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ハワイと引き換えに

宝くじ?あんなのは、いけないや。だって、当たるかどうかわからないんだろう?絶対に当たるものじゃなくちゃ、身銭を切る意味がねぇよ。

じゃあ、何がいいかって?馬鹿言っちゃいけねぇ、お前だって見たろう?あの角の、「マハロ」っていう店をさあ。店というか、事務所というか…、まあ、なんだっていいや。

なんでも、指定された記憶を差し出せば、ハワイ3泊4日の旅と引き換えられるんだとよ。差し出すって、何かって?そのまんまだよ、差し出すんだ。

例えば、かつての女房の記憶を指定されたとするだろう?差し出したら最後、女房の名前、誕生日、好物に出身地、気に入っていた仕草、どうやって出会ったか、あるいは、別れたか、なんでもみいんな、二度と思い出せなくなる。

ただ、安心していい。どんな記憶を差し出したかも、綺麗さっぱり忘れるようにできてるから、大きなことのはずなのになんでだか思い出せねぇ、引っ掛かる、てなことは、一切、ない。覚悟さえできれば、あとは楽なもんよ。

たぶん、お前が「マハロ」に行ったらよ、かつての父親の記憶を差し出すように言われるだろうな。なんでわかるかって?俺の仕事は予想屋なのよ。入っちまったら最後、記憶を差し出さないって選択肢はないのがあの店さ。だから、ここでハラ決めるための手助けをしてる、ってわけだ。大概、そいつの足を引っ張って先に進めないようにしてる記憶が指定されるから、いっそ一思いにくれちまった方が、長い目で見ればすっきりすんのよ。

心配すんな、キーワードに関する記憶以外は、まるっとそのまま、あんたが残る。心配すんな…。


…泣くさ、仕方ねぇだろう!女房のことは忘れても、娘のことは覚えてる。


予め教えとくとな、「何を忘れたか、忘れない」コースを選べば、旅行は7泊に延ばせるぜ。

ハワイ、楽しんでこいよ。

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