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#3 需要回復の現在地

まずは約2年のコロナ禍で移動需要が、実際にどの程度減少しているのか、あらためて把握するところから始めたいと思います。大手鉄道・航空会社はすべて決算が3月期で、前年度の業績は5月中旬までに出そろったところです。激烈な需要減に対して供給を減らすなど固定費削減策を積み上げ、旅客運送以外の事業で収益を補い、資産売却による特別利益の計上など構造改革に取り組んだ企業努力の結果が、各社の最終損益に表れています。今回は年間の輸送実績を示す「輸送人キロ(旅客キロ)」という指標に着目します。コロナ禍の影響がない2018年度を100としてJR旅客6社を比較してみました。

2020年度(左、灰色)、2021年度(右、青色)

輸送人キロの8割超を東海道新幹線が占めるJR東海は21年度、20年度に比べて12ポイント回復しましたが、それでもコロナ前の半分にも届きません。他社も21年度は20年度比で3-6ポイントの回復でしかなく、依然としてコロナ前の6割前後に低迷しています。これまで堅調に利益を上げてきたJR東日本や西日本、大手民鉄では、およそ85%程度まで需要が回復しないと鉄道事業での収支トントンは見通せないとされていました。経営再建中のJR北海道や四国は、観光需要が大きな柱。早期に回復できなければ、再建シナリオにも影響が出るでしょう。

2020年度(左、灰色)、2021年度(右、青色)

大都市圏(JR)、幹線の回復度合いについて見ていきます。大都市圏は関東・近畿ともに、21年度も19年度比で70%台前半です。外出控えやテレワークの普及、自家用車など他輸送モードへの転移などでしょうか。20年秋ごろ、都市鉄道各社の首脳は「混雑回避のための公共交通離れ」の懸念を口にするようになりました。資料はありませんが、移動需要の回復実態とともに、分担率の変化が気になるところです。定期券離れによる休日の鉄道利用インセンティブ低下も見逃せません。航空国内線は東海道新幹線と同様、コロナ前の半分以下。長距離移動では、代替交通への転移を理由と考えにくく、出張・レジャー控えが顕著に表れているようです。

公共交通はこのまま、変化を黙って受け入れていく訳ではありません。安全で快適な移動といったサービス面の改善、他の交通事業者や輸送モードとの連携を含む利便性・速達性の向上、環境配慮型移動の訴求など、料金・ダイヤ以外にも取り組まなければならない課題は山積しています。多拠点居住や転職なき移住など新たな移動ニーズへの対応も必要でしょう。何より、これまで以上に、個人が移動する理由や目的を創出することが重要となるのではないでしょうか。特に人口流出が進み、衰退傾向にある地方では、地域を維持するためにも、誘客の促進が欠かせません。ポストコロナでは“リアルな交流がもたらす幸せ”が再認識されることを期待しています。


(用語)輸送人キロ

旅客一人ひとりが、それぞれ乗車した距離を掛け合わせたものの累計。航空は有償旅客キロ(RPK)として公表していますが、JAL・ANAは20-21年度に会計制度の変更で、これまで除外していたマイレージ利用客も含むようになりました。下表で基準年を上表と異なる19年度に設定したのは、JALが19年度分からマイレージ客を含めたRPKを公表しており、制度変更の影響なしに両年度を比べられるためです。


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