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冬眠する毛布

その日は、寒かった。私は、今年はじめて、ファーのついたコートを、職場に着ていった。
「こういう日は、早めに布団にくるまって、寝るに限るね」と寒波から逃げるように早足で帰宅すると、ないのだ。

朝はベッドの上にたしかにあったはずの、私の毛布が。

寝起きの働かない頭で、どこかにしまいこんでしまったのかしら。

一人暮らしの部屋の小さなクローゼットを開けると、見覚えのあるもこもこ。あった。

いや、でも。

妙だった。

毛布は、扇風機と夏用タオルケットの奥にこぢんまりと収まっていた。

…いくら働かない頭でも、こんなに奥にしまいこむこと、あるだろうか?あの、戦場のような朝の時間に?

この家には、私の知る限り私しか住んでいない。しまいこんだのはどう考えても私。身に覚えがなくても減り続ける貯金、とってあったはずなのに食べ終えてるケーキ、それと同じだ。おそらく、絶対。

足のない同居人がいる可能性にぶるぶる震えながら、私は毛布を取り出そうとした。

しかし毛布は、動かない。

よく見ると、毛布も震えていた。さらによく見ると、いやいやをするように布の一辺を左右に動かしていることがわかった。

何かのヒントがあるかもしれないから、毛布のタグを懐中電灯を使いながら読む。そこには、こうあった。

「稀に冬眠する製品が紛れ込む場合がございます。その場合は、替えの製品をお送りいたしますので、下記までお電話ください」

私は懐中電灯を消し、毛布に尋ねた。
「あなたは、冬眠する毛布なのですか?」
毛布の震えは、横から縦になった。

***

「フラメンコの嫌いなスペイン人がいてもいい、夜が嫌いなドラキュラがいたって、いい。だから、冬眠する毛布の存在だって、認めてあげるべきなんだ」

ダイバーシティ博物館は、私の主張に賛同してくれました。博物館のエントランスにこいつを展示して、「変」だと嗤われ、虐げられる人たちを照らす、一縷の望みにできないか?って、話し合ってね。

そこにあるでしょう、布が一杯詰まった、透明な筒が。真ん中よりちょっと下の、赤くて大きな布が、元私の、毛布です。気持ち良さそうに、じっとしているでしょう。

ええ、ええ、展示方法は、動物園のモグラのブースを、参考にしたんですよ。

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