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Vol.1 ゴジラVSキングギドラ

脚本・監督/大森一樹 特技監督/川北紘一 製作/田中友幸        1992年、東京上空に巨大なUFOが出現。そこには2204年から来たという未来人ウィルソン(チャック・ウィルソン)、グレンチコ(リチャード・バーガー)、エミー(中川安奈)が乗っていた。21世紀に復活するゴジラに破壊された原子力発電所の核汚染によって、23世紀に人類が死滅すると予言する彼らは、恐竜が核実験でゴジラ化する前にワープし、ゴジラを歴史上から消滅させようと計画。ルポライターの寺沢健一郎(豊原功補)らを仲間に加え、1944年のラゴス島へワープし、ゴジラの誕生をくい止める。だがそこへ三匹の小動物を残してきたことから、それがキングギドラとなって現代によみがえり、日本は再び恐怖の底へ。彼らの本当の目的は、赤字国の国土まで買い占める超大国になった23世紀における日本の国力を低下させるためにあったのだ。しかしエミーは彼らの計画に内心反発しており、アンドロイドM11(ロバート・スコットフィールド)を味方につけると、寺沢らにその計画を打ち明け、ウィルソンらと対決する。そのころベーリング海で原子力潜水艦が原因不明の遭難事故を起こす。未来人によりラゴス島の恐竜はベーリング海へトランスポートされていたのだった。そして、一度は消滅したゴジラが、キングギドラの出現に引き寄せられるかのようによみがえった……。

 M11がエミ―に修理されるところが、やや『ウルトラセブン/第四惑星の悪夢』っぽいと思っていたら、何のことはない、どちらも元ネタはジャン=リュック・ゴダールだったというお話。
 ただ、『第四惑星の悪夢』が『アルファヴィル』に依りすぎて、バランスを著しく逸しているのに対して、『ゴジラVSキングギドラ』は怪獣モノとしての結構を一応整えており、そのことが却って、この映画が孕んでいるディストピア的世界観から観客を遠ざけているのは皮肉といえば皮肉である。

 エミ―については、ゴダールのみならず手塚治虫からの引用も明らかだが、これは1988年頃、大森一樹が実写版『鉄腕アトム』(アトム役は斉藤由貴を想定)という一大暴挙を企てていたときのアイデア も紛れこんでいるのだろう。また、同じ頃、大森一樹が、村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』(これも元ネタは『アルファヴィル』だろう)を映画化しようと企てていたときのアイデアも流用されているはず……。

 ちなみに、上原正三の著書『金城哲夫 ウルトラマン島唄』には、こんな一節がある。「私もヌーベルバーグに傾倒していた。ゴダールの『勝手にしやがれ』や大島渚の『青春残酷物語』に興奮していた」と。もちろん、『勝手にしやがれ』はジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ主演であるが、上原正三が他のゴダール作品、たとえば『アルファヴィル』の主演女優であるアンナ・カリーナに惹かれていったことは想像に難くない。そして、これとは別に大森一樹も(その芦屋の中学校の先輩である村上春樹も)『アルファヴィル』に惹かれたのだ。

 まとめてみよう。『ウルトラセブン・第四惑星の悪夢』でのアニー(脚本ではアリー 演:愛まち子)、『イナズマンF』でのカレン(鳥居恵子)は、いずれも脚本家・上原正三の色あいが濃かった。
 そして、ヒロインの名をエミー・カノ―(中川安奈 =アンナ・ナカガワ)という女が『ゴジラvsキングギドラ』(脚本・監督:大森一樹)には登場してくる。中川安奈の父・中川晴之助は、『金城哲夫 ウルトラマン島唄』にも登場している。これは偶然の一致だろうか?
 それとも、円谷一、飯島敏宏、実相寺昭雄、そして中川晴之助らTBSの監督がゴダールに着目していたのは明らかだから、必然であろうか?

 もうひとつある。『新ドイツ零年』(1991年)という映画がある。ビデオ邦題は『ゴダールの新ドイツ零年/レミー・コーション最後の冒険』。これにはアンナ・カリーナは登場しないが、エディ・コンスタンティーヌは、『アルファヴィル』からちょうど25年の年月を経て、ふたたびレミー・コーションを演じている。そして、レミーはこう言うのだ。
 「人生におけるドラゴンとは、我々が美しく、勇気ある者になるのを待ち望む王女である」
 これを東宝流に翻訳すると、(人生におけるキングギドラとは、我々が美しく、勇気あるボディガードになるのを待ち望む王女である)

 『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)の監督・本多猪四郎や脚本家・関沢新一の預かり知らないところで、こうなったのだから怖いじゃないか!
九十翁のゴダールはまだ生きているが、さすがにこの件でインタビューを申し込む気にはならない。


《『アルファヴィル』からの怪獣モノの系譜 ただし上原正三以外の脚本家は、日本における先行者を知らずにゴダールを模作していたと見える》

『アルファヴィル』(1965)フランス=イタリア合作 ショミアーヌ・プロ=フィルム・ストゥディオス 日本配給1970年ATG 脚本・監督/ジャン=リュック・ゴダール 出演/アンナ・カリーナ(ナターシャ役)

『ウルトラマン/地上破壊工作』(1966 円谷プロ)脚本/佐々木守 監督/実相寺昭雄 出演/アネット・ソンファーズ(アンヌ・モーハイム役)

『ウルトラセブン/第四惑星の悪夢』(1968 円谷プロ)脚本/川崎高(実相寺昭雄)・上原正三 監督/実相寺昭雄 出演/愛まち子(アニー役 注:脚本では「アリー」役)

『ファイヤーマン/地球はロボットの墓場』(1973 円谷プロ)脚本・出演/岸田森 監督/大木淳 出演/芦川よしみ(少女役 注:粟屋芳美名義)*敵宇宙人は「バローグ星人」

『ウルトラマンレオ/美しいおとめ座の少女』(1974 円谷プロ)脚本/奥津啓二郎 監督/前田勲 出演/松岡まり子(カロリン役)

『イナズマンF/さらばイナズマン ガイゼル最期の日』(1974 東映)脚本/上原正三 監督/塚田正煕  出演/鳥居恵子(カレン役)

『ガンヘッド』(1989 東宝)脚本/原田眞人  ジェームズ・バノン  監督/原田眞人 出演/水島かおり(イレヴン 役) *本作も『アルファヴィル』から引用していると、原田眞人は言う

『ゴジラVSキングギドラ』(1991 東宝)脚本・監督/大森一樹 出演/中川安奈(エミー・カノー役)

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