証券会社の闇を暴くマンガ『投資のテンケイ』 そのプロデューサー、世古口氏が目指す未来とは?
コロナ禍やウクライナ危機、急速な円安やデフレなど、近年私たちを取り巻く情勢はかつてないスピードで変化しています。特に、「投資」に関する日本人の意識はここ数年で大きく変わったのではないでしょうか。今までは「資産は守るもの」とされてきたものが、「資産運用はあたりまえ」という意識に変化してきました。
そんな変化が起こる以前から、資産運用の重要性を指摘し、認知拡大に努めてきた人物がいます。株式会社ウェルス・パートナーの代表取締役、世古口俊介氏です。
株式会社ウェルス・パートナーは、富裕層向けの資産運用コンサルティングや、IFA(金融商品仲介)、不動産を含む実物資産、税務など資産全体の最適化を行なっている企業です。銀行や証券会社ではないからこそ、多様な金融商品を扱うことができ、顧客に本当にメリットのある提案を行っています。
また、世古口氏は、日本全体の投資リテラシーを高めることを目的に、オリジナルマンガ『投資のテンケイ』をプロデュースされました。『投資のテンケイ』は、金融業界、特に証券会社の裏で行われている「顧客に不利な営業」を明らかにし、読者が正しい投資の知識を得ることを目的にしたマンガです。2022年9月30日より各マンガ配信サイトより1話が無料配信され、以降は月最終金曜日に順次公開予定です。(マンガの制作・編集はトレンド・プロが行いました。)
『投資のテンケイ』第1話
今回は弊社代表岡崎が、日本における投資のあり方と、今回制作したマンガにかける思いについて、世古口氏と対談させていただきました。
プロフィール
世古口俊介
2005年4月、日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社。プライベートバンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。
その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)プライベートバンキング本部の立ち上げに参画、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格。
2016年10月、株式会社ウェルス・パートナーを設立。
500人以上の富裕層の資産運用コンサルティングを行い、顧客からの最高預かり残高は400億円。書籍の出版や各種メディアへの寄稿、登録者7000名超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」を通じて、日本人の資産形成に貢献している。
『投資のテンケイ』あらすじ
富永証券に勤める若手営業マン・愛原優一は、売り上げのためなら、顧客にメリットがないことがわかっていても、投資商品を売りつけていた。そんなある日、顧客の一人が愛原のすすめた投資で失敗し、自殺してしまう。責任を感じた愛原は自らも命を断とうと会社の屋上に行くが、そこで突然現れた幽霊から、「償いたいなら、損をさせてきたぶん儲けさせろ!」と止められる。やけに合理的かつ投資知識がある幽霊に諭され、心を入れ替えた愛原は、本当に顧客のメリットになるための投資を学び始める。そうして、証券会社の闇と対立していくことになる––。立派な証券マンになるため、また幽霊の謎を突き止めるため、証券マン×幽霊の異色コンビが証券業界の闇を暴く!
日本の投資を変えるために独立、原点は「誰のために働くのか」
トレンド・プロ:今回のマンガを作ろうと思ったきっかけをお伺いできればと思います。
世古口:私はもともと証券会社で働いていたのですが、間違った形で営業や販売がおこなわれていることが多かったんです。その結果お客様が大損してしまったり、ニーズに合っていないものを買うことで「なんか違う」と投資を嫌いになってしまったり。特に今の50代以上の人は、証券会社に言われるがままに投資をして失敗し、もう手をつけたくないという方が多いと思います。そのため、証券会社のスタンスをもっと変えていかないと、日本の投資は変わらないと思いました。
そこで、「証券会社をテーマにしたマンガがあったらおもしろいな」と思ったのが、証券マンガを作ろうと考えたきっかけです。わかりやすい、若い人にも手軽に読んでもらえるという点では、やはりマンガなのかな、と思います。
トレンド・プロ代表 岡崎(以下、岡崎):御社のメインターゲットである超富裕層に加えて、若い投資家や日本市場に貢献したい、という背景もあるのでしょうか?
世古口:かっこよくいうと、貢献はしたいです。あとは、私たちのお客様である経営者の皆さんにはマンガが好きという共通点がありますね。特に若い方たちは、何かしらマンガを読んでるという方が多いです。
岡崎:前職のような富裕層向けのビジネスをされていた中で、ご自身で会社を立ち上げようと思った理由はなんですか?
