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トレイルランから何を得るのか? 山田 洋が走り続ける理由

山田 洋さんとは?

スポーツライター、ラジオパーソナリティー、トレイルガイドなど、さまざまな分野で活躍中。UTMF、Aso Round Trail 、分水嶺トレイルなど数々のウルトラトレイルレースの完走経験を持つトレイルランナー。2020年からはYouTubeチャンネル「Trail Baka」を開設し、積極的にトレイルラン情報の配信を行っている。

ウルトラトレイルと農業

一瀬 山田さん、最近畑やってますよね。何か心境の変化でもあったんですか? コロナ禍と関係した行動?

山田 いや、たまたま友人が畑をやることになって、それを手伝ってるん ですよ。まだ2か月くらいかな。農業ってやってみたら、ウルトラトレイルに通ずるものがあるんですよ。

土に触れることで、自然の中に身を置いている感覚が得られるっていうことがまずトレイルランと同じ要素であるんですけど、それだけじゃなくて。急に天候が変わったり、この間一生懸命雑草を抜いたのに、3日後にはまた草ぼうぼうになっちゃってたり。自然相手だと人間の思う通りにならないことばかり。でも、体を動かしてそれに向き合うしかない。もうね、収穫のことなんて考えられない。3日とか、1週間後のことしか考えられないんですよ、必死で。それはね、レースで次のエイドを目指すことしか考えられないのと同じような感じ。ウルトラトレイルをやっている人なら、農業ってこういうことなんだっていう理解は早いと思う。

一瀬 山田さんには農業は合ってるみたいですね。「ウルトラトレイルと農業」って記事、書いてくださいよ。

山田 うーん、それ、読みたい人いるかな(笑)。

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今、メディアは何を伝えるべきか

一瀬 コロナの影響で、トレイルレースは軒並み開催中止。まだまだ自由に遊ぶことは控えなければならないような状況は続くと思うし、日本経済は低迷中。基本的な生活に対する不安がある中で、スポーツはどうしても二の次になっていくと思うんです。そんな中、トレイルランファンに向けてメディアは何を伝えていったらいいと思いますか?

山田 ここ10年くらいのトレイルランの流れを見てきて思うけど、レースに依存し過ぎてきたと思うんだよね。自分も含めて。

レースがあるから、走る。レースがあるから、物が売れる。レースがあるから、コミュニティーができる。レースありきの行動が多かったから、それが無くなった時のダメージが大きくなってしまう。トレイルランがスポーツとして、カルチャーとして、これからも続いていくためには、レース以外のトレイルランの楽しみ方を考え、伝えていく必要があると思うんだよね。

アウトドアスポーツってそもそも遊びだから。でも、日本人は欧米人に比べて、自然の中で遊ぶことに慣れていない面がある。どうやって遊んでいいかわからなかったり、それを教えてくれる人が周りにいなかったり。レース以外の楽しみ方を伝えていくことはメディアの一つの役割だと思う。

一瀬 確かにメディアがレースありきの流れを作っていたところもあると思います。レースはもちろん素晴らしいものだけど、これからはそれ以外の視点をもっと伝えていく努力が必要ですね。もっとトレイルランの根本的なところを伝えていきたいな。

山田 遊びとユーモアがなくなってしまったら、物事は終わりなんだよね。記事を書くにしても、走るにしても、そのことは忘れたくないな。

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どうして走り続けることができるのか

一瀬 山田さんは何年くらい前から走っているんですか?

山田 ロードは15年くらい前に始めて、トレイルランは12〜13年やっているかな。

一瀬 どうしてそんなに長い間、飽きずに走り続けられるの?

山田 ロードランはね、フルマラソンを2回走って、ウルトラマラソンを1回走ったら、もういいかなと思ってしまったんだよね。で、「トレイルランニング」っていうものがあると聞いて、友人と高尾山に行ってみたんだけど、キツいし、何がいいのかあまりよくわからなかった。でも、何度か山を走っているうちに、トレイルランは時間に追われなくていいってことに気が付いた。

ロードランはやればやるほど、キロ何分で走るとか、サブ4とか、タイムに追われるところがあって、それを楽しめないと感じる自分がいたんだけど、トレイルランにはそれがない。それに、人工物の中を走るより、自然の中を走った方が断然気持ちいい。キツい登りを終えたら、絶景が見られたり、下りを駆け下りる時の爽快感とか、何度も苦しい局面を乗り越えて辿り着いたフィニッシュテープを切る時の達成感とか。トレイルランでなければ得られないものがいろいろあるんだよね。

それから、自分がトレイルランを始めた頃に出会った先輩たちが、トレイルランは速さとか距離とかで優劣がつくものじゃないんだってことを教えてくれた。僕が20kmのトレイルレースを走ってボロボロになっていても、彼らは僕を称えてくれた。トレイルランの懐の深さみたいなところが僕に合っていたのかな。だから、今も飽きずに走り続けているんだと思う。

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100mileは一度走ってみたらいいと思う

一瀬 山田さん、100mile走るって、やっぱり特別なものなんですか?

山田 さっきも話したように、距離が長く走れるから偉いって訳じゃない。でも、レースというある程度安全が担保された状態で自分の限界に挑めるというのが、100mileなんだよね。

フルマラソンを走ると人間の喜怒哀楽がすべて出るっていわれるけどね、100mileって、喜怒哀楽のすべてが5回とか、多い人は10回とか出てくる。自分の限界に挑戦する中で浮かび上がってくる生々しい自分の人間性を見つめることは、自分を知る上でとても意味があることだと思うんだ。自分に謙虚になれるし、人に対して優しくなれる。だから、トレイルランをやっているなら、一度は100mileをやってごらんて思う。

一瀬 でも、それって100mileじゃなくてもいいですよね。私はあまり「100mile信仰」みたいなことは言いたくないんですよね。

山田 もちろん、100mileじゃなくてもいい。こういう不安な情勢の中で生き抜いていかなければならない時に、自分が持っている強さやしなやかさが試されると思う。トレイルランってそういうものを身につける上ですごく役に立つと思うんだよね。結局は、トレイルランから何を得るかってことだと思う。

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山田 洋 YouTubeチャンネル Trail Baka

Yamada Hiroshi note



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