見出し画像

着ぐるみ解禁

ついに、経団連が次年度以降の着ぐるみ禁止期間を発表した。5月1日から9月30日は、着ぐるみの着用は禁止される。10月1日、一斉解禁。
夏の着ぐるみの暑さおよび臭気に健康を害した元「中の人」の訴えが、ようやく結実した。

さて、これに困ったのは、我々「地(じ)ぐるみ」だ。
世の中の多くの人は、着ぐるみを外側だと信じている。しかし、それはあくまで多数派であって、全てではない。
地ぐるみとは、生まれながらにして着ぐるみ風のビジュアルを備えた人間のことを差す。ふわふわの短くてカラフルな体毛と、永遠に変わらないお茶目な表情が特徴である。普段は、非ぐるみ、すなわちいわゆる「普通の人間」の皮膚を模した擬膚を被って生活しているから、我々の存在を知らない市民も多かろう。

オフィスワークに勤しむ地ぐるみも少なくはないが、ほとんどの地ぐるみは着ぐるみ業で生計を立てている。デパート、遊園地、幼稚園や保育園。着ぐるみの仕事は、どこにでもある。着ぐるみとして働いている間は、ネイティブとして堂々と過ごせるだけでなく、いつもは窮屈な思いをしている地肌を、好きなだけ陽光と清風にさらすことができる。ひ弱な非ぐるみたちが苦しむ季節をゆったりと楽しみ、束の間の革命気分を味わう。

ああ、それなのに、このささやかな喜びすら、世間は我々から奪おうと言うのか。

迫害は、これだけじゃない。

なぜ私がここに連行されてきたのか、そのことについてもよく説明してほしい。

私はいつも通りに遊園地での仕事を終え、着替えて、家に帰るところだった。誓ってもいい、あなた方が裸だと断言する私の状態は、擬膚で覆われているに過ぎず、間違いなく着衣である、と。

いただいたサポートは、ますます漫画や本を読んだり、映画を観たりする資金にさせていただきますm(__)m よろしくお願いします!