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#1 移動の明日を考える

コロナ禍による社会環境の変化を受けて“移動する”ことの意味が問われているように思えます。移動制限下、情報通信技術を活用すれば、働くことができ、買い物ができ、人とつながれる場面のあることが広く認知されました。これまでと違い、効率や安全などの面から、積極的に“移動を回避する”という選択肢が現れました。ただ、個人の価値観にもよりますが、人と人とのコミュニケーションはバーチャルでなく、リアルであるに越したことはないものです。非日常の交流を求めて移動する“旅”というのも、人間の本質的な欲求に基づく行動であることから、以前のように安全安心が確保できるのであれば、出かけていくのだろうと考えます。

一方、移動が不要であることが分かった場面では、単純に元通りの需要とはならないでしょう。非効率かつ乗り気ではない場合のビジネス出張など、なおさらです。通勤・通学など生活のための移動は、今後どうなっていくのでしょうか。コロナ禍では密を避けるためとして、一部で自家用車通勤に切り替える“公共交通離れ”も発生しました。需要減を下押しし、都市部における移動手段の多様化が進む可能性もあります。どれほどリモートワークや遠隔授業が定着するのか次第ですが、毎日の移動の必要性が薄まれば、移住や多拠点居住など個人が望むライフスタイル実現の後押しにつながるかもしれません。新たな移動需要も生まれることでしょう。

パンデミックの発生からすでに2年以上経ちましたが、まだ感染拡大・収束の波を繰り返すウィズコロナの状態が続いています。移動が抑えられている現状、アフターコロナ・ポストコロナの社会が、どう落ち着くのかは見通せず、移動に起こるであろう、さまざまな変化も本格化するのは、これからでしょう。どのようなライフスタイルが選ばれていくのか、それによって人々の移動ニーズはどう変わり、移動サービスはどう対応していくのか。目的地までの速達性、利便性、移動時の快適性、安全性、さらには環境への配慮、そしてコスト。縮小均衡だけでなく、移動がもたらす価値や幸福が、コロナ前よりも大きくなることに期待したいです。

私は昨年3月まで4年間、運輸・観光業界を取材しておりました。ニュースを追う中、さまざまな関係者から思いを伺い、取り組みの現場を、直接訪れる機会に恵まれました。移動を支える公共交通は、ポストコロナの社会・地域に対応し、サービスを維持していくため、役割や機能を見直すタイミングにあります。移動の一つでもある観光も、旅行に対する価値観の変化への対応が迫られている大転換期にあります。移動が必要な人、移動を楽しむ人、移動サービスを提供する人、移動の理由を作る人や待つ人、それぞれにとって良い未来が訪れるように、あらためて自分なりに、移動の明日を考えていきたいと思います。


(余滴)SDGsと公共交通

2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者、および高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。

SDGs(持続可能な開発目標) 目標11 ターゲット2

すべての人のニーズに寄り添うことは難しいですが「誰ひとり取り残されない社会」をどう作っていくか。公共交通を考える際には重要な視点だと思います。観光もサステイナブルツーリズムにとどまらず、地域活性化、文化振興、多様性・相互理解などSDGsと深く関わります。


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