EXOSSーLOST TIGERーエグゾス―失われた秘宝―

序章「再び立ち上がるその時まで」


たとえ世界が滅びる運命にあろうとも、私は人類を平和と調和の時代へと導く覚悟がある。

その信念を片時も絶やすことなく燃やし続けることは果たして本当に不毛なのか。

数秒にも満たないほんの一瞬の疑問が心の揺らぎとなって、今まで維持し続けてきた集中力にわずかながらの隙を与えた。

それを見逃さなかった敵は誰も追い付けない瞬間的な予備動作に加えて自身の「気」を左手の掌でルヴ王の脇腹に触れることすらなく打撃を繰り出した。

体内で凄まじい重量の圧迫感が突如となく襲いかかり、内臓が潰れるような鈍い音を立てて、王は数メートル後方に無様に吹き飛ばされた。手にしていたロッドが転げ落ちる。

予想だにしなかった突然の衝撃が気の遠くなるような激痛へと変わって、鮮明だった意識が一気に朦朧となるような目まいを感じさせた。それに次いで襲ってくる猛烈な吐き気を催すのを必死に堪えながら、それでもその疑問が脳裏のどこかで幾度となく反芻はんすうしているのを感じた。

「考えてみろ。これから先いかに文明を発展させようとも、自身の心の不和から生じる人間同士の争いは不可避であり、我々バルデオラ族にはすでにその未来は見え透いている。そんな可能性のない事実を根本的に覆してまで、我が種族の滅亡を実現させたいのか?」

ロッドとロッドが激突し、激しいスパークを放ちながら語りかけられた先ほどの言葉が容赦なくルヴ王の心に刃を立てる。そんな人類の未来のためにまで自身の種族の存亡を危機に晒したくはなかった。しかし、彼らが滅びればこれから先における大激動の時代において、一体誰が、何が世界を存続させるというのだろう?

人類種族こそがこの星の頼みの綱であるというのに。なぜその希望の芽を摘み取ることをわざわざ我々がしなければならないのか?

自身にとって矛盾ではなかった理屈が敵に打ちのめされたことで見事に懐柔かいじゅうされ、今やその心的苦痛の極みにいるバルデオラ族の王は、うつ伏せの状態から何とか体勢を整えつつもそれに加えた肉体の苦痛が、これからの世界の未来を決めるであろう己の思考判断を著しく鈍らせると共に戦闘能力の低下を促進させる状態だった。腹を押さえながらようやく立ち上がり、返す言葉を探そうとしたがどうにもこうにも口を開ける状況ではない。

敵がロッドを握りしめたまま言葉で更なる追い打ちをかける。

「それでなくても、今の貴様の器ではとてもじゃないが王国を再建できるだけの資格を持ち合わせていない。だからこそ、このレヴィウスが代わりに王権を手中に収めるのだ。俺が王となるからには当然貴様の時のような生ぬるい進化には一切の余地を与えない。この俺が再び飛躍を遂げると同時に我が種族による強大な軍隊を創設してみせる」

「………つまり、それがお前の目的か」

やっとのことで出た発言も敵のペースに持っていかれる揚げ足になることはわずかな意識下でも容易に想像できた。

「貴様の脆弱な為政では成し遂げることのできなかった、かつての前王たちの目的をはるかに凌駕する目的が今の俺にはある。我々の進化は同時に人類の進化をも促すことになる。その時、今までの進歩の延長線上にある人類はそこにはいない。それが嫌だというのなら、せめてもの救いとして俺たちに"同化"するのが関の山だな、バルデオラ・ルヴ・デルフォリウス」

兄弟だったはずの敵―もはや宿敵へと変貌してしまったレヴィウス―の顔を王は激しい表情で直視した。同じ種族として生まれ、共に育ったはずの、かつて黄なる毛並みを持っていた獣の顔を。

「"同化"だと………!?お前、それはつまり………!?」

「そうさ、ルヴ。貴様の察する通りだ。"同化"は何も貴様だけに与える選別じゃない。人類全体の選別さ。それを貴様にも適用するだけの話だ」

それだけは口が裂けても言葉にしたくない計画だった。だが、幾多の咆哮と風切り音、そして爆発音がひしめき合うこの戦場でそれらすべてを包括する支配権を獲得するように、レヴィウスが邪悪な笑みを浮かべて言い放った。

