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人食いボート

縁結びで有名なボートが、とある公園にあった。
そのボートの上で告白をすれば、100%カップルになれるという。
ボートの噂を知らない者はほとんどいないから、その気がなければボートに乗らないわけで、100%成功して突然、と鼻を鳴らす者もある。
しかし、深窓の令嬢や長年の外国暮らしが相手であっても、必ず結果は同じになる。まじりっけなし、ずるもなし、純粋に、完全なのだ。

そんな無敵のボートだが、一つだけ、告白する者が覚悟を決めなければならないことがある。

それは、100人に1人、告白の結果を知ったあとで、ボートに食べられる者がいる、ということだ。

規則正しく、98人,99人…と来て100人目が犠牲者となるのであれば、まだ対策も立てられよう。残念ながら、選ばれる者はランダムだ。連続で2人が餌食となったこともある。

こう話している間にも、来た来た、二人組が。

たぶん、大学生くらいの男女であろう。歩くときの微妙な距離感から、恋人でない可能性が高い、と推測する。

ほら、やっぱり。自動販売機でチケットを購入して、二人はボートに乗り込む。そして、漕ぎ出す(意外とうまくいかない)。

10分は漕いだだろうか、それまで、微笑を張り付けて何らかの話(おそらく中身はない)をしていたような二人、漕ぐのもやめて、しばし目を合わせたり逸らしたりを繰り返している。

男が口を開ける。あれは、「あの」だ。
あの口の形は。

そのあとはなんだかわからないが、たぶん、男が、前から好きだったとか言ったのだろう。それくらいの長さ、口がモゴモゴしていた。そして女は、やや首を横にゆらしながら、もったいぶって頷いた(たまにいるだろう、頷くとき、首が食レポの箸よろしくほんのり震えてしまう女が)。

その瞬間、女の体がマトリョーシカのように上下に真っ二つに割れ、切り口が糸を引くのが見えた。あの光るのは、歯だろうか?女の腕が(おそらく)大変な力で男を持ち上げ、男を自分の中に収容した。つまり男は、飲み込まれた、のだと思う。

(以下、証言は公園付近の占いハウス一番人気、まりあさん)

「あのボートにはね、車に踏みつけられた雌のかまきりの魂が留まっているのよ。そのエナジーに呼応する人が時々いるから、こういうことになっちゃうのよね。食べられちゃうのは、何も男の人に限らないけどね」

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