ジャック・ロンドン「赤死病」#3

「目が悪くてな」老人はぼそっと言った。「エドウィン、何年の硬貨かちょっと見てくれないかい?」
 少年はけらけら笑った。
「ほんとすごい」少年は嬉しそうに声をあげた。「じいちゃんに言われると、こんなちっちゃい印にも深い意味がある気がしちゃうんだもん」
 老人はいつものように残念そうな顔をしながら、硬貨を取り戻して自分の目に近づけた。
「二〇一二年だと」声の調子が高まり、それから不気味な引き笑いになった。「有力者たちがモーガン5世を合衆国の大統領に指名した年だ。これはこの国最後の硬貨で間違いないだろう。翌年の二〇一三年は、あの赤死病の年だからな。しかしなんてことだろう! もうあの出来事が六〇年も昔のことで、あの時代を知る者が今はわし一人しかいないなんて。エドウィン、この硬貨はどこで見つけたんだ?」
 少年は白痴のおしゃべりに適当な相槌を打つかのように、老人の話に我慢して付き合っていたが、ここぞとばかりに素早く返事をかえした。
「フーフーからもらったんだよ。去年の春、サンホセの近くまでヤギの群れを連れていったときに見つけたらしい。フーフーは、それのことを"お金"って言ってた。ところでじいちゃん、お腹へってない?」
 老人は杖をしっかり握りしめると、小道を急ぎ足で進みはじめた。老いた目は欲深く光っていた。
「ハーリップがカニの一匹でも……いや二匹は見つけてるといいんだがな」老人はぼそぼそと言った。「カニはほんとにうまい。歯もなくなった爺さんにとって、愛する孫に捕まえてもらうカニは格別だ。わしが子供のときは――」

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