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北米Fintechから学ぶ スポーツ界でのパートナーシップの考え方【前編「北米スポーツ界で存在感を発揮するFintech企業」】

※本記事は2部構成になっています。
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 近年、北米ではスポーツの人気上昇に比例する形でリーグやチーム収入は右肩上がりとなっている。その中で、スポーツの収入の多くの部分を占める「スポンサー収入」の部分も増加し始めている。これは、スポーツリーグやチームの人気が増したことで単価を上げることに成功していることが理由である。一方で、企業側にとってはスポーツへの投資の大型化を意味し、資金力の劣る企業が参入できない環境が形成され始めている。

 最近、北米スポーツ界のパートナーシップで存在感を発揮しているのがFintech*関連のサービスを扱う企業だ。彼らが展開するパートナーシップは、従来の「協賛」とは少し異なった新しい形をしているという特徴がある。本コラムでは、そんなFintech企業が見せる“新しい”パートナーシップを前後編の全2回にわたって分析し、よりよい形でのパートナーシップを提案する。前編は「北米スポーツ界で存在感を発揮するFintech企業」。

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■スポーツには金融業界が積極参入している

 北米スポーツのパートナーシップを見渡してみると、伝統的に金融関連の企業はスポーツとパートナーシップを結ぶことが多いことがわかる。例えばパートナーシップ契約の中で大きな金額が動きやすい施設命名権では、北米4大リーグ(NFL、NBA、MLB、NHL)96施設**のうち半数近くの44施設で金融関連の企業が命名権を取得している。金融業界の中では銀行が最も多く、最近ではNew York Metsの本拠地の命名権を米銀行のCitigroupが20年総額4億ドルで取得している。

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 日本でも金融関連の企業がスポーツに投資する例は多数あり、東京オリンピックではメガバンク2行が投資している。メガバンクはNPB等にもオフィシャルスポンサーとして就任しており、日本スポーツ界でも金融業界の企業が多い傾向がみられる。

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■スポーツ×金融の相性がいい理由とは

 このような金融×スポーツの投資が多い最も大きな理由は、金融商品の多くがコモディティ化しているからだ。銀行口座や生命保険など、商品の差別化要因がないものや見えづらいものの多い金融商品では、商品選択の意思決定において企業認知度や企業イメージの与える影響が大きい。そのため、価格競争に持ち込みたくない企業が商品に付加価値をつける手段として、スポーツの力を使って企業認知度やイメージを底上げすることを意図している。他にも金融を専門に取り扱う中で会社知見として費用対効果の分析が得意な点や会社のミッションとして社会貢献を掲げている(本業が直接的に社会貢献に結び付きにくい)点から、スポーツへの投資が行われている。

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■Fintech企業が存在感を増大

 ここまで、スポーツスポンサーシップの中で特に金融業界が多いことを紹介したが、その中で、昨今の北米スポーツでは特にFintech関連サービスを提供する企業が存在感を見せている。2021年に新しく施設命名権***を取得した企業は12社あるが、そのうちの4社がFintech関連サービスを提供している企業になる。

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 また、2017-18シーズンからユニフォームスポンサーシップ****を解禁したNBAでは、未契約の2チームを除いた28チームのうち10チームがFintech関連の企業と契約をしている。このように、スポーツ×金融という関わりの中でFintech企業が積極参入しているという変化がみられている。

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■Fintech企業は企業PR以外の契約内容を締結

 スポーツ界に参入しているFintech企業は、従来のパートナーシップであった命名権やロゴ掲出という企業PRに加えて+αの価値を盛り込んでいる特徴がある。2021年に施設命名権を取得した4企業をみてみると、CSR活動の共同参画のプログラムを契約内容に含んでいる事例がみられる。

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 NBAのチームとユニフォームパートナーシップを結んだ企業をみてみると、企業PRだけではなく自社製品の導入や開発という形でのアクティベーションを行っていることがわかる。NFT(非代替性トークン)を開発するCrypto.com社ではパートナーの76ersと共同で製品開発をするプロジェクトが、決済サービスを提供するPayPal社ではパートナーのSunsの試合中に自社決済サービスを独占導入することが含まれている。

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 命名権やユニフォームパートナーシップ以外にもスポーツ界へ参入するFintech企業は多い。Aspiration社はアリーナ内へのロゴ掲出以外にパートナーと社会貢献活動のための共同ファンドの設立やサービス使用機会の提供、BROXCEL社は自社製品の独占導入を契約内容に入れている。このように、スポーツとFintech企業のパートナーシップの形には「企業PR以外でのアクティベーションを見据えている」という特徴がある。

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■Fintech企業の狙いとは

 これらのFintech企業の狙いは2つあると考えることができる。1点目は会社、業界イメージの向上である。暗号資産のような、彼らの扱っている商品はまだまだユーザーが未認知であったり懐疑的だったりする。認知度やイメージを高めることができるスポーツとのパートナーシップはFintech企業にとってうってつけであり、一般への普及を目指す上でコストをかけて積極参入しているという背景がある。また、そのような商品の初期利用を促す機会としてもスポーツという環境が魅力的に映っている。2点目は速度感のある投資回収ができることである。Fintech企業は設立年数が浅い企業が多く、キャッシュフローが不安定になりやすい。命名権や企業ロゴの掲出は効果測定が難しく、そのような中で可能な限り素早い投資回収を行うためにパートナーアセット内でのアクティベーションポイントを最大限活用する姿勢がみられる。

 また、スポーツ側にとってもFintech企業の商品導入がプラスに働くケースがある。例えば決済サービスについて、従来はスポーツ側が費用を負担してサービス導入をしていたところを「パートナーシップ」という建て付けにすることでコスト減になる。Fintech企業が探しているアクティベーションポイントはこのような「スポーツ側が欲しいけれども足りないアセット」であり、それを見つけ出すことができるとWin-Winの関係を築くことができる。

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注釈:
*Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、従来の金融サービスと技術を組み合わせた領域を指す
**施設命名権を販売していない施設は含まない
***北米4大リーグ(NFL、NBA、MLB、NHL)の本拠地施設
****ユニフォーム左胸付近にロゴを配置するパートナーシップ

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著者:升本 大輝 / Taiki Masumoto
経営/戦略コンサルティングファームTrans Insightのリサーチアシスタント。
1998年東京都生まれ。大学在学中から日本スポーツ界の発展を志し、UCI(カリフォルニア大学アーバイン校)Athletics やUCLA Athleticsでのインターン活動を経てTrans Insightに加入。

Trans Insightについて:
ニューヨークに拠点を置く、スポーツに特化した経営/戦略コンサルティングファーム。
米国での幅広いネットワークを活かし、各収益領域(チケット販売、スポンサーシップ、放映権販売、 マーチャンダイズ、CRM、ニューメディア・インターネット等)におけるマーケティングインサイトやコンサルティングサービスを提供。

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