家族〈万引き〉
今日、近所のスーパーで万引き事件があった。
わたしがちゃんと万引きをしたのは、16のときだ。
当時通ってたブタとサルしかいない語学系の女子高は3年間で62日しか行かず、バイトの時間まで台東区あたりを徘徊してるのが常で。
その日は上野に居た。
アメ横を歩き、みはしであんみつを食べ、ふらりとABABへ入った。
入り口付近で、北海道展だかがやっていた。
高級メロンがズラリ。
1玉、手にとってみた。
ずっしり。
そして、ほんとに、なんとなーく、なんとなーくメロンをお腹に忍ばせ、そのまま店を出た。
すぐに背後から騒がしい足音が近づいてきた。
あっという間に両脇を抱えられ、地下の保安室へ。
万引きGメンのおばさんは、トトロに出てくるばあちゃんによく似た大仏だった。
机を激しく叩きながら「あんたね!なんで盗んだ?ええ?」
騒がしい大仏。
なんでメロン盗んだなんてわからないよ。
うんともすんとも言わない私のカバンを探りながら顔を真っ赤にする大仏。
不謹慎ながら、笑いを堪えるのに必死。
もう堪えられない…むりだ…と限界が来たあたりで、迎えが来た。
父だった。
職人父は、家に月2程度しかいない人だった。
そんな父がきたのだ。
さすがに笑えなくなった。
父は何度も頭を下げていた、と思う。
メロンを買い取ることを条件に解放された。
地上へと上がるエレベーター。
何も喋らない父。
メロン売り場でお金を払う父。
ABABを出ると外は暗くなっていた。
父の5歩後ろを歩く。
しばらくして父が、
「どうせなら一番高いメロンにすればよかったのに」
『え?』
「俺は一番が好きだ」
『うん…』
父はそう言っただけで、怒らなかった。
母にも言わなかった。
ふたりだけのはなし。
アレ以来、一切万引きはしていない。
万引き家族。
そういえば是枝さんの新作楽しみだな。
初日に観に行こうっと。
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