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Concierge Story [オランダ流フライト・セーフティ]

<このnoteはコーポレート・コンシェルジュの木村ゆかが書いています。>

TPOでYourConciergeとして毎日充実した生活を送っている私は、
前職ではオランダの航空会社にCAとして勤務していました。

さすがライフワークバランスという言葉や、
ワークシェアリングが生まれた国オランダの会社。
働き方やチームワークは大変合理的、かつ、人間らしさや多様性に価値を置くメンタリティが印象的でした。
それほど、CA時代は私にとって楽しく、
職場の雰囲気も人間関係も、鬱々とするようなストレスは微塵もなく、
「一生の宝物」となる素晴らしい8年間でした。

オランダ流ヒューマンエラー対策

Flight safetyのトレーニングでは、緊急着陸、急減圧、ハイジャック、爆弾、急病人、手に負えないお客様(笑)、想定されるありとあらゆるシチュエーションに対処できるように訓練します。

フライト日記心肺蘇生

だからCAは機内で、自分は警察官くらいの気持ちで働いています。
口ぐせは工事現場で良く見る標語そのもの、"safety first" 安全第一。

トレーニングは、コーヒーを飲みながらリラックスした雰囲気の中、
笑いが尽きることなく進みます。

会社の人材採用条件の1つが、ユーモアのセンスがあること(!)。
だから、シリアスな内容の時にもお構いなし、
ジョークがバンバン飛び交う。
そして機内と同様、みんなどんどん発言します。

この会社では、くだらない質問や意見などない。
どんな質問や意見にも、それを発したことに対してまず評価されます。

大げさすぎるほど褒められる。
的を射ていない質問や答えに対しても、必ず
その発言の良かった点を肯定されます。
だから誰も発言することに恐怖を持っていない。
それがインタラクティブな環境を作っています。

今までの人生、うっかり何かを聞くと
「聞くのではなく自分で考えなさい」
「そんな(バカげた)質問をするなんてちゃんとやってないんじゃないか」
と言われてしまい、これは聞いてもいい質問なのか、、、
怒られるんじゃないか、、、と質問すること自体を
恐怖に感じてしまうような経験をしてきました。

聞けば、助け合えば、すぐに解決するかもしれないような問題を
延々と頭の中に閉じ込めて1人で悩むようなことが多々ありました。

このエアラインで働き始めて、目からウロコ。
なぜなら、私たちは人間なんだから完璧じゃない。
分からないこともあれば、忘れるし、ミスすることもある。
だからこそ同僚がいるんだ。
分からないことがあれば遠慮なく聞く。助けを請う。
そうしてお互いをサポートしあう必要がある。
それをチームワークっていうんだよ。

(We are not perfect because we are all human beings. We all make mistakes, forget....That's why we have colleagues, to help each other. That is teamwork.)
と皆が言ってくれるし、そのように認識しているからです。

オレンジジュースお客様にこぼして、謝る代わりにお客様に向かって
「人間なんだからそりゃミスもしますよ」
て堂々と言ってたオランダ人もいましたけど笑

右も左も分からない一番最初のフライトで
今は亡きオランダ人の同僚がかけてくれた言葉は、

「何でも聞いて。バカな質問なんてないのよ。バカな質問があるとしたらそれは躊躇して聞かないことだけ。」
(You can ask me anything. There's no stupid question. If it exists, that is that you hesitate to ask.)

ミスに対しては、責めたり叱られるのではなく、こう言われる。
人間なんだから、ミスは当たり前、
故意にやったわけじゃないんだし、私にも、みんなにも起こる
可能性がある。だからそこから学ぼう。

(Let's learn from mistakes. Because it can happen to everybody)

仕事中同僚から良く聞く言葉です。
オランダ人は、小さい頃からこのような言葉をかけられて育ってきたのだろうな、と感じさせられます。

でもこのような言葉の裏には、実は安全に取り組む航空会社の
こんな考え方があります。

ミスを責めたり罰したりすることで、ミスした人はそれを隠そうとする。
フライトで起こる小さな事故や出来事など会社が知るべきこと、
またケーススタディの機会を逃すことになる。

責めませんよ、罰しもしません。
でもあったことを正直に話してください、その出来事から我々は学びましょうという姿勢とサポートを示すことで、社員はオープンになれます。
安全第一の機内で、何かおかしい気がするけど、
そんな小さなこといちいち報告するなって言われそうだったり、
分からないこと聞いたら怒られそうって思ってやっていたら、
重大な事故につながりかねない。
私たちはよく第六感をフルに使え、人間には危険を察知する能力があるから。何かお腹の中で感じたらすぐにシェアしなさいとまで言われます。

もし上下関係が厳しすぎて、なかなか発言できない環境だったら、
このご時世に安全なフライトは徹底できません。

フライト訓練

過去の大事故を契機に変わった社風

今ではそんな社風ですが、最初からそうだったわけではありません。
昔は航空業界にありがちな上下関係が強く、機長には誰もNOと言えない
社風があったそうです。
パンナム機と衝突して史上最悪の死者数を出した事故をきっかけに
社風が大きく変わったと言われています。

原因の1つが、副操縦士がその手順はおかしいと気付いたにもかかわらず、
機長に逆らえなかったこと。
機長が副操縦士の言うことを聞いていれば、また副操縦士も
ヒエラルキーに屈せず主張できていれば避けられた事故でした。

そういった安全上の理由から築かれてきた会社のカルチャーですが、
本当にやるべき仕事に集中でき、余計なストレスを生み出さず、
クルーやパイロット同士がお互い対等でいられる風通しがいい社風のおかげで、日本人の同僚から誰1人として
この会社を辞めたいと言っているのを聞いたことがありません。
皆が、できるだけ長くこの会社で働きたいと熱望していました。

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こんなカルチャーが、どんな組織にもあったらいいな。

オランダを離れて日本で働く今、
エアラインの仲間や楽しかった日々を思い出しながら、
そう感じています。



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