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小説「対抗運動」第9章 事前と事後 (入学試験の前と後 発表を控えて)

舞ちゃん「おいさん、試験すんだよ。」
おいさん「どうやった?」
舞ちゃん「あんまりできんかった。けど、なんか奇妙や。」
おいさん「うん? なにが奇妙なん・・・?」
舞ちゃん「受かるんと落ちるんでは大違いやろ? 発表の前と後とでは、まるで私が別人になるみたいで・・・」
おいさん「はあーん、成る程ね。舞ちゃんは、舞ちゃんじゃ、変わるはずもないのに、受かるんと落ちるんでは確かに天国と地獄じゃ。発表を境にして、前と後とでは人生が変わってしまうようなような錯覚があるね。」
舞ちゃん「ね、おかしいやろ? わたしは入学できんでも勉強していくつもりやのに。発表までの1週間も、毎日transcritique 読みつづけるよ。発表の後も・・・。」
おいさん「舞ちゃん、その通りじゃ。自分がええ、と思うたことを続けるよりほか、しようがないんじゃ。ずんずんやるだけじゃ。進路なんかは、人が決めてくれるんじゃから、おおげさに考えん方がええ。まあ、何でもええんじゃ(笑)けど、よう解ったね、おいさんは、このことは人生の大事なコツじゃとひそかに思うとったよ。」
舞ちゃん「えーっ、そうやったんか。なんかズルイね(笑) けど、落ちた後も本当に同じ気持ちで読みつづけられるんやろか?」
おいさん「これまで続けて来れたんじゃから大丈夫やろ。ついでに、もうひとつ秘密、教えといたろか(笑)」
舞ちゃん「何よ。またなんかズルイやつ?」
おいさん「違う。これは知恵じゃからズルイんとは違うよ。本当に惹かれて本よんだらね、次に読む本が自然ときまるんじゃ。ずーっと先まで計画することはできんけど、没頭して読み終えたら、次のは見えてくるんじゃ。」
舞ちゃん「ふーん。おいさん、対抗運動もそうなんか?!」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年2月28日

小説「対抗運動」第9章2 受験の失敗

舞ちゃん「おいさん、あかんかった。通らんかった・・・」
おいさん「おう、ほうか。」
舞ちゃん「こんなにがっくりするとは思わんかった・・・」
おいさん「そうなんか。」
舞ちゃん「うん、あかん・・・。受験勉強せんかったん、後悔しとるんよ。」
おいさん「英語、やったやないか!」
舞ちゃん「歴史も古文もやっとけばよかった。」
おいさん「これからしたらええよ。勉強は逃げやせんよ。」
舞ちゃん「・・・どこで?」
おいさん「どこででも。」
舞ちゃん「学生やないのに?」
おいさん「舞ちゃん、勉強する者が学生じゃ。逆とちがうよ。」
舞ちゃん「ほいでも、入学が認められんかったんやから・・・・」
おいさん「あほなこと言うたらいかん。勉強が足りんかったんやから、それはもっと、もっとやらんといかんということじゃ。」
舞ちゃん「一人で?」
おいさん「一人で!」
舞ちゃん「・・・・・・」
おいさん「舞ちゃん、本は一人で読むもんじゃ。」
舞ちゃん「一人で・・・。」
おいさん「天地のあいだ、われ一人、生きてあると思うべし。」
舞ちゃん「えっ・・・」
おいさん「ちょっと古かったか。対抗運動も根本は一人でやるもんなんじゃ。
〈資本を支配〔・隷属〕関係から区別するのは、まさに、労働者が消費者および交換価値措定者として資本に相対するのであり、貨幣所持者の形態、貨幣の形態で流通の単純な起点 ― 流通の無限に多くの起点の一つ ―になる、ということなのであって、ここでは労働者の労働者としての規定性が消し去られているのである。〉
これが対抗運動のよって立つ根本じゃったね。」
舞ちゃん「根本は一人でやるもん・・・」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年3月9日

