モチベーションを維持する方法を重職心得箇条 佐藤一斎 第13条から学ぶ。
管理職とは、上司と部下の間に位置する、真ん中を担うポジションなので、自分より上の人間と下の人間の両者と、バランスをとりながら付き合う必要がある。
上に傾きすぎてもダメだし、下に傾きすぎてもダメ、絶妙なバランス感覚が大切だが、バランスをとりすぎると逆に硬直してしまい「事流れ主義」に陥ってしまう。
傾きすぎると、「あの部長は、専務の顔色ばかりうかがって仕事をしている。全然オレ達の方見ていないよね。」
「部下に嫌われたくないから、言いたいことが言えず、リーダーシップに欠けている人間だ」となり、
硬直すると、「あいつは誰にでもいい顔をしやがる。」となる。
下手すると、上からも下からもクレームを言われ、ストレスが蓄積するばかり。バランスを整えるのは非常に難しい。
それではどうしたら良いのだろうか。
重職心得箇条 第13条をテーマとして考えてみたい。
政事に抑揚の勢いを取る事あり。有司上下に釣り合いを持つ事あり。能々(よくよく)弁(わきま)ふべし。此の所手に入て信を以て貫き義を以て裁する時は、成し難き事はなかるべし。(重職心得箇条 第十三条)
(訳文)マネジメントにはバランス感覚が大切だ。
相手を褒め過ぎてもダメで、相手を認めず怒ったり、忠告するばかりでもダメ。褒めたり、忠告したりと、バランスをとらなければならない。
これを、上下の人間関係に行わなければならないのが、重職の仕事なのだ。
それには、上下の人間性を理解しながら、バランス感覚を大切にして、言うべき時は、ガツンと自分の言いたいことは通すこと。
筋の通ったマネジメントをすれば不可能な事はない。
本日の勉強会の講師役を担当してくれた、乙田景樹氏はこのように解説してくれた。
バランスを2点で考えるから傾きやすい。
考慮すべきこと、それは全体のバランス力だ。
土地人民は天の賜物。
故に、組織の上と下で考えるから傾きやすい。
これから必要なものは、ステークホルダーの利益バランスを考えた経営ではないか。
ステークホルダーとは、企業活動における利害関係者のすべてを指す。つまり、株主、経営者、従業員、顧客、取引先全体を考えた利益バランスの重要性を乙田氏は指摘した。
従来のアメリカ型の経営は、ストックホルダー重視、つまり株主重視型であり、経営陣は上(株主)の利益を追求しながら企業活動を行うことを求められてきた。この構造が、現在のアメリカ社会の深刻な社会問題にも起因している。
日本は、アメリカ型ではないとは言いながらも、経営者が学ぶビジネス理論の多くがアメリカ製であるため、どうしても上層部に傾きがちな経営になりがちだ。
今の時代それを見直さない限り、限界が生じるのではないか。
ステークホルダー型経営こそが、これからの経営に必要な理念である。
モチベーションは継続させなければ意味がない
幾らモチベーションを高めても、それを高い水準で維持させない限り、経営には還元できない。
折角仕事に対する意欲、モチベーションに火がついても、その火を絶やさず継続させない限り、企業活動に生かせない。
モチベーションは、「働かされている」と感じた途端に低下する。
そのため、モチベーションの維持に必要なものこそ、この「バランス感覚」である。
モチベーション維持に必要なのは、「自らやっているという自主性」であり、それには、「何のために頑張るのかという信念」が必要になる。
スポーツ選手に置き換えてみると分かりやすい。
例えば、バスケット選手のモチベーション。
本人はバスケが好きで、仲間と共に試合に勝つぞ!というモチベーションで頑張っているのに、下手な指導をされて、「やらされている感」を感じてしまうと、モチベーションは低下する。
コーチからみたら、「もっとこうすれば伸びるのに」と思う指導でも、本人の心を置いてけぼりにしてしまうと、逆効果。
期待しているからこそ、やり方に口を出すのだが、相手に「やらされている感」を感じさせてしまうと、本人のモチベーションは下がってしまう。
