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「そんな人じゃない」って、どうして断言できるの?私たちはあの人の、何を知ってるんだろう:『消えたママ友』レビュー

野原広子さんによる、実体験の要素を交えたフィクションのコミックエッセイ『消えたママ友』。漫画家の渡辺ペコさんがおもしろいとツイートしてて、Kindle Unlimitedの対象に入っていたので、読んだ。

(読み終わってからもう一度表紙を見ると、いろいろと思うところがある…)

最初にタイトルを見たときは、「最初は仲がよかったママ友たちから仲間外れにされて、いないことにされちゃう、みたいな話なのかな?」と思ったが、そうではなかった。

4人で仲良くしていたママ友のひとりが突然失踪してしまったのだが、仲良しグループの誰にも連絡は来ず、連絡してみても反応がない。保育園の母たちの間で「どうやら男と逃げたらしい」という噂が広がっていく中、仲良しグループのママ友は「彼女はそんな人じゃない!」と最初は思うけど、「でも私って本当に彼女のこと知っていたのだろうか…?」とだんだん考えていく、という話。

ほっこりさっぱりした絵とコマ割りなのにべっとりと人間の暗いところを描いていて、そのバランスが素晴らしかった。コミックエッセイでミステリー風味って、新鮮だ!
互いにあこがれやちょっとした憎しみと秘密を抱えながら、傷つけたり助けたりして付き合ってきた4人の関係がとても人間らしい。他人の「見える」部分って、どこまでいってもその人の一部分でしかないんだよな。

『レタスクラブ』で連載していた時には、消えたママ友(有紀ちゃん)失踪の理由が明かされないまま最終回を迎えたらしく、大幅に加筆されて単行本になったらしい。加筆された部分こそ、この作品の要だと思う。

あ、そう、それ!健康なイメージのある雑誌『レタスクラブ』にこの作品が掲載されていたというのも面白かった。本書のあとがきによれば、当時の編集長・松田紀子さんの「誰にでも、後ろ暗い物語に触れたいという気持ちがある」という言葉に背中を押されて、作者さん(野原広子さん)はこれを描くことにしたらしい。ただドロドロを消費する快感を味わわせようとするようなマンガも世の中にはいっぱいあると思うけど(ネットの広告でよく出てくるよね!おどろおどろしい表情のマンガたち!)、野原さんのマンガは無理やりテンションを上げたりしていない、とても丁寧なつくり。

あと、野原さんのインタビューを何本か読んだんだけど、特に創作する者の一人として、それらもとても面白かった。野原さんはかつて少女マンガを10本くらい描いていたけどマンガを描くのはとても大変だと思って描くのを一時期あきらめていたらしく(めちゃくちゃわかる)、絵を簡略化して現在の形式に至ったらしい。ご自身が疲れていたとき複雑なコマ割りのマンガが読めなかった経験から、すべて大きさが同じ4コマの枠組みを使ってコミックエッセイを描くようになったとのこと。私も描くのが大変すぎてマンガを最近あまり描けてないけど(要素が多すぎるんだよな!!)、「削る」工夫をしたら、また描くことができるかもしれない。
マンガを描くには若い方がいいって言われることが多いけど、野原さんはお子さんが大きくなって俯瞰できるようになったからこそ・いろんな経験を経たからこそ、今の作品が描けているそうで、勇気をもらった。

↑このインタビュー(というか対談)、特におすすめです!

最後にまた内容の話に戻ると、私は有紀ちゃんの息子・ツバサくんの今後が一番心配だ…。
いつも犠牲になるのは子供でつらい。逃げた有紀ちゃんを責めたいわけじゃないよ、家ってちょっとしたことですぐに牢獄になってしまう場所だから、そんなに閉じた空間で我慢して生きていく必要はないよ!逃げて大正解だよ!って、思ってる。でも、子供には、逃げることも一緒にいる家族を選ぶこともできないんだよな…って、こういう作品に触れるたびに思うの。どうしても自分に重ねて見ちゃうんだよな。



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