「《浄化パーゲーション》さ、ルヴ。すべての生きとし生けるものは一つ残らずそれ自体が犯した罪を贖う必要がある。行いの結果は行った者自らによって刈り取らなければならないのさ。それが自然の作用であり、また法則というもの。それを知ってなお、実行する連中が今までの王族にいなかったのも無理はない。すべてあの秘宝を所有することだけに固執してきたのだから」

「それはお前のような欲の皮の突っ張った輩から守るためだ!」

必死になって言い返したが、その心中では強い後悔の念が渦巻いた。兄弟にすら伝承してこなかった我が王家の秘宝をすでに知っていたのだ。この種族のみならず人類の運命さえも左右させるあの宝がある意味において奴の手に落ちれば、それこそ世界は崩壊の一途を辿る。こいつが軍隊を創設する理由も、《浄化》を実行する魂胆も、すべてはそこにあったと今更ながらに腑に落ちたこともまた激しい後悔を抱かせた。

我がバルデオラ族の秘宝。

生命の根幹を構成する力であり、万物の創造プロセスに物理法則をも見いだせる力。あの宝の本当の名前だけは断じて知られてはならない。

それを知られたらこの国は、そして世界は………。

だからこそ断じて………。

そのことにようやく気が付いたというべきか、背後にあるものが強烈な振動音を発していることを察知した。振り返りたかったが、眼前の敵を前にこれ以上の攻撃を食らう隙を与えるわけにはいかない。その思考を読み取るようにしてレヴィウスがその様子を語り出した。

「我々を創造したコンピュータ《エクセレクシス》は自らの内部に含有される液体結晶の情報の更新速度を徐々に速めている。もちろんその結晶とは生体を生み出すエネルギー連続構造体であることは言うまでもない。そうさ、幾何学的構造を成すそのエネルギー、バイオフォトンを連続させた文字として形成させている、我が部族の太古の秘宝さ。つまり、この秘宝に生体情報を注入させることで新たな生命体を創造することを可能にするのだろう?そんなことは、すでに我が一派に回帰した賢者たちから聞いている。大事なのはその生体情報とは誰のものかという点だ。無論、『由緒ある血統』の生体ならばあそこまでして強烈な振動と異音を発することはないはずだ」

言いたいことが分かるだろう、とでも言いたげな口ぶりで説明するレヴィウスの主張するところは、明確だった。ルヴ王の中で体に受けた痛みよりも遥かに激しい衝撃が新たに全身を突き抜けた。その生体情報は本来であれば、それはルヴ王のものであるはずだ。それを余裕綽々の口調で語るレヴィウスの言っていることはつまり………。

レヴィウスが皆まで平然と言ってのけた。

「我々バルデオラ族の次期族長、そう、この俺さ」

どこまで、我が部族の誇りを嘲れば気が済むのか!

バイオフォトンは本来正しい想念を持つ者だけが増加させることのできる天然の物質だ。それをよこしまな輩に悪用されればバルデオラ族の伝統を冒涜されることと同義になる。

―力、すなわち、良き念を我が誇りとしてその胸に収めよ―

―よって、秘宝は力によりて力とならん―

―力となるとき、秘宝の真価となる究極の生体を生み出す根源とならん―

王家が伝承してきた秘宝の云われがふっと脳裏をよぎった。奴の真意はこんな深いところにまで及んでいたのだ。秘宝が究極の生命として形を変えることを。あるいは、その生命の名をも、奴は………。

「何故に必要とするのだ?なぜそこまで知っている?大地に秘められたすべての古代文字を解読できると謳われた外部連結集合体、《エグゾス》を」

「還幸のためにだよ、ルヴ。すべての生きとし生けるものが《浄化》という過程を経て神に立ち返るためだ。このことはすでにある者たちから聞いたのだよ。バルデオラ族を代表する、文字を読むことのできる七大賢者のうちの一人、メレネスによってな」

「まさか、メレネスが………。それもお前が唆したのか!」

「唆すとは人聞きが悪いな。彼もまた立ち返ってくれた我が同志に過ぎない。バルデオラ族の誇り、本当の誇りを取り戻すためにな」

「何が誇りだ!」

激昂したルヴが叱声と共に素手で横殴りを叩きつけたが、その予備動作から読み取ったレヴィウスは焦ることなくロッドを縦に回し、ピンポイントでパンチを防御した。想定外のサイズのパルスがバチバチ音を弾かせながらあたりに飛び散る。尋常ではない重量と同時に非常に痛烈な電撃が体を駆け巡ったが、それを意識することなく超感覚的な神経を通じて、それに次ぐ回し蹴りを秒速以下の速さで叩き込んだ。

ドオオオンッッッ!!!

