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第15話 企画展のテーマを決める

 これまで、170個を超える企画展(第3話参照)を作成し、その関連のテキストを124号(第9話参照)作成しました。

補足:企画展の数とテキストの数がなぜ合わないのかと言いますと、企画展の中には写真や収蔵標本を展示するだけの展示や他館などの展示、企画展初期はテキストを作っていなかったためで、ゼロから自らで調べて企画展を作ってテキストを作るようになって作ったのが124個の企画展ということになります。ただ、テキストだけを作って企画展を開催できなかったものもありますけど。

 これら企画展のテーマは生物や植物、化石、岩石、菌類に至るまで様々で、自分でもよくこんなに作ってきたものだと思います。

 ただ、個人的には特に調べたいことなんてないし、誰かに相談することもできないので、毎回企画展のテーマを決めるのは苦労するのです。既に170個以上の企画展を作ってきたわけですから、お気づきの方もいるかと思いますけど、もうテーマなんて思いつかないのですよ。。。

 それでも、仕事ですからどうにかしてまずはテーマを絞りださないといけません。企画展を作る時に決めていることは、

1.今の自分がまったく知らないと思う内容
2.この展示を作っておくと今後便利だなと思うもの
3.生物進化の過程でこの分類群をちゃんと理解しておかないといけないと思うもの
4.技術と知識を習得しておきたいもの

この「4つの決まり」のどれかに則ってテーマを決めるようにしています。

決まり1の例:
コムカデの企画展は、この生き物は国内で研究例がほとんどなく、自分もまったく知らなかったので企画展を作りました。
決まり2の例:
ホタル籠の作り方の企画展は、作り方を詳しく紹介したテキストがあれば、教室などで便利だな~と思ったので、企画展を作りました。
決まり3の例:
イシノミやシミは昆虫の進化を理解する上でちゃんと知っておかないといけない分類群なので、企画展を作りました。
決まり4の例:
岩石薄片の作り方の企画展は、岩石薄片が作れるようになって、ちゃんと理解しておくと岩石の名前がより詳細に区別できるようになるので、薄片作りの技術と知識を習得したいと思って企画展を作りました。

 正直言えば、自分の専門だけをやっていたら、文献も集めなくていいし、標本もあるし、データもあるので楽だと思いますけど、テーマを決める時の自分が決めた決まりを守らないといけませんから、今の自分がまったく知らないものをテーマにしないといけません。

 ただ、ここまで読んで、さらにお気づきの方もいると思いますけど、自分が知らないもの、というのは難しいのです。なんといったって、知らないのですから。
 ただ、「無知の知」と言いますか、知らないものを知ると、知っているのものよりも少し成長できるような気がしますので、知らないものを知るようにしています。

 さて、企画展は2週間で作ると決めています。ただ、その前の2週間で少しずつ勉強をはじめます。ですから、企画展作りというのは実際は1か月だらだらとやっているわけです。ただ、企画展を作るまでの2週間の勉強というのは、テーマを固めるという意味もありますので、その間にもっと面白そうなテーマがありましたら、それに変更しますから、実際に企画展自体を作り始めるというか、調べ始めるのは2週間ということになるのです。

 なお、ふつうの博物館でしたら年度計画というのがあって、それに合わせて予算を組んで、準備して企画展を作るのです。ただ、当館も公立の博物館ですから年度計画というのはあるのですが、一つの企画展の予算というのはだいたい数千円ですから、特に計画通りに作らなくても問題ないのです。材料は外で拾ってきて、それを解剖したり、写真撮ったり、模型を作ったり、電子機器を作ったり、映像を編集したりしてすべて自分で作りますから、特にお金もかからないというわけです。

 そして、そろそろ次の企画展のテーマを決めないといけません。年間10個のテーマの異なる企画展を作らないといけないのです。。

さて、次は何をしましょうか。。

 最初に思いついたのは、「ミツバチの企画展」でした。近くの養蜂家の方のところにミツバチがいて、協力してもらえそうでしたので、最初はミツバチで企画展を作ってみようと思いました。でも、少し調べてみるとミツバチはとてもよく調べられていて、今更調べても仕方ないかな~と思うようになりました。ミツバチの簡単な解説チラシは作ろうと思いますけど。次に思ったのが、「ジャンプする昆虫の企画展」でした。少し調べるとジャンプする昆虫の脚の中の構造というのは興味深い仕組みを伴っているようでした。でも、案外、種類が多いようで、安易な気持ちで手を出すと火傷しそうな気がしましたので、諦めました。次に考えたのが、「口の細長い節足動物の口の企画展」でした。ギボウシヤスデやチョウ、カ、カメムシといろいろといるので、面白そうでしたけど、細長い口だけだと、展示室の空間を満たす自信がありません。テキストを作ることは、それほど難しくないのですけど、展示となると空間を展示物で埋めないといけないので大変難しいのです。。。そして、次に考えたのが「触角と尾角の企画展」でした。これなら、できそうかな~と思っていましたが、「いや、待てよ、、、尾角をテーマに入れるとなると、あの生き物のことを理解しておかないといけないぞ!」ということに気づきました。
 その生き物は「コムシ」という、原始的な昆虫のような生き物です。これまで、コムシの企画展はやったことがないし、この生き物のことをまったく知らないのです。この生き物は、企画展のテーマを決める時の「4つの決まり」の中の、そしてに該当します。

 そして、現時点では、次の企画展(令和4年度秋季企画展)は「下関のコムシ」に決まったのでした。
 「決まったのでした」って、他人事のように言っていますが、この虫をこの広大な台地の中から見つけ出し、採集して、調べて、展示物とテキストを作っていかないといけません。実際、この生き物をあまり野外で見たことも採ったこともありません。さて、できるのでしょうか?

まぁ、いつもこんな感じです。