世古口:日本の金融市場の発展や投資の増加も大事だと思っているのですが、どちらかというと「目の前にいる人の資産を最適化する」ということに注力したいという生き方をずっとしてきました。それを続けるためには独立しないと難しいな、と思ったのがきっかけですね。
そして、これは今回のマンガプロジェクトの原点にもなるのですが、プライベートバンクとはいえ上場会社ならば結局「誰のために働くのか」というと「株主のため」となります。そうすると、世界的に金融コストが下がっていく中でも無理やり回転させたり、商品を売らないといけない、というジレンマが生まれる。私だけのプライベートカンパニーであれば、短期的には利益が出なくても自分がぐっとこらえればいいだけなので、そちらのほうが私には合っていると思ったのが本当の理由ですね。
岡崎:それが「お客様に最高の提案を」というところに繋がってきているのですね。
一大産業となったマンガ・アニメに求められるニーズとは
岡崎:昔は、マンガもアニメもいわゆる「オタク層」がターゲットだったのですが、近年はかなり一般的になってきました。たとえば、ソニーがアメリカのアニメ配信会社を買収するなど、マンガ・アニメはニッチなマーケットではなくなってきた印象があります。そして日本でも、マンガアプリがかなり巨大産業となってきていますね。
世古口:マンガアプリ市場は、どれくらいの規模なのでしょうか?
岡崎:今は5千億くらいです。伸び率がすごく、2025年には1兆円近くなるとも。オタクだけではなく、一般の方々も読むようになってきたので、マンガの作り方も工夫されてきています。
世古口:アプリの普及は大きいですよね。けど、やはり海外資本が強いようですね。LINEもピッコマも出自は海外ですし、日本企業も頑張ってほしいところです。マンガアプリですと、タテヨミなどの新しい潮流もありますよね。
岡崎:あまりマンガに触れてこなかった人や海外の人は、普通のマンガをどう読めばいいのかが分からないそうなんです。また、雰囲気だけでサラっとマンガを読みたいというニーズもあるので、そういったことを解決するために生まれたのが「タテスクマンガ」ですね。なにかをインプットするというよりは、暇つぶしや娯楽に寄った使い方です。逆に、本当にマンガを好きな人はタテスクは好きじゃないという声も。
世古口:マニアのマンガ層とマス層とでは、ニーズが少し違うのでしょうか。
岡崎:ニーズはかなり違うと思います。今回作らせていただいたマンガは、ただ暇つぶしに読んでもらうというよりは、ある程度インプットしてもらうという狙いもあるので、一般的なスタイルのマンガをご提案させていただきました。
面白くないと意味がない!エンタメ性を重視したユーザー目線のマンガづくり
岡崎:私たちは、企業様の課題解決や、社内改革のためバリューを全社員の共通認識にするためのマンガを作っているのですが、企業様の想いや制約が多すぎて、マンガとしてはおもしろみに欠けることもあるというのが課題でした。
そんな中、ウェルス・パートナー様にご相談いただき、エンタメ性を強くして「とにかく興味を持ってもらおう」という目的でマンガを制作するという話になりました。まさに私が「社長になったらこういうことをやりたい」と思っていたことを実現できたので、非常に嬉しく思います。
世古口:たしかに、企業のマンガって独りよがりになってしまいますよね。
岡崎:ブランドイメージなどの制約があるためですね。世古口さんのように、とにかくユーザー目線で伝えたいことの根本だけを押さえて、あとは楽しく作っていこう!という企業様は多くありません。
ちなみに、エンタメメインということで、「入れたいことが入れられなかった」ということはありませんでしたか?
世古口:入れたいことは十分加味して頂いていると思います。「ここはこれくらいにしておいた方がいいです」というのはありましたが、そこはプロの技だと思っているので、基本はお任せしました。「これを売りたいんじゃないか」と思われないくらいの自然なテイストで作ってくださっていると思います。
岡崎:1話が配信されてどうなるか、非常に楽しみですね。
世古口:SNSやYouTubeなど、色々な媒体でPRしながら、ちょっとずつ見ていただければと思います。
岡崎:また、これまでは「企業様をマンガ化したビジネスマンガ」と「エンタメに特化したマンガ」の中間を作るというのがとても難しいと思っていたのですが、これを機に弊社もそのようなマンガを増やしていければと思っています。
世古口:若い経営者は、「読んで面白くないと意味がない」という方が多そうですね。
岡崎:ユーザー寄りの考え方ができる若い経営者様で、社会や一つの市場を変えたいという思いがある方には、すごく色々なことが提案できると思います。
YouTubeやTwitterを活用した「SNSの掛け算」で、マンガコンテンツを盛り上げたい
岡崎:トレンド・プロでも、私が主導で社員向けの勉強会を開催するなど、投資リテラシーを高める取り組みをしています。実は、私は株式投資が非常に好きなんです。社員に話を聞いてみたところ、株や投資に興味のある者は多かったのですが、始めるまでのハードルが高いということが分かったんです。なので企業型拠出年金を勧めたりしました。
ただ、知識がない私が人に教えるのは危ないな、と思いまして。投資方法に正解はないという前提で説明はするものの、知識のない人には私の言葉がそのままインプットされてしまう。それはよくないですよね。そこで、世古口さんのYouTubeで前提知識を勉強しました。もちろん絶対の正解はありませんが、ある程度の知識を得られたことで、社員に質問されたときにも答えられるようになり、知識が蓄積されてきたなと感じます。
世古口:投資についての話をすること自体もリスクと考えられがちなので、言わない人が圧倒的に多いと思います。自分のアドバイスを信じて誰かが損をするって、怖くないですか?
