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4.13週目の奇跡 〜 次男について 〜


次男は2010年の暮れに彼女のお腹に命を宿した。そして翌2011年の3月11日、首都圏にいた我々の元にも、あの震源を中心とした縦揺れ混じりの円運動のエネルギーは届き、13週目の次男にも何らかの影響を及ぼしたのだろう。

妊娠13週目にもかかわらず破水をしてしまい、診療時間外を担当した片言の外国人の医師から出た言葉は、
「100%助かりません」
だった。

(この人は何を言っているんだろう。
 この世の中に100%決まった物事なんてあるのだろうか)

“日本語”という外国語を使って、「医師」という専門職に“日本”という外国で従事されている、というのは並の能力ではない。とてつもなく優秀な方なのだろう。
ただ、この時に出た100%助からない、という内容は、カタコトの日本語も手伝って、僕には”嘘っぽい“響きを伴って僕の耳から肚に伝わり、返ってきた肚からの返事は、

(この世に100%のことなんかあってたまるか)

だった。

この出来事は僕にとって、この世に生を受け、今この瞬間も母と同じリズムで生きようとしている、命に対する冒涜だった。
怒りに似た感情が鎮まっていき、大きく鼻で深呼吸をし彼女の方を見ると、彼女は大粒の涙を溢し、両手で口元を覆いながらその医師の方を見つめていた。

次男と一心同体である彼女に対して、専門的知識のある人からの、100%失う未来が待っている、という意味にもなり得る言葉は、僕にとってはもはや暴力だった。

医師からの説明が終わり、僕は100%のことはこの世にない、そのこと自体に確信はあったが、当然次男が100%助かるわけではない。
次男が助かる方に全BET、助かる方に懸ける、という選択を自分自身は決めた。が、僕以上に失った時の痛みが大きいであろう彼女に、”大丈夫、助かる方に賭けよう“とは簡単に言えなかった。

そんなとき状況を聞いて、僕たちの関係を取り持ってくれた友人が駆けつけてくれた。
これまでも友人の決断力や行動力に感心したことが何度かあったが、破水から今までの経緯を聞いた友人は、
「医者の言うことなんか聞いちゃダメだよ!」 

と彼女に対して最も響く活を入れた。友人の活は彼女の肚に伝わり、返ってきた肚からの返事は、

(この世に100%のことなんかあってたまるか)

だったのかもしれない。

思えば次男は、あの世のようなところで急遽呼ばれ、3.11の直前に大急ぎで地球に降りてくることになったのかもしれない。急すぎて不時着になったのもやむを得ない。
いずれにせよ失われた羊水は徐々に回復していき、3.11で1年延期となった、家族親戚中心の結婚パーティーには、頬の膨らみで顔が横長な勢いの、抱っこされるがままの次男の姿があった。


続く↓


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