あまりの俊足に空間が歪み、あたりの景色が揺らいだ。とんでもない爆音が戦場に響き渡ったが、その巨大な音はそれすらも易々と受けきったレヴィウスのロッドから生じた轟音だった。相手の動きを止めた時の反動を使ってレヴィウスがロッドを頭上に持ち上げると、王の体が宙に浮いた。反転しながら地面に叩きつけられるルヴ。 

残っていた渾身の力を振り絞って挑んだ攻撃でさえも通じない防御を行使できる訳を、レヴィウスが教えた。

「見えるのだよ、あらゆる動きが。分かると思うが、自身の生体の遺伝情報をコンピュータ内部の秘宝に投与したことで生じる、バイオフォトンの増加は俺の肉体に宿るバイオフォトンをも活性化させ、結果的に全神経を発達させることが可能になる。だからこそ、始まるのだよ。ある言葉をもって秘宝を《エグゾス》へと変化させることで起こりうる、世界の《浄化》がな。俺が跳躍的な感覚を有することができれば、バイオフォトンを通じてそれと連動する全生命が禊ぎという通過儀礼を受けることになる。それは生命だけではない。大地もまたバイオフォトンの文字という形態を経て昇華の時を迎える。それもまた一興だとそう思わないか?この、世界を書き換えるという行為そのものが」

遠のく意識下で僅かながらに聞き取った奴の野望の奥底に眠る本当の意味を理解したような気がした。秘宝を手に入れること、それによって《エグゾス》を生み出そうとしていること、そしてその先にある世界の書き換え。その意味は………。

「俺が知りたいのは名前だよ、ルヴ。この秘宝の本来の名前さえ分かれば『それ』が実現できる。だが王家の直系しか知らないその名前を容易く教えるとは限らない。恐らく、いや、何が何でも教えようとはしないだろう。だからこそ、貴様の肉体を同化してその遺伝子に記憶された秘宝の名前を読み取るのさ。コンピュータのフォトンエネルギーが最高値にまで到達すれば、ある種の『爆発』が起きる。その時に名前を唱えれば、その言葉による振動に中の液体結晶が反応し、俺の悲願である究極生命体、《エグゾス》を手に入れることができる。そうなればこの王国も、そして世界も今までの様相とは一線を画した素晴らしい構想を構築することが可能になる。貴様がここにいる意義もその定義において意味を成すということだ」

やはりそうだったのか………。奴は王家の秘宝を我が物にしたいがために、ここまで争いを持ち込んだのだ。そして、それを成就するために私の肉体まで奪い去ろうとしている。バルデオラ族の頂点に立つはずの屈強な戦士の、その意志までも。