岡崎:日本人はあまりお金の話をしないですが、私はお金の話をオープンにするということを大事にしています。ですが、私の話で損する人が出たら、それはよくないことです。そのため、ある程度の知識を持ってアドバイスしないとよくないな、という思いが非常に高まりました。自分自身、なにが分かっていないかも理解できましたし、「これが絶対正しいよ」という言い方もしなくなりました。最終的には本人が意思決定をするので、“情報提供する”という形にならないといけない。
世古口:選択肢を与えるのが大事ということですね。成功体験があると、勧めるときに「これは間違いないよ」と言ってしまいますし、言われた人も「そうなんだ」と思ってしまうので、それはお互いにとってのリスクですよね。
岡崎:YouTubeを始められたのは、そのような影響を期待したのでしょうか?
世古口:私たちの仕事は「お客様に会う」というのがベースです。そのため、コロナ禍でどうしようかとなっていたとき、他社でリモートのウェビナーを始めている企業が多かった。そこで、うちも始めてみようかとやってみたところ、1回のオンラインセミナーで400~500人くらい集まったんです。リアルで開催してもいつも10~20人くらいなのに。笑
岡崎:手軽さが魅力だったんでしょうね。
世古口:在宅時間が長いことで、改めて運用のことを考える機会にもなったんでしょうね。そのようなわけで、気軽に勉強ができるというニーズがあるんじゃないか、と思い至ったのがYouTubeを始めたきっかけです。今ではYouTubeからの問い合わせが一番多いですね。
岡崎:運用について本当に知りたいと思っている、コアな層が見ているということですね。
世古口:問い合わせいただいた方からの成約率はかなり高いです。しっかり動画を見た人が、内容を理解したうえで問い合わせてくださる。YouTubeは素晴らしいツールだと思います。
岡崎:YouTubeは、マスにやるビジネスだとひろがりがないところが唯一の欠点だと言われますが、登録した方や関心の高い方は絶対に見ますよね。
世古口:そうですね。マンガもただ電子書籍で発行するだけでなく、
TwitterやYouTube、Facebookなどで発信することで「SNS的な掛け算」になれば、拡散力も高いのではないでしょうか。
岡崎:マンガという媒体にした理由はなんでしょうか?
世古口:私自身もマンガが好きですし、小さい頃から活字があまり得意ではなかったので、日本史や世界史などの勉強はマンガから入ることが多かったんです。金融も資産運用も小難しい部類の話になると思うので、入りやすさやハードルの低さなどが大事かな、というところでマンガに行きつきました。
岡崎:「これを真似てみたい」というマンガ作品はあったのでしょうか?
世古口:『正直不動産』には影響を受けていますね。不動産の話をマンガ化できるんだったら、証券でもいけると思いました。
ウェルス・パートナー広報 有愛:「経費で落としていいから、社員全員『正直不動産』を読め」と言っていましたよね。笑
世古口:うちは不動産のビジネスもやっていますが、不動産について詳しくない人も多いので、いきなり宅建を取るよりはマンガの方が分かりやすいですよね。
岡崎:ユーザー心理をこれで掴め、ということですね。
読者の意識を「ちょっと変える」ことで、次の行動に繋げていく
岡崎:マンガを通じて伝えたいことをお聞かせいただけますか?
世古口:正しい知識を学び、正しい投資をしていただきたいなと思います。提案される商品には、どうしても販売者の都合が入っているものですが、その都合が自分にとって最適かどうかは別の話。鵜呑みにせず、自分にとって必要かどうかを判断できるくらいの知識を身につけられるようになっていただきたいですね。ネットで商品を買える時代なので、それくらいのレベルまでいけるといいかなと思います。
岡崎:証券会社に対して伝えたいことはありますか?