小説「対抗運動」第9章3  メール便の協同組合

おいさん「舞ちゃん、こんどおいさんとこ、メール便の協同組合と取引始めたよ。」
舞ちゃん「ふーん、この頃よう見るけど、宅配便とどう違うん? 安いん?」
おいさん「うん、宅配便は手渡しでハンコもらうやろ。メール便は、ポストに届けるだけや。小型の荷物限定やし、まあ、郵便と同じやね。けど、首都圏ではハガキ以外なら、郵便より安いんや。」
舞ちゃん「宅配便の大会社がメール便もやりよるみたいやけど、協同組合でも互角
にできるん?」
おいさん「そうなんじゃ。こんど取引始めたとこは、各地域にあった零細な業者が関東一円をカバーできるように組織した協同組合でね、今のところ一歩リードしとる。大体地元の人が自転車で配って回っとるけん、単位になっとる業者も零細なままでやれるんや。一歩リードしとる、というんはね、PⅡシステムというのんを開発して、配達する人が配るごとにタッチペンでセンターに情報を送るけん、リアルタイムで配達状況が把握できるんじゃ。」
舞ちゃん「けど、そのシステムの開発にはお金がかかったんやないかなあ?」
おいさん「そうや。まだ随分借金が残っとるそうじゃ。(笑)一通ごとに50銭だか1円だか返済ということになっとるんやと。」
舞ちゃん「そのお金はどうやって工面したん?」
おいさん「小渕首相の時、IT振興の掛け声が高かったんやけど、その時にこの企画で1億円の助成をうけたそうや。おかげで零細企業が連携して大会社の流通網に匹敵する能力を発揮できるようになったんじゃ。けど、営業や広告をどうするかがこれからの課題じゃね。宅急便の大企業は、取引先にメール便も始めました、というだけで強力な営業や広告になるけんね。」
舞ちゃん「協同組合やと宣伝したらええんやない? 利益追求が第一の目的やないんや、と。そしたら個々の対抗運動に目覚めた人らが支援できる。」
おいさん「うん、企業内のサラリマンでも、仕事に取り入れることができると思うんや。流通において、営利第一やない、ということは、どんな企業にとってもプラスなんやから。マルクスのおいさんが一番非難したんは、最もパブリックであるべき流通を投機の対象にすることやったけんね。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年3月17日

小説「対抗運動」第9章4  3月20日、雨の日比谷公園

舞ちゃん「おいさん、みぞれまじりやね。」
おいさん「あはは、舞ちゃん、寒いね。けど、ようけ集まっとるね。」
舞ちゃん「去年も、こんなやったん?」
おいさん「ほうよ、4月の初めに、代々木公園やったが、風雨をついてのデモが渋谷に繰り出したんじゃが、なんか似とるね。さっき芝公園から来た人らが言いよったけど、あっちで3万人と発表されたんじゃと。ここも1万人以上はおるね。地下もごったがえしとる。そろそろピースウォークの先頭は銀座へ繰り出し始めたみたいじゃね。門の方へ行てみよか?おっ、宮川さんじゃ!」
宮川さん「あっ、ゴローさん、こっち、こっち!」
舞ちゃん(「おいさん、デモしかバンドの、宮川さん?」)
おいさん(「ほうよ、あの宮川さんじゃ。」)
舞ちゃん(「あっ、木の実さん!キューバで会った木の実さんがおる、嬉しい。うち、やっと参加できたんやなあ」)
おいさん「宮川さん、久しぶりですね。なかなか盛況ですね、冷たいけど(笑)姪の舞です。受験で上京して来とるんです、落ちたんやけど。」
宮川さん「舞さんですか、こんにちは、宮川です。受験は失敗されたんですか。それは残念!しかし、今日参加したのはエライ(笑)さあ、一緒に歩きましょう。」
おいさん「舞ちゃん、行こう!後で、いっぱい友達ができるよ。歩き終わったらデモしかバンド、の皆といっしょに乾杯するけんね。」
木の実さん「あっ、キューバで会ったね・・・・・」
舞ちゃん「木の実さん、舞です。教育制度の研究はうまくいきましたか?」
木の実さん「ええ、協同組合のことも少しは調べましたよ。舞さんのおじさんも今日は参加・・・?」
おいさん「木の実さんこんにちは、舞のおいさん、です(笑)」
木の実さん「ああ、思い出しました。あなただったんですね、舞ちゃんのおいさん、は。協同組合の研究者なんですか?」
おいさん「ははは、こうやってデモばっかりやってても進展がないですからね。ブッシュ政権や小泉政権を支持している企業のボイコットが有効なんやないかと考えたんじゃが、ボイコットが浸透していくためには、他のところから買えんといかん。ほいで、他のところ、とはどんなとこじゃろうかと考え始めたんですよ。」
木の実さん「他のところ、が協同組合?」
おいさん「ほうなんじゃ。反戦をアピ-ルしよる企業いうたら協同組合がほとんどやからね。なんでじゃろ(笑)」
木の実さん「一般企業は利潤追求が最高原理ですね。すると、協同組合は原理が違うのかな?」
おいさん「構造的にはそうじゃ。けど実情は、一般企業と競争しとるわけやから、利潤追求の鉄則を無視することはできんね。しかし、組合員の強い意向なら、反戦アピールもできる。一般企業では、社員の強い意向よりも、経営者の意向の方が圧倒的に反映される。協同組合の執行部は組合員の代表じゃが、一般企業の執行部は経営者が選ぶんやからね。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年4月13日

