのだろう、今では小さな川が小道を分断していた。向こう側では線路の一端が突き出ていて、絡まった蔓の隙間から線路がさびているさまが垣間見えた。さらにその奥、茂みのそばに、何が起きたのかわからず震えながら少年を見つめるウサギがいた。ウサギのいる場所までゆうに一五メートルはあったが、少年の矢は見事に命中したのだ。ウサギは突如襲われた痛みと苦しみにもだえながらも、なんとか茂みのなかに隠れ帰っていった。少年は川への険しい段差を下り、向こう側へすいすいと駆け上がった。そのようすは、焼けて輝く褐色の肌と跳ねる毛皮そのもののように見えた。引き締まった筋肉は鋼でできたばねのようで、少年の動作はしなやかで無駄がなかった。およそ三〇メートル先、草木の絡まった茂みのなかで、少年は獲物に追いつき、その頭を手近な木の幹に叩きつけた。そして、老人に獲物を渡しに戻った。
「ウサギも美味いぞ。最高の味だからな」老人は震える声で言った。「しかし味の繊細さで言えばカニのが上だがな。わしが子供のときには―ー」
「なんでそんな変な言葉遣いなの?」エドウィンはがまんできずに老人の饒舌を遮った。

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