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#2 民間企業が担う公共交通

日本各地の公共交通事業者が未曾有の苦境に立っています。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う移動制限によって、利用が激減しているためです。移動は経済活動、交流、観光など日々のくらしを成り立たせるために、必要不可欠なものでした。事業者は需要動向と利用者からの期待を考慮して、あらかじめ決めてある時刻、経路、車両で移動サービスを提供し続けてきました。たとえ移動需要が一気に消失しても、社会インフラとして、すぐさまサービスを縮小することは難しく、移動制限下でも、空席の目立つ列車、バス、飛行機の運行が続きました。事業者の経営に大きな打撃となったことは言うまでもありません。

問題が深刻なのは、需要急減が一過性のものではないだろうというところです。 大都市圏を抱える鉄道各社の首脳らは、2020年春、1回目の緊急事態宣言解除後から「移動需要はコロナ前まで戻らないだろう」と口にしだしました。コロナ禍に関係なく、都市圏の通勤・通学需要は数年内にもピークアウトに至るとみていたからです。人口減少やモータリゼーション、これに働き方改革が重なるシナリオ。各社は需要減の未来を見据えた構造改革に、本格着手しようとしていたところでした。コロナ禍は働き方改革を急進させ、東京一極集中の緩和を現実化させました。まさに想定していた未来が前倒しになってやってきたのです。

日本の公共交通は、主な担い手が民間企業です。各社は事業の核である交通事業の収益性を高めようと生産性改善に努力し、その結果、サービスの維持や改善が図られてきました。高い公益性が求められ、多くの要求にも応えてきました。代表例が、国鉄の分割民営化によって誕生したJR本州3社です。発足以来、消費税率改定以外に、認可を伴う運賃の引き上げは実施してきませんでした。一方で、速達性、利便性、快適性など輸送サービスの質は全体的に底上げされました。内部補助の仕組みで閑散線区も維持され、廃線もわずかにとどまっています。しかし、コロナ禍がもたらした急速な変化は、企業から余裕を奪っています。

公共交通が直面する課題は、スピード解決が求められる“待ったなし”の状況です。いまだ高度経済成長の一翼を担っていた時代を引きずっているようでは、ポスト・コロナの時代に対応できません。事業者には営利企業として成長し、輸送サービスとの相乗効果を期待するとともに、担わせている公益性の中身を吟味して、口先だけの指導や要請ではなく、これまでにない発想の支援があってよいと思います。規制緩和も事業者間に競争でなく、共創を促すようなものにしていかなければならないでしょう。地方鉄道線や路線バス、離島航路航空路の存廃を、事業者の経営問題として片づけてしまわないよう、願わずにはいられません。


(検証)感染拡大直後と現在

2020年4月の大型連休用に書いた記事でした。最初の緊急事態宣言が発出されていた当時、新たな取材もままならない中で「作文」した記憶があります。5年先に想定していたことが前倒しでやってくる。そんな予感はありましたが、まさかそれが「10年先」と言われるほどまで、行動変容が加速するとは。収束が長期化することも含めて、思いもよりませんでした。


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