小説「対抗運動」第12章(完) 資本制の中でしのぎながら可能なる対抗運動を
小説「対抗運動」第12章1 ルバーブとツリーズカフェの取引
舞ちゃん「おいさん、今度ツリーズ カフェのイヴェントをルバーブのジュンさんが手伝うんやと。」
おいさん「おー、それはええ。けど、東金と練馬いうたらずいぶん離れとるね。お互いにメリットはあるんじゃろか?」
舞ちゃん「両方に共通なんは、有機農家が作っとる食材を使って、命を湧き立たたす料理を出すとこと、フェアトレード・コーヒーを扱っとるとこかな」
おいさん「ジュンさんは経験豊富やから、ツリーズ カフェさん見たら何んかええアドヴァイス出来るかもしれね」
舞ちゃん「おいさん、うち思うんやけど、ツリーズ カフェは、新庄の水田トラストから始めたんやから、それを拡大させる工夫した方がええんやないやろか」
おいさん「ほうじゃねえ。・・・舞ちゃん、失敗するかもしれんけど、思い切ってやってみい!アシード・ジャパンがプチ・トラストやっとるじゃろ。最初からトラスト会員になってもらうんは難しいよ。ほじゃけんプチ・トラストからやったら新庄の百姓は皆、魅力あるけん、2年目、3年目には会員になってくれる人も出てくると思うよ」
舞ちゃん「うん、分った。おいさん、ちょっとずつやね」
おいさん「ちょっとずつや、ちょっとずつ。」
舞ちゃん「little by, little by,little by // little by,little by,little by♪♪」
続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年9月6日
小説「対抗運動」第12章2 プチ・トラストからポイント制へ
ネギ博士(ネギです。今回の舞ちゃんのメモ、難しそうな語句にリンクを張って解説してみたので、下の注をみてください。)
舞ちゃん「おいさん、きのうツリーズ カフェでハクサイさんに会うたよ。」
おいさん「おお、TCXの脳みそじゃ(笑)忙しらしいて、最近会うてないんじゃが何か面白いこと教えてくれなんだかい?」
舞ちゃん「教えてくれたよ。ええと、メモしといたんよ。
〈フランチャイズ制は「最も近代的な協同組合」〉やとハクサイさんは考えとるんやと※。〈日本やアメリカのような先進国において、資本に対抗しうる(=資本を揚棄しうる)協同組合は、フランチャイズ制だと言っても良いと思います。ただし、これは資本が生み出した経営技術なので、変更して利用する必要はあるでしょうが。〉」
おいさん「ほう、どうやるんじゃて?」
舞ちゃん「ええっと、こうやるんやと(笑) 読むよ。
〈今日の資本主義経済が生み出したツールに、ポイント(ポイントカードとかマイレージなど)があります。ポイントは、購買者に前もって発行することで、「購買者の囲い込み」を狙ったツールですね。所有権に基づいて「価値なき価格」としての配当を市民に(出資者に)分配したように、「購買者の囲い込み」を狙って、将来の「価値なき価格」を、すなわち予想された平均利潤の一部を分配することを、すでに資本は行なっているわけです。したがって、フランチャイズ本部が、その商標権という広義の所有権に基づいた対価を購買者であるフランチャイジーにポイントとして発行し、フランチャイジーが一般消費者にポイントを発行するなら、資本の作ったフランチャイズ制という近代的な経営技術を、本来的なアソシエーション(協同組合の連合)に変えていくことができるだろう、と思います。〉」
おいさん「うーん。もっと説明してくれたじゃろ?」
舞ちゃん「うん(笑) 読むよ。
〈かつて、地主は長期的な不況によって維持できなくなった農奴を開放し、そしてそれを賃労働者として雇い入れ、産業資本のはしりとなった。
地主はこうして資本家に変貌することで、そのヘゲモニーを維持したわけです。
今日の不況においては、資本は維持していくことのできなくなった賃労働者を解雇し、それをオーナー経営者として迎え入れることでヘゲモニーを維持しようとしています。利潤率の低下に耐えられなくなった資本は、可変資本を削減して剰余価値率を高めることで、この不況を生き延びようとしているわけです。もちろん、店鋪などの固定資本を削減することで利潤率を高める効果もあります。また、このように多くの資本を手放してオーナー経営者との「共同財産」とすることで、『資本論』の第1巻第11章で指摘されているように、無用な失費を避けることもできます。しかし、こうして生産手段を手放しながらも、ヘゲモニーを維持していくための重要なツールが、商標権ですね。だから、先進国の資本家たちは、国家と共謀して、商標や特許、著作権などといった広義の所有権(知的所有権)を保持し続けようと考えるでしょう。これがフランチャイズ制の正体です。だから、この部分をこそ攻撃しなければならない。〉…」
