生物教師
正人は詰めが甘い。生物室で恭平といちゃついてるところを誰かにスマホで撮られて、そして今日にはもう学校中のニュースになっている。
私が正人のいる学校に進学することにしたのは正人がいるからではなく、校風が好きだからで、制服がいいからで、レベルがちょうどよかったからだが、あの男はそこのところがわかっていない。
廊下で会えば微笑んでくるし、窓の下から手を振ってくる。
私は自分の無難な苗字を傘にして、無難に過ごそうと心を砕いているというのに。
でも、そんなうんざりも、今や全て思い出である。正人はもう、あの学校にはいられないのだから。
帰宅して冷蔵庫を開けると、ラップがかけられたご飯の上に、ノートの切れ端のようなものがくっついていた。
なっちゃんへ
今日はご飯を作ってあげられなくて
ごめんなさい。
でも、一緒にご飯が食べられる日よりも、
お父さんのことを
考えていてくれてるかもしれませんね。
そうだったら嬉しいです。
なっちゃんは学校で会うと、
いつも僕のことを無視しますね。
僕はそれが悲しいです。
あなたは、毎年お母さんに似てきますね。
学校でお母さんに会えるみたいな
気持ちになります。
恭平くんは魅力的な男の子ですが、
僕がいいと思う若者はなっちゃんだけです。
お米、ちゃんと食べないと元気出ないですよ。少しだけど冷凍しているおかずもあるから、一緒に食べてくださいね。
お誕生日プレゼント、クローゼットに入れました。おめでとう!直接言えなくてごめんなさい。明日は帰りたいと思っています。
お父さんより
クローゼットを開けると、ラベンダー色のワンピースがかかっている。裾が長くて、背の低さが強調されそうで、自分では絶対に買わないデザイン。おそらく、サイズも合っていないだろう。
私が気に入っているTシャツが、奥の方に移動されている。正人のこういうところが、私は本当に許せなかった。
ワンピースは、明日恭平にあげようと思う。
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