世古口:日本の投資家にとっては、証券会社が間違いなく最大のプラットフォームなので、証券会社が変わらないと証券マンも変わりませんし、日本の投資も変わらないと考えています。近年は、より良い金融サービスに向けて金融庁や財務局なども改革を行っているので、日本の投資も徐々に変わっていくと思います。
岡崎:マンガを読んだことで起こる読者の行動変容について、期待していることをお伺いできればと思います。
世古口:マンガによってその人の人生そのものを変えられるとは思わないですが、少し変わるだけでも影響はすごくあるんじゃないでしょうか。たとえば、ただ売りたいものを売っているような証券マンがこのマンガを読むことで、「お客様のことをちゃんと考えないと」と思ってもらえたら。
なので、「ちょっと変える」というのが目的ではあります。たくさんの人の意識をちょっと変える。すると、そのインパクトが何千億とかに達する可能性もありますよね。「このマンガでこう言ってるけどどうなの?」となったら嬉しいです。
岡崎:マンガが有名になることで、投資家と証券マンの両方がこのマンガを読み、共通の情報を持っているという前提があれば、話がスムーズにできるので最高ですよね。また、「もうちょっと調べようかな」となったり、情報の理解度が上がったり、そういうちょっとの変化が何年後かにはすごく大きな変化に繋がりますよね。マンガをそのように使ってもらえると非常に嬉しいです。
世古口:ちょっと意識が上がれば行動が変わり、その人の人生自体が変わる可能性もありますしね。20~30代なら、これからの時間も長い。そうして積み立て投資を始めるのと、全く何もやらないのとでは、その差は大きいと思います。
岡崎:昔と比べて、日本人の投資に対する意識は上がってきているのでしょうか?
世古口:個人金融資産に占める株式の割合は、少しずつ上がってきています。アメリカなどに比べるとまだまだ低いですが、若い人の投資も増えていますし、変わりつつあるのではないでしょうか。
岡崎:私の父がそうだったのですが、証券マンに薦められて知識のないままに運用し、損をするということが続いた結果、「もう絶対にやらない」となってしまったんです。「失敗したからやりたくない」という人は多いかもしれませんね。
世古口:自分もリスクを理解したうえで投資したという納得感があれば「しょうがない」となるのですが、誰かを信頼して完全に任せると、失敗した時に裏切られたと思ってしまう。今の証券会社の顧客は、メイン層が50~70代です。そうなるとやはり複雑な商品は理解しにくいので、何も分からないまま投資しているという方は多いと思いますね。
岡崎:投資の口座開設が増えてきているのは、そのような“悪い時代”に触れていない20~30代が増えていることも一因なのでしょうか?
世古口:そうですね。また、若い人たちは人任せにせず自分で選んで投資しているので、投資リテラシーは結構高いと思います。こういう人たちがお金を持つ時代になってくると、日本の未来も少し明るくなりますね。うちのお客様も、リテラシー高めの若い世代の経営者が多いです。
岡崎:「何も分からないからお任せするよ」というよりは、ある程度理解したうえで「これはもう依頼した方がいいな」という若い方が多いということですね。
世古口:今は情報があふれているので、色々なものと比較ができます。なので、こちらが提案しても「こっちがいいんじゃないの?」と言われたり、要望はかなりハードです。でも、そのような要望に応えることで私たちもレベルが上がるので、こういう方々が本当のお客様だとは思いますね。
岡崎:今後の展望をお聞かせいただけますか?
世古口:証券会社や、IFA業界の同業他社との差別化を図っていくという意味でも、マンガをはじめとしたコンテンツやYouTubeチャンネル、SNSをもっと充実させていきたいです。そして、楽しく投資を学んで資産を増やし、最後にはうちのお客様になってもらうという流れを作れると嬉しいです。また、マンガが上手くいけば、続編など次の展開も考えられるので楽しみです。証券マン編をやったので、次はプライベートバンカー編、いずれはIFA編も作りたいですね。
岡崎:世古口様の本業であるIFAの認知度は、世間的には低いのでしょうか?
世古口:IFAは証券会社ほど認知されていないですね。また、証券会社なら社内のしがらみ、プライベートバンクなら超富裕層のお客様についてなど色々なネタがあるのですが、IFAは自由な業界なので、ドラマがあまり無いんです。どういう展開が面白くてマンガに適しているのかなどは私たちにはわからないので、ぜひご意見を頂ければなと思います。まずは証券マン編をしっかりと完成させてから、次の展開を考えていきたいですね。
岡崎:IFA編など、次のステップの投資マンガもぜひ!こういったマンガをフックとして、投資への意識を「ちょっと変える」ことで、日本全体の投資リテラシーを上げていきたいですね。まずは私自身が投資に関する知識を増やすだけではなく、社員一人ひとりも投資リテラシーを上げられるようなきっかけ作りをしようと感じました。今回は貴重なお話をありがとうございました!