おいさん「舞ちゃん、新庄の水田トラスト運動を、ツリーズ カフェに集う人らに体験してもらおうとプチ・トラストをやるんは、ええ考えじゃと思う。で、そのこととハクサイさんのポイント制を導入したフランチャイズ制は、結びつくんかい?」
舞ちゃん「おいさん、うちに今出来るんはプチ・トラストや。けど、長期的な見通しなしで何でも始めたらアカンと思うんや。もうちょっとメモとってあるから最後まで聞いて。
〈ところが、こうした広義の所有権を批難しているだけでは、「マルクス以前」です。そうした非難は、マルクスが、株式会社や協同組合の配当に見ていた思想を忘れていますね。配当とは、利子などと同じ「価値なき価格」であり、それは商品交換に基づいているとはいえ、その交換は商品交換の変種である「法律的取引」なのです。近代的利子とは、平均利潤の形成された高度な資本主義経済においてはじめて、前貸資本が生み出しうると予測されるその平均利潤の一部を、その前貸資本という商品の価格として支払われるものだったのです。配当も、同じく平均利潤が形成される高度な資本主義経済においてのみ実施されうる、「法律的取引」によって約束された所有権に基づく対価ですね。近代的利子のように資本に対価が搾取されるのではなく、市民に分配される配当という在り方に、マルクスはすでに資本が実践した「可能なるコミュニズム」を見ていたわけです。〉」
おいさん「舞ちゃんは共感だけに頼ってプチ・トラストを始めるんじゃないんやね。うーん、ポイント制を導入したフランチャイズ制かあ…。つながるかなあ?」
舞ちゃん「おいさん、しっかり考えてよ(笑)それとね、まだメモの続きがあるんや。
〈最後に指摘しておきたいのは、従来の協同組合が、自営農家や職人などの協同組合であるために、後退的な産業部門でしか試みられていなかったのに対し、フランチャイズ制は脱サラのための技術であり、賃労働者が多く対象となっていることです。つまり、先進国の高度な産業部門における労働を経験した労働者たちの自立によって、そしてそうした高度な産業部門に食い入ることがはじめて可能になった、ということです。従来の協同組合は、ひょっとしたらせいぜい資本と国家のヘゲモニーを補完するものにすぎなかったかも知れませんが、フランチャイズ制によってはじめて協同組合は資本の先端に立ち、それを揚棄することができるようになった、と評価することができるかも知れませんね。〉」
続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年10月9日
小説「対抗運動」第12章3 対抗運動本位制とポイント
おいさん「舞ちゃん、プチ・トラストの会員はどうじゃ?」
舞ちゃん「うん、もう一人見つかったよ。おいさんの方はどう?ポイント制を導入したフランチャイズ制、できそう?」
おいさん「うーん、むつかしいんじゃ。舞ちゃんの言うように、運動が広まっていったらどうなるんか、という見通しをもってすすめていくんは大事なんじゃが、ポイント制もフランチャイズも原動力は利潤を増やそうとする欲動じゃけんね。品質がまあ同じやったら消費者は安いもんを必ず買う。この前提を基礎に組み上げとるシステムやけんね。利潤ばっかり追いかけることへの対抗を、ここに組み込むいうんは・・・。」
舞ちゃん「環境や健康にええもんなら、少々高かっても買うてくれる人は増えてきたよ。そこんとこをポイントに組み込んだらええんやないかなあ?」
おいさん「うーん、まあもうちょっと待ってもらわんと(笑)それより出来るところから実践するんが大事じゃ。ルバーブのジュンさんとツリーズ カフェのアツコさんの打ち合わせは進んどるんかい?」
舞ちゃん「うん、イベントは11月20日に決ったよ。」
おいさん「舞ちゃんは今度もスタッフやるんじゃろ?」
舞ちゃん「おいさん、うちツリーズ カフェで働き始めとるんよ。従業員とはちょっと違うけど(笑)」
おいさん「うん?そしたらボランティア?」
