本音

 私が私のことをすごくくだらない人間だと思うのは、すごくくだらない人間だと自覚しているのにも関わらず、それを覆す努力もせずそれを認める潔さも持たないくせに、そのことを他人に悟られないように必死になり、なんだか難しいことを考えている頭の良い人間のように見せかけながら、本当は底の浅い自分に都合の良いことしか考えておらず、穏やかでいかにも優しい人間のように振る舞いながら、その実ただの事勿れ主義のその場しのぎで自分の内面を曝け出す勇気も覚悟も持たず、そのくせ一生懸命生きる熱量を持った健やかで優しい人たちのことを羨むばかりで、彼らは持てる者で私は持たざる者であり彼らに出来ることが私に出来ないのは仕方がないことなのだと彼らの苦悩も苦労も無視して自分を哀れんでばかりいて、こんなことを考え続けている癖に今日も結局なにもしないままに死ぬことも生きることも放棄して一日を終えようとしているからだ。

 悩んでたんだね。言われて振り向くと、食器を片付けたばかりの机の上に、くしゃくしゃになった紙が広げられていた。暇な時に書き綴って丸めて捨てたやつだ。ゴミ箱に向かって投げたら壁に当たって、少し外れたところに転がった。拾って捨てるのも面倒で、とりあえず放置していた。
 なんとなく書いただけだから、と言ったけれど、なんとなくこんなこと書いちゃうなんてよっぽど辛かったんだろう、と返された。そうかもしれない、と甘えてみると、大丈夫だよ、と言われて頭を撫でられた。
 はじめから私は大丈夫だ。あれを書いた時だって、なにも感じてなくて、辛くも苦しくもなかった。そのことが何よりくだらなく思えて、丸めて捨てた。
 大丈夫だよ。もう一度ささやかれて、もう寝よう、とだけ答えた。

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