戦士。

王の中で何かが吹っ切れた。戦う者としての意義を思い出したのか、ここまでして完膚なきまでに打ちのめされても、新たに心底から沸き上がる熱い思いが体の痛みを和らげた。

むっくりと起き上がり、直立して乱れていた意志を胸の深奥に収めた。

私のいる場所は、ここだ。

そう、今どこにいるなんていうものじゃない。

私の心、私の存在そのものが私という場所であることを、

―思い出せ―

一つの念を浮かべた瞬間、ルヴの体内構造が著しく変化し始めた。

生身の内臓、血液、神経、意識、そのすべてが浄化され、物質から半物質半透明の形態へと形を変えていく。

内なる意志によって、あらざる姿がより神聖な形で顕現しているのだ。

―内側に目覚める者、我が意志を貫かん―

バルデオラ王家が密かに伝承してきたもう一つの秘技が彼によって蘇ろうとしていた。

全身が至高の超感覚にくすぶられ、身体機能が一気に高まるのを感じ取ったルヴは、閉眼し、両手の拳に力を入れて眼前で腕を交差し、勢いよく振り下ろした。

水が弾けるような鋭い音が炸裂し、バルデオラ王の体が目映い光に包まれた。

レヴィウスが思わず目を覆う。

目を開くとそこには、黄金色の体を持った王の姿があった。

ここで初めてレヴィウスの表情が屈辱に歪み、激しい嫌悪感を露にした。

「なぜだ?なぜ俺の攻撃を食らっておきながらなお、立ち上がれるのだ?貴様、何をした?」

「命を宿すものにはいついかなる時においても、戦う意志を与えられた者がいる。お前はそれを知らない。それが自然の法則を構成する密かな一要素であることも」

「何の話だ!」

「本当の《浄化》とは、『今ここにある者』だけがなし得る秘技であることをお前は理解していないのだよ。本当の力とは単に武力だけで剥奪できるような代物ではないということだ」

「何を抜かす!」

憤ったレヴィウスがロッドを水平に大きく振り回し、衝撃波を繰り出した。ブウウウンと唸る振動音が時空を歪めてルヴを襲ったが、彼は片肘を垂直に立てて外側に向け腕をブンッと振った。グオオオンという衝撃波が歪曲した音をまき散らしながら腕が降られた方向に曲線を描いて反れる。続いて、腕を振った動作に連動させて強烈な回し蹴りを繰り出した。その軌道に沿って衝撃波の動きが反転し、Uターンしてレヴィウスの目前に差し迫った。

自身が生み出した攻撃を回避する余裕もなくまともに食らうレヴィウス。

かすむようにして起きた一瞬の反撃が全身に伝わり、巨大な爆音を立てて宙を舞って後方に吹き飛ばされる。地面に叩きつけられた体を起こそうとするも、全身の気力を奪われたように、力が萎えてしまい、起き上がることができない。何とかうつ伏せになって半身を起こし、胴体に目をやると衝撃波の深い傷跡が真横に刻み込まれ、青く光る液体がジュウジュウと焼け焦げた音を発して滴り落ちていた。さらに見回すと右腕の半分が見事にそぎ落とされ、同じように青い液体が傷口を占領していた。神経的な痛みよりも全身の力が萎えるようなすべてを焼き尽くす無気力感がレヴィウスの肉体を襲っていた。

立場が逆転した状況を呪い、思わず「やってくれる」と毒づく。

「これほどの力を………秘めているのなら、バルデオラ族の俺にも眠っているはずだ。教えろ」

その発言が実現不可能な無意味さを含む虚無感に蹂躙されていることは、怪我を負ったレヴィウスでも察しがついた。だが、王はたしなめるようにしてその方法を説いた。

「至高の感覚を手に入れるには、お前自身が邪悪な意志を自ら昇華させる以外に道はない。『今ここにある』とは己のエゴを鎮め、自身のその瞬間における心の状態を洗い出すことだ。そういう意味でお前が浄化しなければ、お前自身は救われない」

聞いていてやけくそに感じたのか、レヴィウスは口をひん曲げて言い返した。

「そんな手間をかけなくても、俺にはすでに《エグゾス》がある。この時代では我が悲願を成就することはかなわなかったが、再びエクセレクシスが起動する時を迎えれば、その時こそ秘宝の名前を知ってみせる。他ならぬバルデオラ族の王だったルヴ、貴様の血を、その遺伝子を頂くことによってな」

凄惨な笑みを浮かべて「意味するところが分かるだろう?」と補足する。

そこで初めて王は後ろを振り返り、超知能コンピュータ、エクセレクシスを見上げた。ブンブン唸り声を上げながら幾重にも重ねる環の回転速度を加速させているその内部では、レヴィウスが言った通り太陽のように光る球体の秘宝が尾を引きながら徐々に人型の形へと変換されていく過程を得ているところだった。これが最も眩しく神々しい光を放った時、奴の言う『爆発』が起きる。しかし、ここでその名前を読み上げてしまえば、奴の生体情報が入った秘宝はもう一人のレヴィウスの体へと変貌を遂げてしまう。そう、闇の《エグゾス》の誕生だ。それが実現されれば、大地を支配するすべての文字を我が物にできるだけでなく、その文字が意味する『それ』をも制御されることになる。しかし、名前を唱えなければ『爆発』は過剰なエネルギーを暴走させて、この王国をいとも簡単に消滅させてしまうだろう。

二つに一つ。そのどちらを取っても我々に未来はない。

そのように思えた。

「貴様の統治していた王国も、これで幕を閉じる」

王の思考を察知したレヴィウスがどうだとでも表現したげに言う。

「貴様にとってのバルデオラ族も、いずれは我々の手に落ちる。今こうして展開される戦いも最終的な結末においては意味をなさない。残念だったな、バルデオラ族の元王よ」

そう罵倒されるルヴの内心は意外に落ち着いていた。『覚醒』を起こしたことが功を奏したのか、何か希望となる灯火がどこかに眠っている気がするのだ。

レヴィウスが続ける。

「いずれにしろ今までのバルデオラ族は終焉を迎える。それに追従してきた人間という種族もろともな」

そうか、人間………!