舞ちゃん「違うよ。本当は共同出資者になりたかったんやけど(笑)実力もお金もないけんね。店に利益が出たら均等に分け合うという契約で働いとるんや。まあ、共同経営者やな(笑)」
おいさん「なるほど。利益が出んかったら無給か!たしかに共同経営者みたいなもんや。」
続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年10月24日
小説「対抗運動」第12章4 チラシ配り
舞ちゃん「おいさん、チラシ配り、やったことある?」
おいさん「おー、今度のイベントのチラシ配っとるんか?舞ちゃんは初めてなんか?」
舞ちゃん「アルバイトではやったことあったんやけどね、今度のは感じが違うんよ。これ、ネモッチャンがデザインしてくれてね、北さんが刷ってくれたんや。小型でカッコええやろ。」
おいさん「ははあ、わかるよ。自分らのイベントのチラシじゃけんね。そら違うよ。」
舞ちゃん「なんかね、万置きに似た感じ。名前だけ知っとったフェアトレードショップやオーガニックカフェに行って、20枚ずつくらい頼んで置いてもらうんやけどね、なんかドキドキするんよ。」
おいさん「ほうか、ええドキドキやろ(笑)」
舞ちゃん「うん。ええドキドキ(笑)つい店の人の顔をね、まじまじ見てしまうんよ。口には出さんけどね、がんばってるんやなー。うちらもやるけんねー。」
おいさん「エール交換、沈黙の(笑)」
舞ちゃん「おいさんにも分けてあげるけん、配ってみたら?」
おいさん「よっしゃ、ほんなら久しぶりにグローバル・ビレッジに行ってみるか!」
舞ちゃん「本当? 後で、どんな具合やったかおしえてね。」
続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年11月6日
小説「対抗運動」第12章5 資本制の中で <最終回>
おいさん「舞ちゃん、イヴェント、まあ成功やったね。おめでとう。」
舞ちゃん「おいさん、あかんのや、うちツリーズ カフェ出て行くんや…」
おいさん「ほう、なんでまた?」
舞ちゃん「二人でやっていけるためには、もっと客席増やしたり営業時間のばしたり…。もっときばらんといかんのやけど、あつこさんの考えは違うんや。きばるんは…ちがうんや。」
おいさん「ふーん。」
舞ちゃん「おいさん、ツリーズ カフェはええ店になったやろ?けど、これはきばったからやないんや。無理せんとひとつずつ問題を解決してきたからなんや。お米はこれ、野菜はあそこ、レシピは何回もやり直して納得いくまで焦らせんかった。お酒も、五人娘、にしてから自信がもてるようになったしね。」
おいさん「ふーん、ほいで?」
舞ちゃん「うちは雇われとるんとは違うやろ。共同経営やから、利潤が出たら折半や。これはうちの誇りなんや。けど、月に2万円くらいにしかならんのや。あつこさんは、これはやっぱりあかん、と言うんや。店は一人でやれるよう客席減らすけん、舞ちゃんはちゃんと給料がもらえるとこで今は働きい、言うんや。」
おいさん「・・・・・・・」
舞ちゃん「おいさん、どしたらええん?」
おいさん「まだ半年じゃけん、もっと売上あがるようになるかもしれんじゃろ?」
舞ちゃん「おいさん、そんな甘いもんと違うよ。毎月、毎月生活費は要るんよ。」
おいさん「舞ちゃん、…」
舞ちゃん「うちは失敗者なんや。」
おいさん「ちがう。それは違うとるぞ。ジグザグはあるぞ。ツリーズ カフェでやりたいんなら、あつこさんによう話して、足りん生活費はどこぞで稼がんかい!食費はかからんのやけん、そんなに思いつめんでもしのいでいけるよ。あと、店に物売るコーナー作って、パレスチナ・オリーブオイルや石鹸売ったり、壁を活用してギャラリーにしたり…」
舞ちゃん「おいさん、全部やっとるんや。きばってはないけど智恵は絞っとる、笑」
おいさん「あっはっはっは、やられた!けど、まだまだなんかあるよ。ええ智恵でるまで、しのいでいくより仕方ないんじゃ。店がつぶれたんと違うんじゃけんね。」
舞ちゃん「うちもそう思うよ。そうか、しのいでいくんか…」
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今回を持ちまして小説「対抗運動」は連載終了となります。
ご愛読ありがとうございました。
執筆:飛彈ゴロウ、2004年12月13日
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