小説「対抗運動」第9章5 トランスナショナルな対抗運動

宮川さん「ゴローさん、ボイコット運動はなかなか広がっていきませんね。」
おいさん「宮川さん、ちょっとずつじゃよ。ピース・ウォークだって盛り上がってくるまでには時間がかかっとるんやから。」
宮川さん「ところで、トランスナショナルな運動の盛り上がりは素晴らしいですね。今度の日本人の人質事件では、実にいろんなことが見えてきましたね。これまでは、政府間のインターナショナルな交渉が、事件解決の唯一の手段のように考えられてきましたが、今回は様々なNGOや個人の活動、情報網が光りましたね。政府は、信頼に足る情報を、最後まで入手できなかった。少なくとも、解放された後に至るも、国民に何の情報提供もしなかった。情報収集にどれだけ費用をかけたか、発表はされないだろうけど(笑)、まあ、税金の無駄使いですね。NGOや個人から、的確な情報が飛び込んでくるんだから、それらを助成した方がはるかに効率的ですね。」
舞ちゃん「おいさん、年間300億円の予算で、自衛隊は飲料水中心の復興支援をやっとるけど、あれ位の水の供給なら、NGOがやれば1/300の1億円位で出来るんやて。」
おいさん「イラク関係をじっくり見とると、近代の国民国家の権威が凋落してしもうとるんが、はっきりしてきよるね。国民国家は、紛争は引き起こすけど、解決能力はありゃせんね。最後は武力で抑圧するだけじゃからね。いま小泉内閣は、国際貢献を主張しとるが、政府がやると、国家利益の追求が露骨やから、現地では反感を買うだけじゃね。NGOのトランスナショナルな活動の方がずっと効果的やね。」
宮川さん「今、国民国家の権力者たちは、無事帰国した3人に辛く当たっているようですが、ますます権威を失うだけでしょうね。国際貢献が認められているのは自衛隊の活動じゃなくてNGOの方ですし、3人と、それからフリージャーナリストのお二方が解放されたのも、彼らが自衛隊の派遣に反対していることが、いろんなNGOの努力によって伝えられたからのようだし・・・。」
おいさん「国家単位での国際貢献と、様々なNGOや諸個人のトランスナショナルな貢献活動とは理念がまるで違っていることが浮き彫りになりよったね。フェアトレードもそうじゃが、国際紛争の解決、抑圧するんじゃなしに、原因から解消していこうとする活動は、様々なNGO,NPO,そして諸個人のトランスナショナルな活動やないと効果がないのんが、段々と明かになってきとるね。権力者たちの焦りも解らんでもないけど、よう気をつけとかなんだら、危ないね。」

続く
執筆:飛彈ゴロウ、2004年4月23日

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