それでは、どうしたら彼らのモチベーションを維持できるか。
「バスケ選手はもてるぞ、地区大会何かに出たら、他校の女子からも注目されるぞ」という狭い目標から、少しずつ、「県大会に出たら、ご家族も嬉しいだろうなぁ。」「レギュラーになれなかったメンバーの為にも、チームに勇気と自信を与えてくれ」と、自分達だけではなく、自分という存在が、色々な人に影響を与えるんだという気持ちに鼓舞しながら、少しずつ高い目標に誘導していく。
これが、いきなり八村塁みたいになれって言ったって、「身長違うし、才能ないし、無理だよ。」と逆効果。
つまり、会社(学校)のためだけでは、モチベーションは続かない。
顧客(応援してくれる人たち)のため、社員(先輩・後輩、同級生)のため、取引先のためという、ステークホルダーの利益バランスのためだと思うことが、モチベーション維持に繋がるのだ。
つまり、管理職(重職)が気にしなければならないことは、上司と部下との関係など、狭義なものではない。
企業活動におけるバランス感覚そのものであり、株主優先の考え方(ストックホルダー)からステークホルダーへと意識を拡げることが大切だ。
全体の利益のバランスを考えた経営体制こそ、真のマネジメント能力ではないだろうか。
モチベーション継続には三方よしこそ大切だ!
これは、近江商人の「三方よし」と同じ概念だ。
「三方よし」の場合の三方とは、「売り手」「買い手」「世間」。
つまり、売り手と買い手が共に満足し、さらに社会貢献もできるのが良い商売であるという概念で、このバランスこそが、「モチベーションの継続性」である。
幾ら「この素晴らしい商品を販売しよう!」とモチベーションがあがっても、上司に厳しい数値目標を設定されると、いつの間にか、「売らねばならない」「売らされている」という意識に変化し、モチベーションは低下していく。
「ニンジンをぶら下げて走るか」というと、人間は馬と違うから、最初は走っても走り続けなくなってしまうのだ。
それではどうすれば走り続けるかというと、「自分が好きで走っているという自主性」が大切で、この自主性を育てる歴史的手法が、「三方よし」の考え方なのだ。
自分のためというよりも、誰かのためと意識をもっていった方が、人間は動きやすいし、動かしやすい。
そして「売り手」「買い手」「世間」ではなく、「世間」「買い手」「売り手」と順序を変えて行うこと方が、バランスがとりやすい。
そしてもう一つ、必要なことは、社員自らの「気づき」である。
管理職が自らプレゼンして、これをやれといっても、それは「気づき」にならず、「やらされている」になってしまう。
無駄な時間だと思っても、ワークショップをしたり、時間をかけながら最初のプレゼンテーションは彼らにやらせて、そこに「気づかせて」いく必要がある。例え斬新なアイデアが盛り込んでいなくても、目的は「自分たちでやっている感」なので、彼らが組み立てることに意義がある。
ただ一つこの方法には欠点がある。
アイデアやコンセプトは経験豊かな上司がだしたものであるのに、彼らが組み立ててしまうと、彼らは「自分たちのアイデア」だと誤解して、それを上司がかすめ取ったと認識してしまう。それを避けるには、日ごろから上司部下の関係ではなく、師弟関係を構築するしかないだろう。
最後に言志録からこの言葉を掲載したい。
聡明叡知にして、能く其の性を尽くす者は君師なり。君の誥こう命めいは即ち師の教訓にして、二つ無きなり。世の下るにおよびて、君師判る。師道の立つは、君道の衰えたるなり。(言志録 第177条)
聡明かつ叡智な上司とは、上司(リーダー)と教師を兼ね備えた人物である。そうであれば、上司(リーダー)の言っていることは、即ち教師からの教訓であるから素直に受け止めるのである。本来、上司とは同時に教師(師匠)であったが、時代が経るに従いこの役割は分化していった。それにより、上司と部下はもめるようになったようだ。
一般社団法人数理暦学協会
山脇史端
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