もし仮にこの王国が滅亡したとしても、その痕跡を人類が見つけ出してくれるとしたら。かつてこの世界に、もう一つの種族が実在していたという歴史的発見を人間が成し遂げたとしたら。その時は、我が種族は再び歴史の表舞台で立ち上がることになるだろう。その時こそ、我が部族の再起と人類の希望が再燃する潮時ではないか!

ということは………。

少しの思考に時間を要した後、王は自身の可能性に気づいた。

やはりそうあるべきなのだ。自分たちの種族だけでなく、その他にも私の目標を継いでくれる誇りある種族がいることを、忘れてはならない。

エクセレクシスから目を離し、王はレヴィウスに向き直った。

「仮にこの国が滅びたとしても、私の希望は潰えない。なぜなら、私には人類という家族がいるからだ」

レヴィウスが訝しげに顔を歪める。

「何を言っているのだ、貴様?」

「二つの種族を繋げる希望の光であるバイオフォトンはいかに爆発しようともその存在自体が消失するわけではない。この性質がもたらす副産物は何も種族の復活だけじゃない。我々が最も大切にする『誇り』を人類に再現してもらうことにもまた大きな意義がある」

「貴様の言うことはとにもかくにも理解不能な内容が多すぎる。まあ、いい。どのみち遠い未来において、世界は俺のものとなる」

「世界とはそんな矮小な価値観で決まるものではない。可視化できない部分にも世界は存在する」

「………どういう意味だ?」

「心が世界という映像を映し出すということだ」

「理解できない。貴様の主張がいかに優れていようとも滅亡は目前だ」

それに呼応するかのようにエクセレクシスの唸りがひとたび大きく響き出した。光が強くなり、「その時」が差し迫っていることを予感させた。秘宝は消滅する。このコンピュータごと。しかし、人類の未来に懸けるとするなら、ここから先の展開は大きく変わる。

不意にルヴ王が宿敵であるはずのレヴィウスに歩み寄り、かがんでその胸に片手を当てた。

彼の読めない意図に奴が喚く。

「何をする気だ!」

今や王の表情は穏やかな面持ちで満たされており、年輪を重ねた碧眼がレヴィウスのよこしまな瞳を真っ直ぐに直視した。

「どのみち遠い未来において、私のした意味が分かるだろう」

途端に、グウウンとコンピュータが今までとは違った音を発し、さらに回転速度が加速した。光が一層輝きを増し、周囲を包み込んでいく。戦場にいた戦士、そして敵たちが思わず顔を丘になっているそちらに向けた。終わりの時を迎えていると知らなければ美しい光景だと勘違いしてしまいそうなその光に、全部族が息を吞んだ。

コンピュータの情景を目の当たりにしたレヴィウスが王に言葉で噛みつく。

「爆発を早めたんだな!我が野望に加担したわけではあるまい。一体………」

「いずれ分かる。そのすべてというすべてが」

「貴様は………」

王は目を閉じて、その胸の内側に思いを馳せた。

戦いは自らの内側が起こすもの。それが世界に現れる仕組みを我々自身もまだまだ熟知していない。たとえ秘宝の名を知ろうとも本当の法則を知ったわけではないのだ。だからこそ、我々は懸けることができる。人間という成長の余地がある、己の希望を託すべき種族の、その可能性に。

グオオオンという音が大気を満たし、いよいよその時が近づいてきたのを静かに感じ取りながら、王は胸に秘めた使命をひしと確認した。

爆発が起こる数秒前になっても、王の決心は揺らがなかった。

すべての可能性を秘めることになるであろう、秘宝の名を内心で唱えながら。

究極の生命を生み出す秘宝。

その名は………。

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