見出し画像

明治の心霊奇術:物品取寄術 稲荷魔術

トザキマジックスクールの戸崎です。
「奇術研究を読む」と題して、Youtube上で昭和のマジック雑誌『奇術研究』を毎回一号ずつ紹介する企画を行っています。この記事では動画内から1トピックを取り上げて紹介します。また、公開の動画や記事では話しづらいマジックのトリックに関する部分は有料としています。

動画自体に興味がある方は以下からご覧ください。

物品取寄術とは

さて、今回のテーマは「物品取寄術:稲荷魔術」についてです。
このマジックは名前の通り、空の箱から様々な物が出てくる、というマジックです。いわゆるプロダクションマジックと呼ばれる現象です。

この「物品取寄術:稲荷魔術」は、当時は心霊術という文脈で行わていました。現代のマジシャンの感覚からすると、物の出現がなぜ心霊術なのかと疑問に思う事でしょう。少し背景を説明します。

心霊現象としての取り寄せ

欧米を中心にスピリチュアルブームは、1848年に起こった有名なハイズビル事件がきっかけです。アメリカの郊外、ハイズビルという村に引っ越してきたフォックス家の姉妹が不思議な音を聞きました。これがいわゆる「ラップ音」というもので、机を叩いたような音がどこからともなく聞こえてくる現象です。

どうもこの音は霊が出しているものらしく、呼びかけるとラップ音で返事をしてきました。この事は大変に話題になり、心霊現象はブームになり、各地に霊と交信できる霊媒師が出現し、多くの交霊会が行われました。

その後、交霊会で起こる心霊現象は徐々にエスカレートし、ラップ音が鳴る、だけではなく、霊は楽器を鳴らし、テーブルを浮かし、物を動かします。つまり、徐々に物理的に現世に影響を与えるようになっていきます。

霊そのものが実体化したり、何らかの物質を表したり取り寄せたりすることは心霊現象の中でも高度な現象といえます。1875年に行われたセーヤーの交霊会では何もなかったテーブルに美しい花々と鳩が取寄せられ、1903年のチャールズ・べーレイの交霊会では小鳥2羽、鳥の巣、草花など21点が取寄せられたとの記録が残っています。

日本での発展(明治・大正)

「物品取寄術」というマジックもこの心霊現象の流れを組んでいます。このマジックを話題性のある出し物として完成させたのが明治の奇術師、亜細亜マンジでした。亜細亜マンジはまず空の箱を見せた後、観客からリクエストを受け、リクエストのあったものを箱の中から取り出す「一里四方物品取寄術」を行い人気を博していました。これはつまり、一里四方にあるものであればどんなものでも取り寄せてみせよう、という体で行っていました。

その後、大正の時代に神道斎孤光という奇術師がこの物品取寄術を「稲荷魔術」と題して演じ、大成功をおさめます。空の箱の中から観客のリクエスト通りの物を取り寄せる術は、お稲荷様の力によって行われているのだ、という演出です。

実際に取り寄せられた物はあるお寺の香炉や地蔵堂の線香立て、有名店の掛け看板や暖簾などといった、一点物などもあったというから驚きです。まさにマジックを超えた神通力としか言いようのない現象といえます。

さて、以下は実際にトリック部分に触れる為、有料記事にします。具体的な解説ではないので、このマジックを演じたい方は別途お調べいただくか、お問い合わせください。

ここから先は

1,258字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?